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禍神の英雄伝  作者: わたあめ
一章
15/17

シャンデラ王国その4

「で、では気を取り直して次はギルドへ行きましょう。あそこは各国の冒険者が集う場所であり情報収集するにはうってつけです」


次に馬車が向かった先は一階は酒場で二階はギルドの建物だ。木造で建てられており味わいのある外観をしていた。

ファンタジーと言えば冒険者とギルドは鉄板だ。様々な人種が集い、様々な情報が行き交う。

身分や人種なんか二の次だ。実力のみがモノを言う世界に生きる冒険者にクリアは密かに憧れを抱いていた。

ゆえにクリアは馬車の窓から身を乗り出して興味深そうに木造の建造物を眺めていた。


「アーシェ、すまないがあそこに入ってもいいか?どんな感じなのか味わいたいんだ」


喜びと興奮を隠し切れないのかクリアの髪がざわざわと漂い始める。


「あ、はい!ギルドに登録した方が今後動きやすくなると思いまして初めからそのつもりでここにきました。ですがあなたは我が国の救世主となる立場のお方です。どうかしばらくは素性を隠して頂ければ幸いですが...」


申し訳なさそうにアーシェはクリアの顔色を窺う。

シャンデラ王国が召喚した英雄が冒険者となると各国からの指名依頼が途絶えることはなくなるだろう。引っ張りだことなりシャンデラ王国から消えたとすれば本末転倒である。

故にしばらくは素性を隠して得体の知れない強者として振舞ってもらったほうがアーシェにも色々とやりやすくなるのだから。


「問題ないさ。この髪で鎧を形成するさ」


そう言うとクリアは微かにはにかみ、長髪を自らの体をぐるぐると纏い、地肌を見えなくさせる。残るはクリアの顔だけだ。

現実離れした現実を何回も見せ付けられたアーシェはクリアの業を見慣れたのかわずかに息を飲み込むだけで何も言わなかった。


「すぐ戻ってくるから」


「あ、はい!...あそこには様々な冒険者がいます。ですので因縁をつけてくる人もいるかもしれません。ですがあまり喧嘩に乗らないでください」


「あぁ、わかっているさ」


そう言うと残る顔も髪で巻き付けて全身を真っ黒にさせた。まるで黒い包帯を巻かれた死者のようだった。


だが次の瞬間、艶やかな長髪が禍々しく盛り上がる。やがて刺々しく、闇のような漆黒で、兵士を震え上がらせる死そのものを体現した鎧へと変貌しさらに死を侍らせる死神が着るような、漆黒の鎧を羽織るマントがゆっくりと空中からじわじわと形成する。万人を超える死者の魂と湖に匹敵する程の大量の血を啜った真紅のマントだ。

クリアと言う禍神が乗り越えてきた百を超える戦場を表したものである。

人間が軽々と直視していいようなものではないマントにアーシェは全身から冷や汗が滝のように流していた。


黒き兜の目に当たる部分はほの暗い輝きを放つ真紅の一筋が斜め上に走らせており、禍々しく刺々しいツノが側頭部から生えていた。後頭部からは白き長髪が流れていた。先ほどの艶やかなな髪質とは又違った青年特有の張りのある太い髪質だ。


「さて行ってくるが、この世界にとって俺の格好はどうだ?」


「は、は、はい...。申し訳ありませんがそのマントは止したほうがよろしいかと...先程から魂と言いますか心臓が押しつぶされそうで胸が苦しいのです...」


「ぬ?それは失敬した。言っておくがそんな格好をしてるが俺は魔王でも魔神でもないからな!そこを勘違いしないように!」


軽くマントをひらめかせるように片手を後ろに振るう。その動きに従ってマントがゆっくりと霧散し、残るのは漆黒の甲冑を纏ったクリアのみとなった。


重苦しい雰囲気が嘘のように消え失せてアーシェはホッと一息を付いた。


「その方がずっと素敵です。しかしびっくりしました。其処にあるだけで周りを威圧するようなものは初めてみました。それも剣聖であるクリア様の実力でしょうね...。ますます私の行動に間違いはなかったと確信しました」


「そんなに褒めなくともよい。...さてこの世界に来て初の冒険者は...どう出るか!」


馬車のドアを開けると大地をしっかりと踏み立ち、眼前に建つ冒険者ギルドを見上げる。

この先待ち受けるのはパラドクス連邦でもなく魔王でもなく冒険に命を掛けるそんな人らだ。

だがクリアは知らなかった。冒険者もピンからキリまでいるわけで。退廃してゆく一方であるシャンデラ王国に寄り付く冒険者は変人か訳あり冒険者しかいないということを──。


