自力で強くなった男
最初は勇者として召喚されたんだ。
だから圧倒的な膂力も、魔力も、剣の技術も、魔術の才能も、全ては周りから与えられた借り物。全部俺自身の力じゃない。
そう考えると怖かった。いつかこの力がなくなって、何もできない自分になるのが。
どれだけ必死に勉強しても、修業を積んでも、満足することは決してできなかった。だってその成果も勇者としての加護がによるものだとしたら、きっと何の意味もないから。
だから願った。
どうか一年。いや、半年でいいから、なんの加護もなく普通の人生を過ごさせて欲しいと。
「――ん?」
そんな時、俺は自分の能力を表示してくれる魔法の板――ステータス画面に新しい項目が増えていることに気付いた。
勇者の加護:ON
まさかと思って、その項目をOFFに切り替えてみる。
直後、俺の身体がほんの少しだけ重くなったような気がした。慌ててステータス画面を確認してみると、俺の全能力値がかなり大幅に減少している。
この時の複雑な気持ちはきっと俺にしか分からないだろうな。
やっぱり加護がなければこんなものかという落胆と、確実に修行の成果が出ていると実感できたあの喜び。
俺はとにかく後者の気持ちを忘れないようにして、その日からずっと勇者の加護を切ったまま修行の日々を送ることにした。
それから三年。
俺の全能力値は全盛期にはあと一歩及ばないものの、それなりに近い数値にまで叩き出すことに成功した。
ある日。魔王がとんでもない儀式を成功させた。
それは魔族の領域に入った勇者の加護を封印するというものだった。
おかげでこの世界に召喚された百七十三人の勇者はいつまで経っても魔王城まで辿り着くことができず、勇者の価値は一方的にダダ下がりになってきた。――俺一人を除いては。
「ば、馬鹿な! 勇者の加護は封印したはず!? なぜ貴様だけそのような力を!」
「簡単た話だ」
俺は素手の拳で魔王の腹に風穴を開ける。
「――ぐはぁあああああ!?」
「俺は自力で強くなったんだよ」
******
「――っていう夢を見たんですよ。勇者になってるヴィラン様はとっても格好良かったです!」
「ふーん。でも現実の俺は悪党だから。なんなら永眠して夢の中の俺と結ばれればいいんじゃないかな?」
「それって遠回しに告白してます?」
「んなわけねぇだろ!」
俺は阿呆なエリーの夢物語に付き合わされて内心うんざりしていた。
そもそも大悪党を目指している俺様がなんでこんな馬鹿の相手をしなくちゃならないんだ。そういうのは正義馬鹿の聖騎士様にでも聞かせてやってくれ。
あー……くそ。今から遺跡の盗掘に向かう予定なのに、こいつを連れて行かなきゃならないなんて考えただけでも腹が立つ。
悔しいが、今回の遺跡は『巫女の一族』であるこいつがいないと扉が開かないらしいからな。本当や嫌だが仕方がない。
「ヴィラン様! 聞いているんですか! 式はいつ挙げましょうかって聞いたんですよ!」
「まだ続いてたのかその話! だから違うって言ってんだろ!?」
「またまた~! 本当にヴィラン様はツンデレさんなんですねぇ!」
「こいつマジぶん殴りてぇ……!」
まったく。この馬鹿がいる限り俺の平穏な日々は帰って来ないんだろうな。
あ、でも本編じゃメインヒロインじゃなかったりするんだっけか?
とにかくこれは、俺というとある悪党の苦労話である。
そういう話だった。




