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禍神の英雄伝  作者: わたあめ
一章
14/17

シャンデラ王国その3

「おじいちゃんと何の話をしておられたのですか?」


「いや、世間話さ。それよりアーシェの姿を見かけないのだが?」


「あのおじいちゃんと世間話ですか...。アーシェ様なら馬車の中で待っておられます。街の中は馬車で移動しますので」


「馬車で?流石は王家だな」


「王家だからもありますがパラドクス連峰の手先が潜伏している可能性も慮って馬車で移動した方がいいと思いまして」


「そうゆう事か、パラドクス連峰ってやっかいだな。関わったことないけどなんか俺まで嫌いになっちゃいそうだ」


訓練場を後にして二人は大聖堂に向かう。大聖堂と騎士の本部と魔法研究所で囲むように位置している広場があり、そこの大噴水は美しく行き交う者の心を落ち着かせるような雰囲気を出している。

地面は一面石畳で敷かれていてその上で二人は歩いていた。魔法研究所の所員らしきものや巡回から戻ってきた騎士らが何人かはいたが勿論の如くクリアに怪訝な視線を注いでいた。

身を隠そうもクリアよりも小柄なマーガレットでは身を隠しきれない。下手すれば蠢く髪でメデューサと間違われかねないのだ。

そんなクリアを心配するようにマーガレットは率先して前を出て歩いていた。


「剣聖殿、やはり人の目が気になりますか?」


「そりゃな、あまり好意的な視線じゃないからな。そういうのに敏感なんだこの身体」


「そうですか、申し訳ありません。パラドクス連峰との戦争で人々の目は変わることになるでしょう。ですからどうかそれまでには辛抱を」


「わかっているさ。まぁあまり人前に出なければいいだろう」


と負けじとクリアもマーガレットより前に出て歩き始める。

そんな子供染みた行動にマーガレットは笑みを零れ、クリアの新しい一面を知ったことで親近感を覚えた。

人ならざる領域に立つ剣聖とはいえ自分と何ら変わりはない人類なのだからと。


こうしているうちに二人は大聖堂にたどり着く。王宮よりも金をかけていそうな格式の高い建物だった。

大聖堂の荘厳な雰囲気に圧倒されたクリアは感嘆のため息を吐くばかりである。


「すっげえな、ここ...。天井が遥か上にあるよ...」


「こここそがシャンデラ王国が誇る大聖堂で、初代王の御魂が眠る場所でありシャンデラ王国の始まりの場と言われています」


そして王宮への入り口の正面には城や街へと繋がる出口があり、右にはステンドグラスで作られた初代王の肖像画があった。

マーガレットはその肖像画に頭を下げて一礼する。


「あれは誰なんだ?爽やかな青年というか好青年というか」


「あれは初代王の肖像画です。シャンデラ王国を造った王。そして伝説ですが敗れはしたもの"全ての祖"から世界を守った大英雄でもあるのです」


「あれが初代王...とても見えないな。まるで異世界にトリップした日本人だ」


頭を上げたマーガレットは"日本"という単語に首を傾げていた。

いや独り言だとクリアは肖像画を見上げ、初代王の全てを見通すような双眸に違和感を覚えた。その初代王の目は何処かでみたような気がしたからだ。


「うーむ、気のせいか?しかし...」


「剣聖殿、アーシェ様がお待ちですので」


いつの間にかマーガレットが出口のところに立っていた為、クリアも思考を停止し出口へ向かう。

だが初代王の視線が気になり、再び振り向いた。


「......」


"全ての祖"と戦い、そして死んだ英雄。

八百年も経っても尚初代王の意思は人々に受け継がれていた。死にて尚圧倒的な存在感を放ち続ける初代王はまさに大英雄に相応しい人物である。

そんな初代王はかつて夢見た英雄ヒーローそのものだった。

奉られ、崇められ、天使のように愛され、英雄と呼ばれている初代王にクリアはちょっとだけ羨ましくなった。

いつか初代王の立つ域へたどり着けたらとクリアはそう思わざるを得なかった。


「剣聖殿、大丈夫ですか」


再び出口から声かけられて今度こそクリアは大聖堂を後にした。


「すまない。初代王の肖像画に見惚れてしまった」


「そうでしたか、やはり人智を超えた力を持つ同士、何か感じるものはあるんですね」


「ふむ、やはり"全ての祖"と戦った初代王は強かったのか。初代王の職業ジョブは?」


「確か、"剣祖神アルティメットゴッズソード"とシャンデラ王国開闢の書物にそう書かれてありました。もはや御伽噺に過ぎないのですか...」


雷に打たれたようにクリアの顔が驚愕に染め上げられて行く。滅多にないクリアの表情の大きな変化であった。


「は、はは、"剣祖神アルティメットゴッズソード"とな!はははは!そうか!そうか!初代王も極めし者の一人のようだな!」


そう言って珍しくクリアは笑い声を上げていた。剣祖神はクリアがやっていたオンラインゲームの中でもごくわずかしかいない職業ジョブだった。ライトプレイヤーでは到底たどり着くことはない。廃人の中でも限られた人数しかなれない職業ジョブ

