終章 《戦後処理》歴史のページがまた1ページ
終章
「えへへへ、それじゃプレイボール! もう見てるだけじゃ、つまらないモンね!」
(黄蜘蛛の若かりしき頃の台詞)
後日談――あるいは、次の物語へのプレリュード
《シフラン》で勃発したクーデター未遂事件は、条約機構軍と金星政府の中で極秘裏に処理される事となった。今回、関っていたのが金星人ばかりであった事が功を奏したのであろう。
《シフラン》は機関部の事故によって爆発消滅と公式発表をされた。その際に正規兵士38名、民間人14名が爆発に巻き込まれ死亡したと添えられた。
今回の件に関った民間技術者の多くは、金銭で手打ちをし、幾人かは条約機構の研究施設への勤務で手を打った。この辺りは、金星人特有のドライな打算的な感覚が良い方へ作用したのだろう。
逃亡した正規兵は、脱出艇の多くが拿捕された事で逮捕されたそうだが、レイヴンの乗った高速連絡艇の行方は知れず、それだけが懸念材料であった。
そして、マリオ・ヘルカッセらにも事態の変化があった。
「――シルフィードへの乗艦を依頼したいのです、貴方たちに」
「正気ですか、ミスタ・サドヤマ? 先週、軍艦に乗って殺されかけた我々に、再び軍艦に乗れと?」
ここは金星首都にあるハミルスター社客室。
デューイ・ハミルスター、マリオ・ヘルカッセ、ノヴ・ノリス、セヴン・フォレスト、ラモン・イバレスの5名と、金星政府高官2名が会合の席を設けていた。
「ええ、そうです。今回の件でシルフィードに乗船する予定であった将兵の大半が、要調査人物として除外されました。我々としては、信頼のできる方をシルフィードに乗艦して頂きたいのです」
「状況は理解しますし、貴方たちの立場も理解します。ですが、なぜ我々なのです? あらかじめ云っておきますが、軍人なんぞクソ食らえと我々は思っています。ハッキリ云えば、協力する気などないのです」
「金銭的な契約の他に、金星政府は貴社の違法行為に目を瞑りましょう」
「……脅迫、ですかな?」
「《シュガー・シュガー》を敵に回すつもりはありませんよ、我々は。ただ金星政府としては、今回の件で大きく条約機構に借りを作りました。これを返すには、目玉であるシルフィードに優秀な人材を送り出す必要があるのです」
「私が旧金星軍の無人艦隊の管理者であった過去を知っていても?」
「優秀性を証明する過去の逸話に過ぎません」
「なるほど。そうですね、条件次第で引き受けてもいいでしょう。ただ、そちらの二人は我が社の人間ではないので、確約はできません」
デューイはそう云うと、マリオとセヴンに意識を向ける。
「好き勝手やらせてくれるなら、やってもいい。気に入らない事があれば、艦を降りる。それが条件だ」
「了承しましょう、ヘルカッセ」
「シルフィードって三隻造るんだったけかにゃ?」
「そうです」
「なら地球産のシルフィードにも乗れるかにゃ?」
「できればVシルフィードに乗って頂きたいのですが、金星の技術者の優秀さを証明する意味では、他星のシルフィードに乗船していただく意味もありますね」
(優秀って、この女を乗せる気か? この口調だぞ、おい)
4人の男の思考が共鳴する。
「じゃぁ、地球産のシルフィードなら、乗ってやってもいいじょ」
「決まりですね、では詳細を詰めましょう」
かくして、マリオ・ヘルカッセ、ハミルスター社の5人の社員がVシルフィードに乗船する事となり、セヴン・フォレスト、レイ・クロースらはEシルフィードへと袂を分かっていったのである。
宇宙暦312年4月、歴史から抹消された事件だが、この事件が後の歴史に大きく関る。
だがこの時、その小さな波紋がやがて大きくなる事を、彼らは知らなかった。