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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
一章 異世界召喚されました
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5話

 五人の盗賊を倒した後、残りの盗賊達の足取りを探っていると、俺はあるものが目に入った。


「……この盗賊達のリーダーは予想以上に頭のキレる奴のようだな」

「どうしたんです? いきなりですね」

「ああ、ここまでの作戦やらこの金貨やらでもわかる。それにこれ、たぶん罠だ」

「えっ……? さっき私の分身さんが言っていた等間隔に落ちてる金貨ってヤツですか?」

「そうだ。おそらくさっきの五人が俺達が来るまでの間にあちこちに金貨をばらまいたんだろうな。ほらあそこにも」


 俺は目に入った金貨の方へ指を指す。全くなんて手の込んだことを。余程の数の修羅場を乗り越えて来たのか、それとも臆病なだけなのか。とても用心深い相手だ。


 そんな俺の心配を余所にミソラはさっきの魔法について聞いてきた。


「そういえばあの分身、本当に私にそっくりでしたね。発言とかまで。たぶん本物の私でも同じこと言ったような気がします」

「魔力がお前の体を包んだ時に、お前とそっくりになれるよう情報を読み取って変質したんだ」

「あの魔法が使えたら高校サボりたい放題ですね」

「でも中級魔法の割には魔力を食うし、発動時間も短い。完全詠唱じゃないとあそこまで精巧に作れないってのもあるんだよ」

「メリットが高いとデメリットも同じく高いんですね……」


 そういうことだ。だから何をサボるのかは知らないがそういう使い方は出来ないぞ。


「それにしても、魔法ってほんと多種多様ですよね。私も早く魔法を使ってみたいです」


 ミソラは想いを馳せるように手を組んでいる。


「えっ? 何言ってんだ?」

「……はい?」


 ミソラは本気で何を言われているのかわかっていないようだ。どこまで常識が足りてないんだ。


「お前、魔力持ってねえだろ。お前からは一切魔力を感じない。だから魔法なんか使えるわけねえだろ。だから一般の人にも使える魔法道具を使用するくらいしか無理だぞ?」

「………………嘘、ですよね……? 私、主人公なんですよ?」

「こんな嘘吐いて俺にどんな得があるよ? あと、前にも言ったが誰が主人公だ」


 膝からストンッと崩れ落ちるミソラ。目はどこか虚ろを向いている。


「そんな……馬鹿な」

「あぁ、お前は出会った時から馬鹿だったな。その時俺言ったろ。『能無し』って」


 能無し、とは魔法能力適性無しの略称だ。そもそもエルセイダーの人口の七割は魔力を持たない者達だ。だから別に珍しいというわけでも何でもない。今まで倒した盗賊達の中にも魔法使いは一人もいなかった。

 上級の魔法使いなら魔力を意図的に隠すことも出来るが、ミソラは絶対に違うと断言出来る。この様子を見る限り絶対に。これが演技だとするなら、俺は本気でミソラを尊敬するだろう。