そんな廃人しか就けない職業ジョブらをライトプレイヤーは皮肉を込めて極めし者と呼んでいたのだ。


「な、剣聖殿が笑うとは一体...!私、何か変な事を言ったのでしょうか?」


クリアの変わりように流石のマーガレットも驚きを隠せないようだ。そんな心配するマーガレットをよそにクリアは城を見上げる。


「いや、なんでも。ほぅ、結構...シブいじゃん」


年季の入った煉瓦で出来ている壁は蔦が這っており、朽ちた城のようだった。人じゃなくてお化けがいるのではと思う位だ。

だが魔族で禍神のクリアのセンスは常人とはかなりかけ離れているためどんな城よりも輝いて見えたはずだ。


「正直俺が住みたいくらいだ」


「剣聖殿の怖変な外見にこの城ではシャレになりません。魔王か魔神にしか見えませんのであまりお勧めはしないです」


「む、いま俺の外見についてナチュラルに悪口が聞こえたような気がしたが?」


「いえ、気のせいかと。それでは馬車はこちらになります」


話題をすり替えるようにマーガレットは城門前に停めてある馬車を指差す。

これもまた王家らしく立派な装飾が施された白亜の馬車である。大人の男は4人は軽く収められるほどの大きさをしており、引くのは白い馬二頭である。御者はいなかったがおそらくマーガレットがその役を行う事になるだろう。


「んじゃ。失礼するよ」


「ク、クリア様!びっくりしました!」


ノックもせずに馬車に乗り込むクリアに寝ぼけた顔で驚くアーシェ。

おそらく暇でうたた寝でもしていただろう。

マーガレットは一瞬複雑な顔を浮かんだがすぐ御者台に乗り込み、二体の馬と触れ合って親睦を深めていた。

馬車の内部は至ってシンプルなもので長椅子が向かい合うように置かれているだけだった。

ちょこんと行儀良く座っているアーシェを向かい合うようにクリアは席に腰を下ろした。


「悪い、待たせたようだな」


「い、いえ!あまり昨日寝てないものですから...クリア様のせいではありません!すみません!」


恥ずかしさで紅潮した顔を隠すようにアーシェは何時ものくせで勢い良く頭を下げてしまい、対面しているクリアの片膝に強く打ち付けてしまう。

ごん!と鈍い音が内部を響き渡り、アーシェは赤くなったおでこを抑えながら目をうるうると滲ませて涙目になっていた。どうすればわからずにクリアも目頭を抑えてため息を吐くのであった。


「で、では気を取り直して...出発進行〜!」


天井に当たらないくらいのギリギリの高さまで拳を上げるアーシェ。そして何かを期待するようにクリアを見つめる。

だがクリアは何の反応もしない。


「......?」


「......クリア様もご一緒に!」


「ぬぅ!?そ、そうかでは」


「「出発進行〜」」


一体なんだこれはと心の中で叫ぶクリアであった。だが楽しげに外を眺めるアーシェの姿を見てクリアは微かに微笑む。つい最近まで塞いでいたようだから何も言えないしアーシェの嬉しそうな顔を見るとクリアもなぜか楽しくなってくるのだ。


マーガレットの巧みな手綱で馬車は動き出し、馬の嘶く声と共に城下町に向けて出発する。


「ではまず住宅街の案内を。住宅街は三つの区画があり、中流、上流、貴族で分けられております。私は王宮ですがマーガレットは貴族区画に住んでいます。ですが私に付きっ切りですのであまり帰らないみたいです!」


「ほー、俺が住むのはどこになるんだ?」


「もちろん、貴族の区画です。三階建ての屋敷ですので気に召されるかどうかわかりませんが...」


「いや、十分すぎるくらいだ。ここに来る前はアパートの小さな一室で過ごしてたからな」


「アパート?よくわかりませんが、不服であればいつでも王宮にお越しください!」


「それはダメだ!」


外から叱咤する声が聞こえて来て、アーシェは頬を膨らましそっぽを向く。


「おいおいマーガレットに見られてもないのにそっぽを向いても意味ないんじゃないか」


「あ、そうでした!ではこうします!」


ベロを出して精一杯マーガレットをバカにするような顔にするアーシェであった。



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