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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
一章 異世界召喚されました
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8話

 大地が大きく揺れ、少しよろついてしまったが、問題はない。俺は冷静に魔物を倒しながら森の外へと向かっていた。

 魔物の大半は最初の《フレア・タワー》であらかた倒すことが出来た。残りの魔物は空を飛ぶ魔物。炎に強い魔物。俺の魔法を食らうよりも早く地面に降り立った魔物のみだ。

 だが、全てを片付けていては間に合わないので、俺は早々に雑魚狩りを引き上げる。


 そこに魔物達に追われ逃げ惑っていた盗賊達を見つけたので一緒に引き連れながら、ようやく森を抜ける。

 空を見ると、ギゴーラの姿が見当たらないことに気付き、目線を下に向けた。

 すると、町のある場所付近にギゴーラが倒れているのが見えた。まさか、本当に倒してしまったのかと思ったが、どうやら墜落しただけのようだ。

 しかし、まさか飛んでいたギゴーラを墜落させることが出来るなんて──


「あ、あれ? そういや俺、なんであいつにギゴーラの足止め頼んだんだ? 普通無理だろ! ていうか、そもそもどうやってあいつはギゴーラを落としたんだ?!」


 今更ながら俺がどれだけの無茶をミソラに頼んでいたのかを知る。あいつは魔法が使えない。

 身体能力がいくら高くても、空までは飛べないはずだ。ならなんで?

 疑問は尽きない。だが、今はそんな疑問は捨て置く。俺は盗賊達が集まっている場所に向かって魔法を放つ。


「《フレア・プリズン》」

「「「な、なんっじゃこりゃあ~!?」」」

「見たまんま、炎の檻だ。ここならたぶん魔物に襲われることもないし、並みの魔物はこの檻に触れるだけで燃えて死ぬだろうからその中にいりゃ一応安全だ。あのドラゴン倒したら町に連行するから、そこで大人しくしてろ」


 俺はそれだけ言い捨ててミソラの元へ急ぐ。にしても、ミソラはどれだけの速度で走っていったのか。まさか空を飛ぶギゴーラに走って追い付き、あまつさえ撃墜するなんて。

 でも何故か、あの時ミソラならやれるとなんの確証もないのにそう感じた。事実、ミソラはしっかりと役目を果たしてくれている。今度は俺が約束を守る番だった。


「絶対、って言ったんだからな」


 俺は地を駆けミソラの元へと向かった。

その時と同時にギゴーラがけたたましい咆哮をあげた。


★★★


「うるさああああいっ!」


 ドラゴンの咆哮に耳を塞ぎながら大声でドラゴンに文句を叫ぶ。しかし、ドラゴンは聞く耳を持たずに、再度私を見据えて吼える。


「あっ、やばいっ!」


 そこで一気に冷静になり、今完全に自分が狙われていることに気付く。

 直後、ドラゴンは尻尾を振り回し、その尻尾は左から私目掛けて迫ってきた。躱せない。瞬時にそう判断した私は思いきり踏み込んで迫り来る尻尾に向けてカウンターの拳を放つ。


