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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
二章 異世界生活始まります
26/27

25話

「《リーフ・カッター》」


 俺は鬼を挑発しながら木の葉の剣を飛ばす。

 鬼は木の葉をものともせずに腕でガードする。

 だが効果がないことはわかりきっていた。これはシャルから意識を逸らすための攻撃だ。

 シャルは今、鬼の死角で魔力を練っている。俺はそのための囮に過ぎない。流石に超級魔法(フォース)を使ったすぐ後に無理は出来ない。


 チマチマと攻撃を繰り出す俺に腹を立てたのか、鬼は再び腕を降り下ろす。

 が、俺はその腕に飛び乗り、それを足掛かりとして更に跳ぶ。


「《フェザード・ストリーム》!」


 俺は鬼の顔面に、風の魔力を纏わせた羽を吹き飛ばす。鬼は咄嗟に目を閉じ、腕で顔を守る。今、鬼は完全にシャルから意識を逸らした。


「今だシャル!」

「わかってるわよ! 食らいなさいっ! 《ダイヤモンド・ランス》!!」


 シャルは機械槍に氷を纏わせ突進する。


 鬼は背後から迫る強大な魔力にギリギリ気付き、わずかに体を曲げる。

 シャルの攻撃は鬼の脇腹を抉ったが、まだ致命傷にはなり得ない。


「ちっ! 避けられたっ!」


 シャルは強く舌打ちをする。傷を負ったジャイアントオーガは無作為に暴れだし、木々を薙ぎ倒す。


「これ以上暴れられると面倒だ。じっとしてやがれ! 《プラント・ウィップ》!」


 俺は鬼の足元から植物の蔓を生やし、腕や足に絡み付かせた。だが、鬼が一際大きな咆哮を上げると、蔓がボロボロと崩れ去り、それだけでなく、鬼の周囲にあった木までが急速に枯れていった。

 そして鬼はいきなりこちらに向かって走ってきた。


「なっ!?」

「何よ今の!?」


 俺とシャルは同時に驚愕する。そして鬼のいる逆の方向を全力で走る。


「……くそ、そうか。あれが、グラニーチェ山の魔力か」

「木を枯らす魔法のこと? 山で修行した奴のみが会得できる魔法にしては品がないわね」

「いや。恐らく逆だ。本来の力は木々を成長させるものだろう。それを鬼が無理矢理暴走させて使ったんだ」


 そして、急速に成長した植物は枯れ果てる。神木ほどの木なら枯れることはないだろうが、ここらにある植物ではその魔法に耐えられないのだろう。


 俺はそう推測をたて、追ってくる鬼を振り返る。

 鬼はデカイ図体の割に足が速い。こちらが身体強化をしていなければ即座に追い付かれるだろう。そして、何より問題なのが、鬼の過ぎ去った道にある木や草が枯れていき崩れていく。

 これ以上被害を拡大させるわけにはいかない。


「シャル!」

「あんたに言われるまでもなくわかってるわよ! もう準備は出来てるわ!」


 俺はまだ何も言っていなかったが、シャルは俺の言いたかったことを正しく理解していた。


「なら、頼むぞ。【原典(オリジン) 風の章 上級編(サード)】《サイクロン・ブロウ》!!」


 そして俺は振り向き様に杖を横一文字に振り魔法を放つ。放たれた魔法は旋風となって鬼の体を空高く舞い上げた。


「飛べない鬼にこの攻撃は躱せないわよ」


 シャルが自身に風の魔法を付加させ、高くジャンプし、鬼に死刑を宣告した。


 上空にいるなら、山の心配をする必要はない。上空に向かって放つなら、火や雷を使っても何ら問題はない。


「これでとどめよ! 【原典(オリジン) 炎の章 超級編(フォース)】地獄の釜より現れいでよ。黒き獄炎の(ほむら)。我の敵の一切合切を情け容赦なく焼き尽くせ! 《インフェルノ・ブレイザー》!!」


