Task1 依頼主を捜し出せ
そこは、初心者がまずログイン時に現れるエリアから徒歩で30分ほどのところにある村だった。村の名前は、西大久保の村である。このゲーム、公式が病気と言われるほど、町村やダンジョンの名前が大抵酷い。
村の入り口に三人のプレイヤーが立っていた。
「ここが西大久保の村か。世話になったな」
堕天使マークⅡが、二人のプレイヤーに言った。
「おうふwwwwww大したことではないでござるよwwwwww」
「そうですぞ。このゲームは、初心者にはやや厳しいところがあるですぞ」
「プレイヤー同士、助け合って当然でござるよwwwwww」
ゆっくんとダン☆ティが、頭を押さえながら少し照れた様子で答える。最も、被り物をしているので表情は見えない。
二人は、この西大久保の村にまで堕天使マークⅡを案内してくれた。なんでも、二人は初心者プレイヤーを手助けすることを趣味にしており、道案内やシステム説明をしているらしい。道中でも、おすすめのスキルやレベリングエリアを教えてもらっている。優しい世界である。
「このゲームの醍醐味は、まだまだいっぱいあるでござるから、やりこんでほしいでござるwwwwwww」
「そうそう、それに最近では、聖女様も人助けしているですぞ」
「聖女? 」
プレイヤーの名前だろうかと、不思議に思ったが、ダン☆ディが説明を続ける。
「聖女は通称でござるwwwww苦戦しているプレイヤーに、回復や補助魔法をかけてくれるプレイヤーでござるよwwwww名前やパラメーターは隠匿スキルで隠しているでござるから、本当のプレイヤー名は不明でござるよwwwwww」
「なるほど」
「聖女様に出会うと良いことがあると言われているでござるwwwwwどこのエリアにも出てくるでござるから、出会えるといいでござるなwwwwww」
「ではでは、小生達はこれにてですぞ。”聖女の加護あれ”」
「”聖女の加護あれ”wwwwwwwwwwwwwwww」
「ああ」
そうして、二人のプレイヤーは今流行っている別れ言葉を口にして、足元に魔方陣が現れて姿が消えていった。瞬間移動魔法で移動していったのだ。ちなみに、瞬間移動魔法は、他人を一緒に連れて行けないため、ここまでは徒歩で来るしか無かった。
「さて、クライアントを捜さなければ」
この堕天使マークⅡの正体は、パンティ・スーと呼ばれるビヨンドである。今回の任務の舞台は、この電子の世界だった。空や草、土、木々、建物と質感は本物そっくりであるし、時々吹く風は涼しく感じられる。
生前もVRMMOはプレイしていたが、数々のゲームでアカウント禁止措置をうけてきたので、こういった電子の世界は久しぶりだった。彼がなにをやらかしたのかについては、割愛である。
パンティ・スーが辺りを見回すと、村人らしき人々が何人か確認でき、それぞれ、井戸の水をくんだり、世間話をしたりしているようだ。
その中の一人、一人で居る少女に近づく。
「こんにちは。ここは西大久保の村です」
少女はにっこりと微笑みながら、NPCのような台詞を言った。
「ご機嫌は如何かな?私だ」
迷惑行為としての通報も恐れずに、パンティ・スーはいつもの不可解な挨拶をした。
「……あなたがビヨンド? 」
少女の様子が変わった。若干、挨拶にドン引きしているのは気のせいだろうか。だが、西大久保の村でNPCの振りをしているプレイヤーに接触しろと言われているので、間違っていないはずである。そして、少女もそういう風に指示した。
「いかにも。依頼内容を聞きたい」
「場所を移しましょう。宿に案内しますね」
場所は変わって、宿の一室だ。少女は、二つの魔法を唱える。一つは、一定範囲の音を漏らさないようにする消音。もう一つは、周囲のプレイヤーやモンスターの気配を探る探知の魔法。いずれも盗賊系の魔法である。
これで、周りに人がいないこと、隠密スキルで隠れていたとしても、会話が洩れなくなった。
「随分と念入りだな」
「念には念を入れています。廃人系のド変態プレイヤーが幾らでもいますからね」
「ふむ」
リアル変態行為で、通報されまくって垢バンを食らってきた彼は、そこまで一つのゲームをやり尽くすほどプレイしたことはない。プレイしたゲームの数だけなら多く、レビューサイトを作ってしまったほどである。最も、どのゲームのパンティの描写がリアルかというレビューであったが。
「さて、依頼ですが」
少女は、改めてパンティ・スーを見つめる。
「聖女を撃破してください」
つい先ほど聞いたばかりの名前が出てきた。