「美空流格闘術《護空拳(ごくうけん)》!」


 放たれた拳はドラゴンの尻尾と激突し、激しい衝撃波を生じさせた。わずかに後方へ飛ばされた私はなんとか上手く着地してドラゴンを見る。

 ドラゴンの岩より固い鱗が生えた尻尾は、まるで爆撃を受けたかのようにボロボロになっていた。

 悲鳴のような声を上げるドラゴンを見ながら、私自身も悲鳴を上げる。


「いっ、たぁ~い! 固すぎですよドラゴン! ゴーレムよりも数倍固い! ふぅ~、ふぅ~」


 涙目になりながら手に息を吹き掛ける。なんとか戦えてはいるが、いくら肉体が強くなっているとはいえ、痛みを感じないわけではない。

 あまり長引けばやばいかもしれない。


「早く、早く来てくださいよリクさん」


 そんな願いを嘲笑うかのようにドラゴンはその大きな口を開く。その口の奥から徐々に光が溢れだしてくる。嫌な予感がしてたまらない。


「ま、まさか、火炎放射?! それともビーム系のブレス?!いや、どっちにしたってヤバすぎるっ!!」


 最悪だ。いくら異世界チート特有の体力増強がされていようとも流石に炎やビームを殴れる気はしない。

 しかも、どれ程の射程があるのかは知らないが私の後方には町もある。

 もしかしたらこの攻撃が町にまで届いてしまうかもしれない。そうなったら町は火の海になってしまう。なんとかしないと。

 私は即座にドラゴンの顎を目掛けて跳んだ。


 やはり予想通り脚力も上がっているので、通常の何倍もの高さまで跳び上がることが出来た。私はそのままドラゴンの顎を蹴り上げた。


「おおおおりゃああああっ!!」

「ゴワァァ!?」


 どうにかドラゴンの顔を上に向けることに成功した。やった、と思ったその直後に空に一筋の光が走る。

 圧倒的で暴力的な光と熱と衝撃波を受けて私は背中から地面に叩きつけられた。


「かはっ──!?」


 かなりの勢いで地面に落ちた私は肺の中にあった空気を全て吐き出し、一瞬意識も飛んだ。

 なんとか意識はすぐに戻ったが、衝撃のせいか体が痺れて動かせない。


 更に運の悪いことに今私はドラゴンのすぐ足元にいる。踏み潰されればひとたまりもない。

 頭の中で、気付くな~気付くな~と祈っていたのだが、その念はドラゴンに通じることはなく、その大きな目が私の姿を捉える。

 ドラゴンの顔が笑顔に変わった──ような気がした。再び口を開き、今度は私を喰らうつもりなのか、首を伸ばした。


 ドラゴンの鋭い牙と強靭な顎に地面ごと抉られるその直前に、私は体に鞭打ち、横に大きく跳んだ。

 だが、がむしゃらに跳んだだけの体は宙でバランスを取ることも出来ず、地面に強く体を打ち付けながら転がり、数メートルくらいの距離でようやく止まる。


「うぐっ! くぅ~。い、痛い……」


 私は腕だけで体を起こしたが、右足が痛くて仕方ない。さっきの攻撃の反動がきているようだ。

 骨は折れていないようだが、赤く腫れ上がっている。一度意識してしまうと、痛みが増したかのように感じてしまう。

 ドラゴンはそんな私のことなどお構い無しにこちらに向かって歩いてくる。


 万事休すか。そう思い、私は地面に伏せて目を閉じる。


 ドンッ!という音と強風が起こり、地面が震動する。しかし、予想していた衝撃は一向に襲って来ない。

 薄く目を開いて見てみると、そこにいたはずのドラゴンの姿が無くなっていた。

 驚き私は目を見開きドラゴンの姿を探す。ドラゴンは私の視界の左方に仰向けで倒れていた。


「な、んで……?」

「上級風魔法 《エアリアル・キャノン》。風の塊をぶつけるっていう単純だがその分強力な攻撃魔法だ」


 その声はドラゴンとは逆の右側から聞こえてきた。私は緩みそうになる顔をわざと引き締めて半目で声の主をにらむ。


「ちょっと遅くないですか? というより、なんですかその絶妙なタイミングは? まるで主人公みたいじゃないですか。ズルいです」

「ズルくないし主人公でもないっての。ドラゴンにボコボコにされて頭おかしくなったのか? って、そういや元からだったな」


 皮肉に皮肉で返してくるリクさんは、私に回復魔法をかけながらもドラゴンの方を見据えている。それに気のせいか、先程よりリクさんが纏うオーラのようなものが違っている気がする。


「よし、治ったぞ。それとありがとよ。お前のおかげで町は助かった。だからあとは俺に任せて休んでろ」


 私は手や足をさする。確かに痛みは完全に無くなっている。これなら、いける。私はいつもの調子でリクさんに話しかける。


「何を言ってるんですかリクさん。主人公である私がボス戦の時に後ろで控えているわけにはいきません。私も戦います。リクさんに良いとこ取りさせるわけにはいきませんし」

「ほんと相変わらずの精神だな。逆に尊敬するわ。じゃ、せめて邪魔にだけはなるなよ」

「それは私の台詞です」

「何様だお前は」

「ミソラ様です」

「マジかよ……自分で言うか普通……」


 私達は軽口を叩き合いながら、ようやく立ち上がったドラゴンと並んで向かい合う。


「さぁ~て。ではあとはちゃちゃっと倒してエンディングに行きましょうか」

「なんだ? この戦いが終わったらお前死ぬのか? 人生のエンディングでも迎えるのか?」

「私の異世界冒険譚の第一章部分のエンディングですよ! 人生のエンディングを迎えるのはあのドラゴンの方です。あっ、だったら人生じゃなくてドラゴン生ですかね?」

「ややこしいしどうでもいいわ。んな妄言垂れ流してる場合じゃないだろ。状況を見ろよ」

「はいはい。ではリクさん。サポートよろしくお願いしますね」

「お前が前線に出るのかよ! っておい! あぁもうっ ! 《イル・アーマー》!」


 リクさんのサポート魔法を受けながら私はドラゴンに向かって駆け出した。何故だろうか。さっきまで死をも覚悟したというのに、今は全く負ける気がしなかった。


~~~


 第一級危険生物ドラゴン。その中の一種、鋼のような硬度を誇る鱗と凶暴な気性を持つギゴーラは今、自分よりはるかに小さな二人の人間に対して恐怖を抱いていた。

 故にスキだらけで喋っている二人に不意打ちを加えることすら出来ずにいた。


 一人は全く魔力を持たないのにも関わらず、自分を殴り飛ばしたり蹴り上げたりしてきた人間にしてはあり得ない怪力を持つ黒髪の少女。

 そしてもう一人は少女とは違い、溢れんばかりの魔力をその身に纏い、ついさっき自分を軽々と吹き飛ばした魔法を放ったであろう赤髪の少年。


 ギゴーラはかつてないほどの強敵を前に体が動かせずにいた。

 しかしこのままだと一瞬で殺されてしまうだろう。一刻も早く逃げなければ。そう感じたまさにその時、頭の中で何かが弾けた。

 その次の瞬間からギゴーラはただただ目の前にいる二人を食い殺すという意識に切り替わっていった。否、何者かによって強制的に切り替えられた。


「逃げようとするなよ、ギゴーラ。ドラゴンの名が泣くよ?」


 意識が完全に切り替わる前に、ギゴーラの脳内に響いてきた声は、目の前にいる二人よりも遥かにおぞましく恐ろしいもののように感じた。

 そして、思考は完全に止まり、無理矢理植え付けられた殺傷本能に呑み込まれ、今までで一番大きな咆哮──悲鳴を轟かせた。

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