英雄は禍神
「は?」
訳分からない状況に山本大和は首を傾げる。
ついさっきまでPCと睨めっこしていたはず。オンラインゲームをかなりやり込んでいて、ガチ勢の中でもトップクラスに食い込む程の強さを誇っている。これから最強ギルドメンバーと共に難易度キチ⚪︎イレベルと言われている異次元の狭間ダンジョンを攻略しようとしていたのだ。
いざ突入したところでこんな状況になっているのだからハテナを浮かべてしまうのも無理もない。
眼前には怯えている少女と純白の甲冑を着た騎士がいたのだ。ファンタジーでしか見かけることができないような見事な造形をした鎧。そして特に大和の目に止まったのは少女である。
変な意味ではなく、単に少女の顔が今まで出会った女性よりもずっと可愛くて綺麗だったからだ。
あどけなさを残りながらも女の子から女性に変わりつつある顔立ち。
「あ、あの...英雄様...?」
ん?と大和は違和感を覚える。聞こえてきた言葉は明らかに日本語ではない。英語でもなくロシア語でもなかった。それなのに理解できたのだ。すんなりと耳に入る。
何を言っているのか理解出来たのだ。
しかも英雄様ときた。
OK。これは一から十まで聞かないと無理だわ。
「その前に一つ聞いておく。貴様は我らの味方だよな?場合によっては我は貴様を斬らなくてはならない」
クレイモアらしき剣の鋒を大和に向けながら言い放つ騎士。おそらく脅しではない。大和の返答次第で大和は下半身をお別れを告げることになるだろう。それを可能にしてしまう技量を騎士は持ち合わせているのだ。
だが、勝手に呼び出して置きながら何て言い草だ、と大和は顔を顰める。
「マーガレット!英雄様に何て言い方をするのよ!」
「す、済まない...。しかし万が一失敗したら」
よしもっと言ってやれ。と心の中でガッツポーズする大和。
おそらくマーガレットは少女の近衛兵なのだろう。二人の間に信頼しあっている雰囲気がこっちにも伝わる。
「す、すみません。英雄様。よろしければ職業を教えてくださってもよろしいでしょうか?そうすればマーガレットも納得してくれますので...」
「職業?んん?」
まずまず訳分からない。職業はなんですかって言われても大和は夢追人をやってるぜ!なんて言えない。
無難に大和は学生だと返事する。
「ガクセイ..?マーガレット、職業にガクセイってありました?」
「ガクセイ...もしかして学園を通っている生徒のことか?」
「あ、その学生...。あの...英雄様?」
何を言ってるんだこいつと言いたげな少女。
むしろお前らが何を言ってるんだと言い返そうとしたがぐっと堪えた大和。
「もしかして貴様は自分のステータスを見る方法すら知らんのか...」
殺気が膨らんでくる。ど素人の大和でもそれを感じ取ることができた。背筋に悪寒が走る。そして──一瞬こいつを殺してしまおうかと思ってしまい慌てて思い直す。
「マーガレット!英雄様すみません!私が英雄様を召喚しましたがどこかに不手際があったようで...。おそらく英雄様は一時に記憶が失われているかもしれません。すみません!ステータスは自分のレベルを表すものでこう唱えれば開示されます。"ステータス"と」
ふむふむ。ステータスか。その言葉を聞くと異次元の狭間ダンジョンを攻略出来なかったことが悔やまれる。自キャラのステータスは最強のそれに近かった。装備品も超が付く一流品。プレイヤー対プレイヤーの大会も常に3位以内。そういえば自キャラの職業は特殊だったよな、と大和はそう思いながらステータスと唱える。
"開示します"
頭の中に自分の情報が入り込んできて。
んん?と再びヤマトは首を傾げた。
入り込んできた情報はさっきまでやっていたゲームの自キャラと全く同じステータスだったからだ。
クリア
Level400(カンスト)
種族・・・魔族(禍神)
職業・・・魔剣聖
HP・・・89000
MP・・・65000
力・・・8500
防・・・7900
敏・・・8550
魔・・・9800
レベル、魔法、剣を極めた者でトーナメント制覇した者だけが就くことが出来る職業魔剣聖
あまりにも多くの命を奪い取ったことにより禍神へと昇華した存在。(条件PK66666人)
-パッシブスキル-
常時威圧 常時剣域 常時幻想剣 常時防壁 常時感知 無詠唱
-スキル-
省略されました
どうやら少女は英雄ではなく禍神を召喚したようだ。