「そ、そんなところに心底どうでもいい無駄で無意味なフラグが立っていたなんて……は、ははっ……」


 なんか急に笑いだした。怖い。ミソラは目を閉じ、何かを考えているようだ。そしてカッと目を見開く。


「わかりましたっ!! つまり私は大器晩成型主人公というわけですね! 魔力は封印されている。最初からチート性能を持っていないだけ! なので、問題無し!」

「……」


 言葉が見付からなかった。ちーと、という言葉以外の意味はわかったが、しかしこいつ、どれだけ前向き思考なんだよ。


「異世界ハイテンションポジティブシンキングですっ!」

「何が言いたいのかさっぱりだ。俺のわかる言葉で話してくれ。頼むから」


 ミソラと出会ってからというもの、頭痛が治まらない。というか、いつまでもこんなやりとりを繰り返している場合ではなかった。

 何はともあれ、すぐに復活したミソラとこの辺りをくまなく探索していると、車輪の跡を発見した。

 不自然なところからその跡が続いているので、おそらく跡を消しながら進んでいたのだろう。で、ここまで来たら大丈夫とか思ってやめた。といったところか。

 俺はその間抜けに感謝しつつ、その跡を辿っていった。


☆☆☆


 しばらく歩くと少し開けた場所に出た。そこは小さな平野となっており、その中央辺りに財宝を積んだままの荷車が放置されていた。周りには誰もいない。


「うわ、何ですかあのいかにも罠ですといっているようなアレは……?」

「俺に聞かれてもな……。逃げるのに邪魔になって捨てた、って可能性も残ってはいるし」


 と、自分で言っておいてなんだが、俺も罠だとしか思えなかった。あまりに場違いな荷車の存在にどう反応したらいいのかわからず、俺達はその場に立ち尽くす。

 だが、他に手掛かりになりそうなものもないので警戒しながら近付いていくと、案の定、財宝の中から三匹の魔物が飛び掛かってきた。だが、バリアに弾かれる。


「魔物と初エンカウントです! この魔物はなんて名前なんですか?」

「最初お前を食おうとしてたベルドッグだ」

「……ブルドッグ?」

「ベルドッグだって言ってるだろ」

「それにしても可愛げのないワンちゃんですね。ほ~れお手」

「調子乗ってると手ェ食いちぎられるぞ」


 全く緊張感がないミソラに呆れていると、どこからか笑い声が聞こえてきた。その声のする方を向くと、深くフードを被った男がこちらに近付いてきた。


「はははっ。面白いね君達。特に黒髪の君は本当に面白い」

「誰だか存じ上げませんが、 ありがとうございます」

「何でお礼言ってんだよ!? 馬鹿にされてるんだぞ?」


 そんなやりとりを聞いて、フードの男はまた笑う。何者なんだこいつ。さっきまでの盗賊達とは随分雰囲気が違う。来ている服も盗賊達とは違っている。

 それにこのベルドッグ達が帯びている魔力と同じものを感じる。それに通常のベルドッグより三倍近い魔力を纏っている。


「ということは、お前が例の魔物使いか」

「ご明察。その通り。よくわかったね。……なんてね。これくらいのこと、君くらいの魔術師ならわかって当然か」

「当然なんですか?私にはさっぱりわからないんですが。なんだかリクさんの方が主人公っぽくないですか? ズルいです」

「お前ちょっと黙ってろ。気が散る──っ!」


 瞬間、彼方から巨大な何かがこちら目掛けて飛んできた。ギリギリ《ウォール・ド・バリア》で弾きはしたが、今のはかなりやばかった。


「なんだぁその魔法は?やっぱ詠唱無しで発動しやがるんだな」

「それはさっき僕が試してみたじゃないか。ゼブ。これじゃ無駄に自分の居場所を知らせただけだよ」


 弾かれた斧を拾いつつ話し掛けてくる男、ゼブ。確か盗賊の頭の名前だったはずだ。確かに、さっきまでの盗賊達とは雰囲気がまるで違う。

 筋骨粒々の体、顔や腕にはいくつもの傷があり、歴戦の戦士のような様相を醸し出している。しかし、その顔に浮かぶ残虐性は隠そうとも隠しきれるものではない。間違いなくこいつが盗賊の頭だ。

 魔物使いに盗賊の頭。一気に両方相手にするには今の俺には荷が重い。何より──


「うわぁ~すごい傷ですねあの人」


 何よりこいつが面倒だ。


「何呑気なことを。一時撤退するぞ! あの二人、予想以上に腕の立つ。それに頭のキレもいい。お前のお守りをしながらじゃキツい」

「おっと。そうはさせないよ。【原典(オリジン) 獣の章 下級編(ファースト)】魔獣よ駆けつけろ《サモン・ビースト》」


 魔物使いの魔法が発動し、地面の魔法陣から何十匹ものベルドッグが現れた。


「うるせえ雑魚は引っ込め! 《フェザード・ストリーム》!」


 そのベルドッグを風の魔法で一掃し、ミソラを安全なところまで連れていくためにミソラの手を取ろうと手を伸ばした。


「させるかって言ってんだろ!!!」


 その手を目掛けて戦斧が降り下ろされ、寸でのところで手を引っ込める。見た目に反して素早い動きでゼブはそのまま俺に向かって斧を振り回し始める。


「魔術師は基本、近接戦闘が苦手だからなぁ!! それにあの厄介な魔法は女の方に掛けてんだろ!」

「くそっ!」


 俺はゼブの攻撃を躱しながら後退する。くそっ! ミソラとの距離が空いてしまった。俺は急いで魔力を練る。


「……あれっ? ちょっとヤバめ……?」

「そう言ってるだろ! いいから一人ででも逃げろっ!!」

「【原典 獣の章 下級編】魔獣よ駆けつけろ《サモン・ビースト》」


 魔物使いは再度ベルドッグを喚び出す。しかもミソラを中心として周りに三つ、同時に魔法陣を展開した。その魔法陣からそれぞれ十匹ほどのベルドッグが現れ、ミソラを取り囲む。これでは逃げ場がない。


