不可能ー可能空間
今は実験段階だと言われたが、やってみずにはいられなかった。
何せ、百年に一度とか言われるような大発明だ。
今まで現実世界でできなかったことが、することができるという話を聞いて、私は早速その場所へと向かった。
「あの、取材の申し込みをさせていただきました、手野テレビの……」
「あーあーあー、話は聞いてますよ。さあ入って」
受付のおじさんは気さくに声をかけて、私をそのベンチャー企業の社屋へと入れてくれた。
客人案内中という看板を、受付のところに置いていたのを、私は見逃さなかった。
「ここで、ちょっとお待ちください」
案内先は、全面白色のタイル張りの部屋だ。
数分待ったら、さっきのおじさんの代わりに、白衣の人がやってくる。
せいぜい30歳だろう。
20歳でも通用する顔立ちで、イケメン男性だ。
思わず惚れてしまいそうになるが、グッと我慢して、握手のために手を差し出す。
「申し訳ない」
彼が両手の手のひらを私に見せると、手袋をしているようだ。
「あ、申し訳ありません」
手を引っ込めて、互いに挨拶をすると、本題へと入る。
「今回開発なされたものは、どちらになるのでしょうか」
「この部屋ですよ」
「この部屋、が、今回開発された機械、ということですか」
私は思わぬ答えに、周りを見回してしまう。
「ええ、この部屋こそが、不可能ー可能空間、略してIP空間です」
そして、試験も兼ねてと言って、彼が手を広げた。
「ほら」
炎が掌の上で踊っている。
「触っても……?」
「ええ、大丈夫ですよ」
触れようとすると、わずかな温みしかない。
まるで空気を触っているかのような雰囲気がある。
「どうやっているんですか」
宝石を見つけた時のように、私の顔は輝いているだろう。
だが、その秘密は教えてくれそうにない。
「秘密、です」
特許出願中で、詳しくは教えられないらしいが、視覚と脳とその他に調整を加えているらしい。
それだけ知れただけでも、良しとしようということで、私はそれから少し体験させてもらってから、テレビ局へと戻った。