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禍神の英雄伝  作者: わたあめ
一章
3/17

憂う騎士

「本当やるつもりなのか、姫!」


純白の甲冑を着込んだ女の騎士が声を荒げてそう言った。その拳は己の無力を悔しんでいるのか強く握り締められている。


「えぇ、マーガレット。私はやらねばならぬのです。パラドクス連邦に宣戦布告された今、もはや選択の余地はありません」


マーガレットと同じか少しだけ年は下だろうその顔は決心に満ちた顔をしていた。垂れ目気味の双眸をしっかりとマーガレットを見て、さらに言う。


「それに召喚するのに必要な物は王家の者しか使えないってマーガレットも知っているでしょう」


「だが...!万が一失敗したら姫は!」


「確かに私は死ぬことになるでしょう。ですが何もしなければこの国は滅びます。兵士達が命を投げ売って戦って貰っている最中に何もしないというわけには行きません」


姫がマーガレットの両手を取り、それを優しく包み込む。


「マーガレット、貴方は本当によく私を助けてくれました。これからもよろしくしてもいいでしょうか?」


「っ...あ、あぁ...!姫...いやアーシェ、私はお前を守る。最後の最後までお前の剣となりお前の盾となり戦い続ける」


まるで今際の言葉にマーガレットは強く言えなかった。それまでにアーシェの覚悟は強いのだ。自らの命を犠牲にしてでもこの国を救いたいという意思にマーガレットは何も言えないのだ。

マーガレットもアーシェの為なら死んでもいいと思っている。アーシェも同様に国の為なら死んでもいいと思っているのだ。


「そう言ってくれて嬉しいです、マーガレット」


そう言ってアーシェは破顔する。マーガレットにしか見せない心の底からの笑顔だ。


「私もアーシェの側にはいられて幸せだ。少々お転婆なのが困りものだがな」


マーガレットも微かに微笑んでアーシェの両手を握り返す。


「ふふ、それは言わない約束でしょう!さあ、行きましょう。召喚の間へ」


「ふ...。了解」


皇女とともに騎士は今いる皇女の部屋から王城の地下にある召喚の間へ向かう。

それが最後になるかもしれない。二人ともわかっていた。故に地下にたどり着くまで思い出話に花を咲かせていた。


召喚に用いる王家の触媒。それはこの国を造った初代王が遺したと言われている神話クラスのアイテム。それは奇妙な形をしていた。細長い四角い物体。上面に約12個のボタンらしきものがついていた。ボタンの上には液晶がはめ込まれている。


「ここが召喚の間...」


息を飲むようにしてマーガレットが言った。

アーシェも何も言わないもの目を丸くさせていた。


殺風景とは程遠い、派手な装飾を施した支柱があちこち天井を支えており、中心には眩い輝きを放つ五芒星が描かれていた。

大きさは十メートルくらいだろう。

だが驚くのはその大きさではない。驚くべきは今尚輝き続けている五芒星だ。

召喚の間は王家の者でも立ち入ってはならぬ、と誰も入れずにいた。八百年以上も。

八百年以上も輝き続けている五芒星を書き上げた人物は一体それほどの魔力を秘めているのか。一体どれくらい強いのか。予想もつかないほどだ。



そしてそれを書き上げたのはおそらく初代王。



「アーシェ、五芒星のど真ん中に器があるぞ...」


「えぇ、おそらく、あれはこの召喚触媒を容れる器でしょう。早速容れに行きます」


「アーシェ、気をつけてくれ。はぐれ召喚獣がやってくるのかもしれんからな」


「気をつけます...」


輝く五芒星に踏み込む。一瞬魔力が姫の体内に入り込み、霧散する。


アーシェは直感で認められたとわかっていた。おそらく五芒星に踏み込んでいいのは王家の者のみ。そうでない者は今の選別で命を落とすことになるだろう。


ゆっくりと器に召喚触媒を容れる。

青白く輝く液体が波打つ。漣が立ち、やがて勢いが強くなって行き──


「アーシェ!今すぐ戻れ!」


ものすごい剣幕でマーガレットはアーシェを手招き、戻れと促す。


「は、はい!」


慌ててアーシェは駆ける。マーガレットに抱かれてすぐさま立ち位置を交換される。アーシェを守るようにマーガレットは前に立ち、五芒星を見詰める。


青白く輝く液体が五芒星全体に満ちたところだった。

すると五芒星がより一層輝きが強くなっていく。


「来るか...!」


マーガレットは身を低くし、臨戦状態となる。いつでも剣を抜けるように腕のバネを最大限に引き延ばす。



"あー、こんばんは。私は初代王であーる。本当は王の器じゃねえのにな。みんながなれなれってしつこいんだよ。あ、いまは関係ないか。あー、そっち今何年かは知らねえがとりあえずヤバイ状況だろ?何しろ俺が造り上げた魔法陣を使う位だしな。召喚した魔術師は死ぬかもって聞かされているかもしれねーけどあれは嘘だ。そうホイホイと異世界から召喚しちゃこの世界が壊れるだろ。これから召喚される奴は滅法にヤバイ奴だ。...まぁ俺が最強だけどな!そいつが二番目だ!あぁ!くそ戦いてえな!...あ、また話が逸れたな、悪い悪い。とりあえず、あとは頼んだ。この国をよろしくな。苦労して建国したんだからよぉ...しっかりと守ってくれよ!...それでいいんだろ、姫様"


気の抜けた声が頭に響く。


マーガレットもアーシェも状況を飲み込めなかった。まさか初代王の声を聞けるとは思いもしなかった。初代王の伝説は眉唾と思う位にあり得ない物語だらけだった。だが、実在し、己を最強と公言していたのだ。まさか──と思ったところで五芒星が爆ぜる。


爆風がマーガレットの身を煽る。吹き飛ばされそうになる身を踏ん張ってマーガレットは腕を眼前に交差させる。

地面がひび割れる。壁が亀裂を走る。

支柱がなければたちまち崩落し、マーガレットとアーシェは生き埋めされていただろう。


やがて──強風が収束し、砂煙の中に黒い影が帯びる。


「英雄様が...!」


アーシェの顔が一気に嬉々としたものになる。成功したのだ。この国を救える位の力を秘めた英雄をここに呼び出せたのだ。


だが、対照的にマーガレットの顔が険しくなる。

決して慢心はしてないが、マーガレットはこの国の中では上位に入るほどの強さを持っているのだ。故に相手の力量を見切れるほどの洞察力を持っていると思っていた。

だが感じないのだ。

その影が虚像ではないかと思わせるほどに魔力が全く感じないのだ。

それはあり得ないことだった。

生きとし生けるもの全ては魔力を内包しているのだ。草木さえも。


それなのに影からは全く感じないのだ。



やがて煙が消えていき、影が姿を現す。


マーガレットの背筋に悪寒が走る。

あれは決して相容れない存在だと。

関わってはいけない存在だと。

本能で理解してしまう。




はぐれ召喚獣とかそういう生易しいモノではない。

あれは世界そのものを憎む存在だ。

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