「おらおらおらっ!!」

「ちっ! 邪魔だお前! 《ウェポン・アップ》」

「ぬっ!?ぐぁっ!?」


 俺は杖を使い、ゼブの斧を受け止めて、反撃を加えた。


「へえ。杖に攻撃力付加の魔法か。近接出来る魔術師とはまた珍しい。と、よそ見をしてる場合ではないね。さっさと君を殺してしまおうか」


 魔物使いは俺の方に意識を向けていたが、すぐにミソラの方を向き直した。

 そのミソラは状況をわかっていないのか、何故かふんぞり返っていた。


「おあいにくさまですが、私には《ウォール・ド・バリア》が──」

「うん。知っているよ。物理攻撃を弾く障壁魔法。自動発動するように改良されているみたいだけど、性質自体は変わってなさそうだね」

「性質……?」


 不穏な空気を感じ取ったミソラは首を傾げる。


「知らないかい? それは物理攻撃には強くても魔力を帯びた攻撃には弱いんだよ。 最初ベルドッグ達を飛び掛からせた時に確認済みさ。そして僕はそのベルドッグ達にも魔力を纏わせている。これだけのベルドッグ達に一斉攻撃させればそれは壊れる」


 完全に見抜かれている。俺は焦った。ミソラは戦闘に関しては完全に素人だ。人質に捕られるだけならまだしも、その場で魔物に襲われればひとたまりもない。

 それに今《ウォール・ド・バリア》をさらに上掛けできるほどの余裕もない。それにできたところで弱点はバレている。時間の問題だ。


「か、かなりヤバめですね。逃げるのもやぶさかではないです。なのですみません魔物使いさん。このワンちゃん達、退けてもらっていいですか?」

「退けるとでも?」

「……ですよね~」


 ミソラは絶体絶命だ。くそっ! やっぱり無理矢理にでも町に帰らせるべきだった! いや、俺もこいつらを舐めすぎていたんだ。完全に俺のミスだ。こいつらを舐めてかかって何人死んだよ! 少しばかり強いからって付け上がってやがったなこの俺の馬鹿野郎がっ!

 こうなったら、何としてでもミソラだけは無事にこの場から逃がす!


 俺は杖術でゼブに応戦した。ゼブの攻撃は大振りなので、その隙を突き、渾身の力で攻撃を加え続ける。


「はっ! 意外とやるじゃねえかよ! だが、そんな軽い攻撃が効くかよ!」


 攻撃力増加魔法を付加しているというのに、ゼブはほとんどダメージを受けていない。不味いっ。さっさとこいつを抜かないと──


「さあ、ベルドッグ。その娘を喰らいなさい」

「くっ!? やめろおおおおお!!」


 魔物使いが召喚した魔物は主の命令に忠実に動く。ミソラは「ひゃあっ!」と叫んでその場に頭を抱えてうずくまり、ベルドッグ達が一斉にミソラに襲い掛かる──と、思われた。が──


「…………?」

「なんだぁこれは?何が起きてる?」

「こ、これは……」

「………………あれ? 私、まだ生きてますね、って、なんですか、これ……?」


 その場にいた四人全員の動きが止まり、その異様な光景に目を取られた。


 命令を受けたはずのベルドッグ達がミソラを警戒して一切近付こうとしなかった。この光景を俺は何処かで見た覚えがあった。

 そう。正にミソラと最初に出会った時と全く同じ状況だ。あの時もベルドッグ達は何かに警戒していた。それに、さっき荷車から出てきた奴等(まもの)も俺だけを狙っていた。

 しかし、いったい何を警戒しているんだ?

 ……いや! 今はそんなことはどうでもいいだろ!


