Task3 追っ手を待ち受け、報酬を手に入れろ
「ここまでだ、ジョージ・斉藤っ……え!? 」
魔法(二丁拳銃)使いの少女の声が倉庫の中に響く。だが、倉庫に中には、パンティ・スーと馬の居ない馬車、それと幾つも積み上げられた木箱置かれているだけだった。冒険者達が求めているジョージ・斉藤は、場所を変えて取引を行っている。
「ご機嫌は如何かな?私だ」
相も変わらず不可解な挨拶であるが、パンティ・スーが銃弾型のビーコンを見せつけるようにかざす。
「やはり馬車に撃ち込まれていたこれは、発信器だったようだ。いや、正確には追跡する魔法と言ったところか? 興味深い」
「な、気がつかれた!? 」
「もしも逃した場合の保険だったのだろうな」
「あなた、傭われでしょうけど、奴がどれほど危険な品を扱っているかご存じで!? 」
エルフの娘がスナイパーライフルを構えながら問いかける。
「知りはしない。私はただの賞金稼ぎだ」
「無責任なっ! 今度こそ、倒す。そして、奴の居場所を吐いてもらう! 」
魔法使い風の少女の言葉とともに、五人が散って陣形を組む。
「確認させてもらう」
女戦士が、またアサルトライフルを向けてぶっ放してくる。それにして、パンティ・スーは右手を自身の胸元に当てているだけだ。
弾丸が飛んで、パンティ・スーに直撃していくのだが、衝撃すら感じさせずに悠然と立っている。
「やっぱり。弾丸は、貫通しているのではなく、透過していく……つまり、貴様は、自分の体を幽体化しているな! 」
「御名答」
魔法使いの少女の問いに、パンティ・スーは深くうなずいた。彼が持っているスキルは、手で触れたものを幽体化するものだ。自分の体を触れれば、幽体化して物理的干渉を不可能にし、相手の持つ銃に触れれば、相手は幽体化した銃に触れることが出来なくなり、引っこ抜かれてしまう。
「さて、どうする? また同じようにっ」
「これがある」
かけ声と銃声にパンティ・スーの言葉は遮られた。そして、パンティ・スーは、今度はリボルバーから発射された弾丸をよけた。
「くそ。気がついたか! 」
「なるほど。対亡霊用の洗礼弾か。それならば、物体化、幽体化を問わずに干渉可能」
聖教会が、この世ならざる者を討伐するために作った、洗礼済みの銀の弾丸である。
「なるほどな。なるほど。このスキルも無敵ではないということか。面白い」
一人納得するパンティ・スーに五人の冒険者達が銃撃を食らわしてくる。どの冒険者もリボルバーによる攻撃だ。連続して、弾丸が迫り、パンティ・スーは馬車を盾にして姿を消した。グレネードが馬車に直撃し、馬車は木っ端みじんに吹き飛ぶ。しばらくして煙が晴れるが、そこには馬車の残骸だけが残っているだけだ。
「どこにっ、きゃあ! 後ろ! 」
ドワーフがエルフの少女に叫ぶ。いつの間にかパンティ・スーはエルフの少女の背後に立っていた。そして、右手をエルフの少女に向けている。
「そろそろ、反撃させてもらおう」
「や、やられっ! 」
パンティ・スーの右手が一閃、だが、エルフの少女に変わったことは無く、パンティ・スーはそのまま女戦士に向かって飛んだ。銃を撃つ瞬間に、パンティ・スーは床の中へと潜り込んでいった。
「な、幽体化して、地面の中に!? 」
「再度、御名答」
とパンティ・スーは女戦士の足下から姿を現し、再び右手を一閃し、床の中へと潜り込んでいく。
それが、ドワーフ、亜人、魔法使いへと同じように行われ、パンティ・スーは再び姿を現した。
「な、何をした! おちょくっているのか! 」
「否、これを頂戴した」
