第十三話
基裏は相手の行動に戸惑いが隠せなかった。それも、相手がどう出てくるかなんて全く予想ができないということ。
「おい、どうしたらいいと思う。あいつらの行動は今までのとは比べ物にならないぞ。人間として完璧になりつつあるぞ」
完ぺきではないときのクローンを見たことがあるからこそ、わかること。
「マジかよ。俺たちが小さいときは全然人間と見分けがつかないほどじゃなかっただろ」
亮は知っていた。昔からクローンを相手に戦ってきたからこそ、今のクローンの性能が上がっているというだけでなく、人間を超えることがあることも。
「とりあえず、体制を整えないとやばそうだぞ。このまま突っ込んでも殺されるか、捕まるかだぞ」
「そんなこと言ったって、どこに逃げるんだよ。廊下は長いだけなんだぞ」
「だとしてもだな」
『俺らには体制を整えている時間はなさそうだ。そのまま突き進むしかないぞ』
「じゃあ、行くしかないな」
基裏は隠していた身体を相手に見せつけて、持っている銃の銃口を相手に向けた。
「堂々と出たら、危ないだろ。殺されに行く気かよ」
「男というものは、堂々と出ることも重要だぞ」
「なんか、久しぶりに基裏がかっこいいこと言ってる。珍しすぎてまずし――い」
メンタル面を攻撃したことに少し怒りを感じたのか、銃口を向けた状態で一発放った。
「俺の怒りというものを受けてみなさいな。これは効いているんじゃないか」
「そうかもね。相手の体が少し解け始めたな。だから、銃が持てない状態になっているみたい」
『よくやったぞ。野郎ども。感謝の気持ちが浮かばないな』
「「それはそれで、アウトだなおい」」
亮と基裏の声はハモった。それもいい感じにだ。感じたことは同じだったらしい。祐泉寺は何もしなかった。それなのに、変なことを言うからこそむかついたのかもしれない。
「なんで言葉は浮かばないんだよ。俺がとびれなかったら、どう見ても殺せなかっただろ。相手を戦闘不能にできなかっただろ」
「おいおい、仁王立ちしていると次のやつに撃たれるぞ。言っているそばから」
銃を構えていた二人のうち一体は戦闘不能にしたが、もう一体が基裏を狙って打ってきた。それを亮がはじき返した後に、銃口を合わせて相手を戦闘不能へと持ち込んだ。
「とりあえず、こんなもんだろ。それよりも早く回収しないとな。周りの液体をさ」
特殊な弾で戦闘不能となったクローンの液体を試験管に入れた。この液体が後々役に立つわけだ。今後の研究に……。
「液体もゲットしたことだし、あいつらを全員破壊した後に、研究員の逮捕か」
「そこまで順調に行けばいいがな」
亮の言葉は基裏には重く感じた。
一方、美優と真理亜は正門付近で警報が聞こえた。
「まさか何かやったのかな。あの二人は」
「それはありますわよね」
美優と真理亜は感じ取れた。あの二人ならやりそうだということを。仲がいいだけじゃない。
「それにしても、どうなっているの。警報で私たちの存在がばれるなんて」
「そんなこと言われましても、わたくしにだってわからないのですよ」
美優と真理亜は完璧な作戦が失敗した理由がわからないらしい。それもそうのはず。セキュリティキーが原因であるから。
「そんなことより、私たちがいる場所がばれたらやばいんじゃない。早く戦闘態勢に入るようにしないといけないじゃない」
「そうですわ。今こそ、わたくしたちの力を見せるときですわ。いつもいつも同じような強さと思いきや、今までよりも強くなっていますもの」
「その強気な姿勢はどこから出てくるのか知りたいくらいだわ」
どうやら、美優には真理亜の根性がどこから出てくるのか全く分かっていないようだ。
「そんなの分かり切っていることではありませんか。相手が強いほど燃えるということを」
「何かを見すぎてる気がするのは私だけ?」
「どうでしょうね。わたくしにはそんなことが分かりませんので」
「そうね。お嬢様みたいのがわかるはずがないものね」
美優は真理亜と無駄話をしていても時間がもったいないと考えたので、話を切り上げるために少し棒読みになっていた。それに気が付く真理亜は敵に目を向ける。
「今こそ、わたくしの実力を見せる時が来たようですから、頑張りますわ」
「せいぜい、頑張ってもらえると助かるよ」
さっきから話を聞く気がない美優は銃口を敵に向けていた。
「もうそろそろ突入ね」
少し重い鉄の門は三~四人はいないと動かないところを、二人で動かしてしまった。
「行くわよ。真理亜。早く壊すの」
「わかっていますとも。この銃弾が当たれば即死ですものね」
美優と真理亜はほかの部隊と一緒に正門にいる警備兵どもを片っ端から撃ち落としていく。そして、そこには死体だけが転がっていて、不気味だ。そして、玄関のガラスにはたくさんの銃弾のほかにクローンから出た血がびっしりこびりついていた。
一方、直哉は裏から攻めるために様子をうかがっていた。そんなときに正門付近からすごい音がした。
「どうやら、戦闘が始まったみたい。僕も頑張らないと行けたみたいだね」
直哉は腰につけた銃と警棒のうち、警棒を使って裏のドアを壊すことにした。裏側だけあって、ごみとかを処分するためのドアが一つあり、それが鉄のドアでしっかりとしていた。
「これくらいなら破壊できるかも」
直哉はほかの部隊の人と協力して、鉄のドアを破壊することにした。それにしても、普通にけっても壊れそうなのにけりを加えただけでは直哉の足が痛くなるだけで、頑丈だった。
「まさか、ここまで頑丈とは」
「たぶん、この警棒なら壊せるんじゃないですかね」
直哉とともに行動することとなった青少年警備隊の一人が差し出す。それは直哉が持っているよりも強力な力を感じた。
「なんでこんなのを持っているのかな?」
「それは、僕たちが裏からサポートするのが専門で、ドアに鍵がかかっているときに普通に壊せるように渡されているんです」
「へぇ――、そんなやり方をやっているんだね。僕たちとは全く違うんだ」
直哉の青少年警備隊は、意外と問題児が集まっていることもあり、前方から突入することが多いため、銃が強化されている。だが、逆の立場ではその仕事に適した武器を渡されているというわけだ。
「とりあえず、使ってみようか。それでどうにか侵入しよう」
ほかの部隊の人たちは警棒をドアの隙間に入れるような感覚で警棒は細く変形した。そして、目の前にあるドアを後ろに引っ張ったところ、簡単に開いてしまったのだ。
しばらく更新できませんでしたが、やっとの思いで更新です。今までよりも少し長めになりましたが……。それにこの話のスピード遅いと思っていると思いますが、いろいろな視線で書いているもので。それでは次回はやっと進むところかもしれませんよ。