プロローグ
紅月の明かりを帯びてあやしげな輝きを放つ銀髪の長髪。絹と思わせるような長髪は重力を逆らい空中に漂わせていた。
その髪の持ち主である男は名匠が技術の結晶をこしらえて創り上げた人形のような儚い顔立ちをしていた。そして真紅の双眸。
人間離れしたその男を人々達は恐れ慄き、禍神と呼び崇めた。
実際人間ではないだろう。ユラユラと生き物のように漂う髪がいい例だ。
側には従者らしき者が控えている。純白の甲冑を着込んだ騎士だ。片膝を付きながら主の言葉を待っているようだ。
そして禍神は崖で大地を轟かすように行軍している大軍を一瞥し天を仰ぐ。
「みるがいい。奴らの死に様を。我の前では一人いようが百人いようが万人いようが死を迎えることになる」
禍神は体内に吹き荒れる魔力を解放する。世界の法則が上書きされるような違和感が瞬く間に世界を広がる。今までの理が──壊れる。
たった一人の禍神によって世界の法則が乱れる。
世界が悲鳴を上げる。大瀑布のように押し寄せてくる魔力に世界が耐えられないのだ。大地がひび割れる。空が黒く染め上げられる。湖が沸騰する。何もかも全てが禍神の魔力によって壊されてゆく。
莫大な魔力が次元すらも押し曲げ、歪みを出現させる。
魔力が紫電となりパチパチと放電しながら体外を這う。
そしてゆっくりと禍神は片手を翳す。
唱えるのは究極古代魔法。
かつて神が慢心な神気取りの王を浄化するために使われたという魔法。
「我を倒せると思い上がるような奴らには相応しい魔法だ」
「さあ、神罰の刻だ!」
地獄黙示録
世界が反転す。