とパンティ・スーが掲げるのは色とりどりの小さな布切れであった。
「え!? ま、まさか」
エルフの少女が、自身の太ももの付け根に手をやると、顔を赤らめて声を震わせながら叫んだ。
「な、な、な、ない!? 」
「え? あ、本当だ!? 」
「え、嘘」
「や、やだ」
他の仲間達も同様に確認して悲鳴を挙げていく。
パンティ・スーが、幽体化させてパンティだけを抜き取ったのだった。このためだけに、このスキルを選んだと言っても過言ではない。
その様子をパンティ・スーは冷静に眺めて、そして女戦士が履いていた真っ赤なパンティを手に取ると、悠然と躊躇うことなく口元に押しつけて深呼吸をした。
クンカクンカ。
「あ、て、て、テメェ、ななななな、なにを!? 」
女戦士が唖然としつつ、顔を耳まで真っ赤にしてパンティ・スーに指を差した。
「3日ものといったとこか。素材は綿。女戦士だけに動き回るから汗をよくかくのか? ほどよく熟成されており、微かな刺激臭がアクセントを与えている。カシスに似たフルーティさがあり芳醇で重厚、ほんの僅かにハーブ石鹸の痕跡が残るが、これも全体の風味を整えるのに一役買っている」
パンティ・スーはまるで、ワインでも評論するかのようだった。そして、次から次にパンティの評論を始めだした。
「青のティーバックか。エルフの少女よ、意外と大胆だな。香水の香りか? 柑橘系、レモンとオレンジを合わせたような香りは、ツタが絡まる巨大な木々とシダ植物が繁茂する太古の森を思わせる。石鹸と汗の香りの比率がまた素晴らしい。まさに黄金比と言っても過言ではない」
「次はこのドワーフの水色のローレグ。こちらも案外に大胆な選択だ。意外にも素材は絹であり、雲一つ無い地平線まで続く大草原の冷たいそよ風を思わせるさわやかさでありつつも、大地を感じさせる仄かな土の香りもあり、それらが複雑に絡み合い、上質で繊細な味わいを演出している」
「さらに、白のブラジリアン。亜人種だけに野性味に溢れ、大胆な重厚さがあり、ややチョコレートのようなビター。やや好き嫌いが分かれるだろうか。だが、すっきりとした後味は何度でも嗅ぎたくなる魔力がある」
「そして、魔法使いよ、履いていたのは白と青のシマパンだな。基本を押さえているな。白と青色の幅のと本数のバランスが絶妙だ。履いたときの絶対的三角形は完璧とも言って良いだろう。良い仕事をしている。香りはレモン系の柑橘系のさわやかさとカシスの芳醇さと苦みが複雑なハーモニーを奏で、まるで滝の下で冷たいしぶきを浴びているかのような清涼感すら感じられる。これは嗅ぐ者を至福へと誘う、これが宇宙と言っても差し支えなかろう。パンティとは宇宙であり、宇宙とはパンティなのだ。まさにパンティの至宝とも言うべき品! 」
冒険者達は、口を開けて、ワナワナと羞恥に震え、目の前の変態を睨み付ける。
「初仕事にしては十分だ。依頼も果たした。報酬も頂いた。では、ご機嫌よろしく」
「こ、こ、この、へ、変態!!!!! 」
「死ね! まじ、死ね!」
「つーか殺す! 」
5人のノーパン冒険者達の罵詈雑言を軽やかに流し、パンティ・スーは微笑を浮かべながら紳士的に一礼すると、そのまま床の中に潜って消えてしまった。
こうして、パンティ・スーの初仕事は終わったのだった。
余談であるが、ジョージ・斉藤は密貿易に懲りたのか、これ以降、密貿易からは足を洗い、食品や香辛料の貿易を始め、薄利多売ながらも利益を上げ続ける。そして、安く七味を手に入れることができるようになったことで、うどんはさらに広まったという。