 黒い獄炎の(ほむら)が鬼の体を灰も残さず焼き尽くしながら、上空へと駆け上る。

 鬼は断末魔の声を出すこともなくこの世から跡形もなく消滅した。


「はっ。ざま、ぁ……」


 魔力を一気に使ったため、シャルは持っていた槍も手放し、そのまま落下してくる。

 俺は慌ててシャルを抱き止める。その時の形は所謂「お姫様だっこ」だった。


「な、なぁぁああっ!?!! なに、ななっ!? なにしてっ!?」

「うるさいな……。何だよ。俺に助けられたのがそんなに不満か?」

「え? ち、ちがっ、うくないわよ! そうよ! 早く速やかに早急に降ろしなさいよ、どこ触ってんの!? このシスコン変態紙オタク!」

「てめえ!! 小説馬鹿にしてんじゃねえぞ!!」

「はっ! 怒った? なら掛かってきなさいよ! こちとら本来の目的はそっちなんだからねっ!!」


 ついさっきまでのチームワークと信頼感はどこへやら、俺達はそのままくだらない口喧嘩が小一時間続いた。


☆☆☆


 その後。何かと喧嘩ばかりしていたが、残りの依頼も終え、アルカへと戻った。


「はぁ。疲れたわね~。これ、報酬が金塊堂のパフェ全種じゃ足りないわね。ケーキ全種類も追加ね」

「はぁ? おま、何種類あると思ってんだよ!」

「それを今回調べるんじゃない。あぁ~楽しみだわ~」

「ちなみに拒否権は──」

「あると思う?」


 その時のシャルの顔はとても可愛らしかった。可愛さ余って憎さ百倍だった。


「あ、そういや結局あんたと決闘してないじゃない。あんたこのあと付き合いなさいよ」

「やだよ。疲れてんだから。一人でやれよ

「どうやったら一人で決闘が出来るのよ! って、ちょっとあれ見て!」

「ん? ロー?」


 そんな下らないやりとりをしていたその時、遠くにローの結界魔法が発動されていることに気付いた。遠視魔法で結界の中を確認すると何人かのチンピラ達が閉じ込められ、ジン達と戦っていた。


「何があったかはしらねえが、しょうがねえ。一応行くか」

「そうね。あっ、そうだ。せっかくだし勝負しましょう。あの結界の中にいる敵を多く倒した方が勝ち。勝者は敗者に何でも一つ命令出来る!」

「いや、やらね──」

「じゃ、スタート!」

「話聞けよ!!」


 シャルは俺の話を微塵も聞くことなく全力で結界目掛けて走っていった。

 俺はなんだか激しいデジャヴに襲われながら、やる気もないので小走りでシャルの後を追った。


 だが、結局その勝負はうやむやになり、後日、金塊堂にて俺の今回の依頼報酬のほぼ全てがデザートに消えた。

 俺はその時、勝負を真面目に受けて金塊堂の支払いをシャルと折半させることにすればよかったと激しく後悔した。


 そして、アルカディア学園の入学式を明日に控えた今日。俺はギルドに呼ばれ、またもや面倒な話を持ちかけられてしまった。


「はぁ……。だるいな」

「そう言うな。お前が人気なことはいいことじゃねえか」

「他人事だと思いやがって……。あぁ~、今度直接愚痴を言わせてもらわねえと気がすまねえな」

「ははっ。あいつ喜ぶんじゃねえか?」

「愚痴を聞かされて喜ぶとかどんな変態だよ。まあ、でもジンよりはマシか」

「俺を変態の代名詞みたいに言ってんじゃねえ!!」


 俺はジンから渡された新たな依頼書に目を通してから、さらに大きな溜め息を吐いた。


★★★


「あぁ~。とうとう明日ですねぇ~。わくわくしますねっ! ねっ! リラ!」

「私、既にその学園の生徒なので、そこまでわくわくはしないですね。というか、ミソラ。早く寝てください。明日は早く起きないといけないんですから」

「は~い!」


 私はとうとう明日から通うことになる学園──アルカディア国立学園の制服を眺めながら様々な期待を抱きつつベッドに潜るのであった。

 でも興奮の余り寝付くのが少し遅かった。


 アルカディア学園。一体どんなところなのか、楽しみで仕方なかった。


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