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禍神の英雄伝  作者: わたあめ
一章
9/17

老騎士その2

クリアが剣を抜き出したことでその場の雰囲気が一変する。

騎士らもアーシェもマーガレットも騎士長さえも息を飲む。

クリアが剣を握った瞬間、首元に剣を当てられるような錯覚に襲われたのだ。クリアがその気になればこの場にいる人を全て一瞬で屠られるだろう。ゆったりとした構えからそんな雰囲気が漂わせている。


これが魔剣聖の持つパッシブスキルの一つである常時威圧である。

剣を構えるだけで他人に恐怖を植え付けるというスキル。大軍を相手する際に絶大な効力を発する。


剣をぶら下げながらクリアはゆっくりと騎士長に近づく。一歩一歩と。

死が近付く。圧倒的な力を持つ剣聖が近付く度に騎士長の心拍数が上がる。背筋が冷や汗をかく。視界が霞み、身体が恐怖に震える。本能の裡から怯え切ってしまっているのだ。クリアという男の存在を。


「うぬう!儂が恐怖震えるとは数十年振りじゃい!だが!儂はいつだってそれを乗り越えてきたんじゃ!」


騎士長は震える両手を喝を入れてしっかりと握り直す。クルセイダーの切っ先がクリアへと向ける。轟々と燃え盛る炎の飛び火が風に乗ってクリアの顔へと流れていく。


「騎士長、俺の一撃を防いでみろ。これが剣聖の領域に住まう人外の力だ」


「かかって来い!小僧!」


「行くぞ」


言うが早いかクリアは駆ける。瞬間移動と思わせるほどのスピードで騎士長に迫り、クリアは剣聖の奥義である"幻影乱舞ファントムソードラッシュ"を繰り出した。

剣の軌跡に幻影が幾つも連なる。振るう腕にも幻影が遅れて追う。青白い輝きを放つ幻影はやがて──クリアから分離する。


「うおおおおおおお!!バーニングファイヤー!」


自身の身体を激しく燃え上がらせて対抗すべく騎士長も剣を振るう。横殴りするようにクルセイダーを乱暴に右から左へと横一閃に走らせる。対するクリアは下から振り上げるように剣を地面すれすれで上へと走らせる。

そしてクリアのすぐ後ろには前へと剣を突こうとする幻影。


「な!」


短い攻防の中で騎士長は顔を驚愕で染まる。

身体はもう動作に入っている。もうガードするには間に合わない。クリアの眼光が騎士長を貫き、死の気配をぐいと近付かせた。


騎士長のクルセイダーを掬い上げるようにクリアは剣を振り上げ、クルセイダーを弾き飛ばす。そして、真後ろの青白く輝く幻影は目にも留まらぬスピードで剣を突き出した。

騎士長の顔面に向かって爆発的なスピードで迸る鋒。

だが、騎士長とて負けられないのだ。

最後の最後まで諦めんと騎士長は腹の底から絞り込むようにありったけの魔力を込めて唱える。


「バーニングファイヤー!」


騎士長の身体が更に炎に包まれる。下手ななまくら剣ならばこの時点で融解してしまいそうなほどの熱量を漲らせる騎士長。

思わずの抵抗に幻影の鋒は逸らしてしまう。騎士長の頬を掠め、一筋の傷が伝うが気にしてる場合ではなかった。

そしていつの間にか騎士長の手には炎で出来た剣を握られていた。

だが、返す刀でクリアは炎の剣に向かって上から剣を振り下ろす。

炎の剣と紫の剣が交差し──炎の剣が霧散してゆく。


「!」


騎士長の顔が再び歪む。


「終わりだ」


クリアの声と共に騎士長の腹部に衝撃が貫いた。

修行僧モンクの掌打をクリアは騎士長の腹に打ち込んでいたのだ。

騎士長を護る炎は青白く輝く幻影の鋒で気脈を渡らせることで無効化したようだ。


最初からクリアはそれを狙っていた。

常時威圧で殺されると勘違いさせる事で騎士長の全力を引き出し、それを上回る試合を見せたかったのだ。


今までに味わったことが無い衝撃を腹に貫かれた騎士長は一瞬にして意識を手放した。

膝から崩れ、前のめりに倒れて行く騎士長を、クリアは片手で受け止める。


「お疲れ」


と同時に騎士らの歓声が飛び出す。


「す、すっげええええええええ」


「あの騎士長が何もできないまま負けるとはな!」


「騎士長は英雄の領域に片足を突っ込んでるような武勇の持ち主だっていうのに!」


「北のドラゴンを追い払った騎士長が!」


「あいつは一体何者なんだ!」


騎士らにクリアという存在が広まる。

騎士長を一瞬で倒した謎の人物として。


「マーガレット...。クリア様の強さは...」


アーシェが眉を顰めてマーガレットに耳打ちするように言う。

あまりにも強すぎたのだ。アーシェの予想してたよりも遥かに。手駒になるにはあまりにも過ぎた強大な力。身の丈を超えた力は自身を滅ぶからだ。


「アーシェ...。祖父はシャンデラ王国が誇る騎士長だ。強さも王の近衛兵にも劣らないと見ていい。それを軽くあしらえるほどの力は...恐らくは魔王並み。いやそれ以上の存在」


マーガレットもアーシェに耳打ちする。


明るい表情となって騒いている騎士らとは違い困惑顔を浮かべる二人。


「クリア様の手綱をしっかりと取らねばならないようですね...」


「あぁ、アーシェ、お前に同情するよ。剣聖殿の力はあまりにも危険すぎる。剣聖殿の剣がここに向けたら一巻の終わりだからな」


「...頑張ります。アーシェも一緒に頑張りましょう!とりあえずクリア様のところまでいきますか!」


「ふ、剣聖殿に修行をつけてもらうとするよ」



片手に眠る騎士長を眺めて、クリアは実に落胆していた。本当にがっかりした顔で誰も聞かれないようにため息を吐く。



騎士長の実力はそんなものか、と。


ならば、騎士はどれだけ弱いんだ、と思ってしまうクリア。


期待してたよりも予想を下回る力。魔法騎士の割りには火力不足。本来ならば魔法で牽制をしつつ、剣で斬りつけるというヒットアンドアウェイ戦法が一番向いているのだ。

ゴリ押し戦法は邪道。初心者が犯しがちな初歩的なミス。

ゴリ押しがしたければ戦士ウォリアー狂戦士バーサーカーの方が向いている。


よし、騎士長も騎士も職業ジョブのイロハを叩き込んでやるか!と心の中で決心し、クリアは騎士らの声援に応える。

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