「《エレキテル・ボルト》!!」

「ぐああああっ!?」


 ベルドッグに気を取られていたゼブに中級雷魔法を食らわし、俺はミソラの元へと駆ける。


「ふむ。作戦変更……かな。ベルドッグ、その魔術師を殺せ」


 魔物使いは命令を変更し、腕を上げた。


「何度やっても同じだ!《フェザード・スト──ぐぁっ!?」

「リクさんっ!?」


 魔法詠唱の途中でどこからか矢が飛んできて、俺の左肩に突き刺さる。ミソラは初めて悲痛な声を上げた。

 しくじった! まだ仲間がいる可能性を忘れていた!

 盗賊の頭が出てきたことによってその可能性を無意識に捨てていた。さっき手を上げたのはこれの合図かっ!

 魔法を中断させられた俺に向かってベルドッグ達が飛び掛かってくる。

 俺は転がるようにしてなんとか攻撃を躱すが、肩の痛みに顔を歪める。俺は矢を抜き、回復魔法を唱える。


「はぁ、はぁ……。っ!《ヒーリング》」


 即座になんとか傷を塞ぎはしたが、応急措置程度だ。早くこの場から離れないと。

 しかし弓兵にどこから狙われているかわからない。どうすれば。どう動けばいい?

 必死で頭を回転させていると、ミソラがすぐ側にまで走って来ていた。


「大丈夫ですかリクさんっ!」

「おまっ!? 何で!?」

「私は魔物には襲われません。何故かはわかりませんが。それに矢のような物理攻撃ならこの《ウォール・ド・バリア》で弾きますからっ! それより、大丈夫なんですか」

「馬鹿野郎! それがわかってんならさっさと逃げろよ! こっちに来たら余計に迷惑だ!」


 俺は叫ぶように言うが、ミソラも大声で言い返す。


「友達を置いて行けるわけないじゃないですかっ! ほら、早くっ!」


 そして俺の右腕を持つ。まさかこのまま俺を抱えて逃げるつもりか? 無理に決まってる。


「ほら。やりなお前達」

「いえっさー!」


 魔物使いはまた手を上げ、森の方から声がすると同時に再び矢が飛んできた。しかも今度は六本それぞれ別方向から。

 《ウォール・ド・バリア》が全て弾き落とすが、その度に俺の体が重くなる。やばい。そろそろ限界か……。俺はガクッと膝を折る。


「リクさんっ!?」

「……俺を置いて、逃げろっ……! 俺があいつらの注意を、引くから……」

「何言ってるんですかっ! そんなバテバテなのに……」

「全くだよね。でも、その原因は、主に君だよ?」

「………えっ?」


 魔物使いは「本当にわからないんだね」と言ってから話を続ける。


「その魔法。《ウォール・ド・バリア》は物理攻撃に対しては最高レベルの硬度を誇る『上級』障壁魔法だ。でもデメリットも多い。例えば、魔法攻撃に弱いとか。あと、発動する度に大量の魔力を消費し、その魔法を使っている間、他の上級魔法を使えなくなるとかね。しかも自動発動にしているから、魔力消費量は普通の時よりも多いようだし、上級魔法も常に使えないみたいだ」

「そ、そんな。じゃあ、私のせいで……」

「そうだよ。まあ、その魔法を解けば使えるんだけど、そうすると君、一瞬で死んじゃうしね。 君は不思議に思わなかったかい? 詠唱破棄が出来るほどの魔術師が上級魔法を使わないことに」


 知るわけがない。なんせミソラは魔法どころか世界の名前すら知らなかったのだから。

 俺は途切れそうになる意識をどうにか保ち、ミソラの顔を見る。驚愕と混乱と罪悪感に潰されそうになっているような表情をして、完全に動きが止まっていた。……違う。これは全部の俺のミスで──


「よくもやってくれたなぁぁあああ! 魔術師ィィィイ!!」


 背後に斧を振り上げたゼブの姿があった。よくもまあ、中級雷魔法を食らってピンピンしてるもんだな。と呆れ、そして悟る。

 この攻撃で《ウォール・ド・バリア》は砕ける。俺はこんな時なのに冷静に「横薙ぎの攻撃でなくて良かった」と思った。



 耳の遠くで、何かが割れる音がした。そのあと、背中に強い衝撃が走る。その衝撃は鮮烈で狂暴な激痛へと変わり、俺の意識を刈り取った。


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