「たのもー!」


そんなことを露とも知らずにクリアはドアを馴染みの駄菓子屋入るような気軽さで開ける。

クリアの様子を見守った後マーガレットは馬から降りる。


「アーシェ、大丈夫なのか?先ほどの異様な威圧感は一体?」


馬車の中に入りアーシェを心配するように横を座った。


「えぇ、大丈夫。クリア様の放つオーラに少々びっくりしただけだから。ところでマーガレット、あの黒い鎧を見てどう思い浮かべた?」


「...剣聖殿を見てまるで魔王や魔神かと思った。しかし外見だけでは判断しようがない」


「だよね。でも私が小さかった頃にお父様がよく読みかせてくれた御伽噺に似たような人がいたような気がするの」


「それは興味深いな。その御伽噺の題目は?」


「確か、あやふやなんだけれど..."なんとか英雄伝"だったような」


「なんとか英雄伝か、それだけではわからないな。どんなストーリーなんだ?」


「黒き英雄が人間の味方となって戦う話。最後はその味方した人間達に裏切られて死んだ悲劇の物語なんだけどね...。なんでお父様はそんな本を読み聞かせたのかしら」


黒き英雄と瓜二つなクリアの後ろ姿を心配するように眺める二人の気持ちなんか知ることはなくクリアは再び叫ぶ。



「たのもー!」


「うるせえな、こんなところに一体何の...うっ...な、なんじゃありゃあ...」


髭を蓄えた大男がクリアの外見を確認するなり怒鳴り声がしりすぼみになっていく。

黒き甲冑を着込んだ異様な風貌をしていて性別も不明である人物に初対面でありながら怒鳴られる人物はそうとういない。

大男も例外ではなかったようだ。

カウンターにたむろしていた他のアウトローや丸テーブルを囲むようにして酒を飲んでいた冒険者たちも手を止めて一同にしてクリアに視線を注いでいる。

クリアがさらに一歩踏み出すと酒場にいる全ての者は最大限の警戒をしいつでも武器を抜けるようにしていた。


「うーむ、すまないが冒険者になりたくてここに来たのだが...そんなに警戒しなくてもいいとおもうが...別にあんた達をどうするつもりはないから」


武器を持ってないことを証明するように両手を上に上げる。黒い籠手に獣のような鋭い爪が上に挙げられて行くのを見届けた冒険者達はようやく開口する。


「こんな所に来るとはお前もレッドドラゴンで一稼ぎしようってか?残念だったな、あれはAクラス以上でしかいけないしもう出発したようだぞ」


「レッドドラゴンか、そんなことは考えてないさ。とりあえずギルドに登録したいのだが案内人はいるのか?」


「二階だ」


「ふむ、二階か。邪魔したな」


「待ちな。まずはてめえの素顔を見せな。誰も寄り付かねえここにわざわざ来るってえことは犯罪者かよほどの馬鹿って相場が決まってるんでな」


階段へ向かおうとするクリアを制止する大男。その顔はニヤついており良からぬ企みを巡らしていた。


「そうか、しかし訳あって兜を脱ぐわけにはいかないのさ。どうか見逃してくれ」


「だったら口止め料寄越すんだな。てめえの鎧を見る限り金持ってるだろ?それも大金をな」


「私は犯罪者ではない。だがあんたに支払うお金もない。ここに来たばっかで通貨でさえ知らない」


「だったらよぉ、その鎧を寄越せ。冒険者でもないてめえが着けていいような鎧じゃねえんだろ」


「...このイベントを心待ちにしていたんだ。なんせカッコイイからな。わかるか?新入りに絡む阿呆の構図はどの漫画でもゲームでもよくあることだ。そして次の展開にこうなるのもありがちだ」


喜々としてクリアは片手の指で輪っかを作り、絡んでくる大男の額へ持っていく。


「あぁ?」


怒りに顔を歪む大男にお構いなしにデコピン。幼稚な技だ。

だが常人では到底出せないような破裂音が酒場を響き渡り、窓を揺らすほどの破壊力を持つデコピンは一瞬にして大男の意識を刈り取る。

そして気絶のみならず恰幅のいい身体も派手に吹き飛ばされて大男が座っていた丸テーブル諸共メチャクチャになっていた。

大男の二分の一以下の腕の太さでしかないというのにデコピン一発で失神させれるほどの腕力を持つ黒い騎士に酒場は静寂に襲われていた。誰もか発言しようとはしていない。ビールのジョッキを持ち上げたまま固まっている者やフォークを握ったまま固まっている者や信じられぬといった表情でクリアを見ている者。全ての者がクリアを刺激しないように最大限の努力を行っていた。

額から煙を燻りながら失神している大男を一瞥するとクリアは再び階段に向けて歩み始めた。

内心はもちろん、うはカッケーな俺!である。

クリアの強烈なアピールは見事成功に収めた。

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