Intoro ならず者たちの企み
遠くない未来では、VRMMOが台頭していた。
そのゲームの一つに『Noise of Suspicion』がある。
桁外れに広大なマップに、無数のダンジョン、あえて職業システムを廃し、パラメータの振り方次第で様々な系統のスキルを獲得でき、戦士や魔法使い、魔法剣士、僧侶等々の戦い方を選べる一方で、農民や漁師、猟師、村人とった過ごし方も可能とした自由度に人気がある。
当然のことながら、それだけではプレイヤーは増えない。GM主催の数々のイベントが連日のように開催されている。スタンダードなところでは、ギルド対抗のサバイバルマッチであったり、珍しいところでは、水着のみ着用可能の水泳大会が開かれたりする。一風変わったイベントも人気の理由の一つだ。
ゲームとしての人気は高く、ハイレベルプレイヤーが普段は農民として生活したり、表では正義の賞金稼ぎプレイをしつつ、変装スキルによって別プレイヤーになりすまして暗殺者プレイをしたり、教会で暮らしている修道女が夜は悪役令嬢等々、ダブルライフプレイが最近では流行っている。
そのゲームでは、初めてのプレイでは例外なく共通のエリアにたどり着く。そのエリアは敵がいないため、大抵はゲームを始めた初心者ぐらいしかいないエリアだ。
そこに魔方陣が浮かび上がり、一人のプレイヤーの姿が現れた。
真っ赤なコート、真っ赤な手袋、真っ赤なハット、真っ赤な靴、全身深紅の男だ。プレイヤー名は”堕天使マークⅡ”と表記されている。
そのプレイヤーから離れること100メートルほどのところに、二人のプレイヤーがいた。二人とも筋骨隆々とした男性のアバターである。一人は、ブーメランパンツと鉄仮面だけをした”ゆっくんさま”、もう一人はスクール水着にタイツと頭には馬のかぶり物をした”ダン☆ディ”というプレイヤーだ。
このゲームの売りの一つに、様々な衣装が用意されている点も含まれる。そして、鍛冶、装飾、錬金術スキルを高めていけば、店売りのなんてことのない衣装もハイレベルクラスの性能にまで高めることが出来る。
一見は、露出が多く防御力が低そうであるが、例えばゆっくんさまのブーメランパンツはあらゆる状態異常に高い耐性を誇り、当然防御力も高く、軽い故に高い回避力も両立している逸品である。
最も、ファンタジー空間が壊れるという理由で、自由度の高すぎる装飾システムに眉をひそめるプレイヤーも居るのだが。
「おうふwwwww! デュフフフフwwwwww! ダン☆ディ殿、なにやら初心者プレイヤーのようでござるwwwwwww! 」
ゆっくんさまが、草を生やしながら堕天使マークⅡを指さす。
「確かに、衣装を凝っているようですが、初心者のようですぞ」
馬のかぶり物をして、どこからどう見えているのか判らないが、ダン☆ディも気がついてうなずいた。
「初心者プレイヤー相手にすることは一つでござるよwwwwwwwww」
「そうですぞ。そうですぞ。初心者はカモでですぞ! 早速いくですぞ」
「へっへっへっ! でござるよ」
二人が、怪しげな視線を初心者に送る。
ちなみに、この二人のプレイヤーは上級者プレイヤーである。
堕天使マークⅡは、キョロキョロと辺りを見回しながら、なにやら薄っぺらい青い板を宙に浮かべている。このゲームでのメニュー画面だ。そして、見ているのはマップ画面のようだ。しかし、残念ながら、このゲームでは、地図を買うか、地図関係のスキルをとって作るかしなければマップを見ることが出来ない仕様である。初心者は、格好こそある程度自由に設定できるが、それ以外はほぼ丸裸でゲームの世界に放り出されるのだ。
「少々よろしいでござるかwwwwwwwww」
「何、ちょっと初心者に用があるだけですぞ」
赤衣のプレイヤーは、サングラス越しに二人のプレイヤーを眺める。近づいてくるのは気がついていたようだが、無視していたようである。赤衣のプレイヤーも背は高い方だが、二人のプレイヤーはさらに高く、筋骨隆々としてごつい。
「では、早速でござるwwwwwwwwww」
二人のプレイヤーが、相も変わらずに怪しげに笑った。