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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
二章 異世界生活始まります
24/27

23話

 カイン・リヴァイアは呆然としていた。


 まさか、あの悪名高い『鴉達の酒場(レイヴンズ・バー)』の者達の戦闘をこんなに近くで見ることが出来るとは思っても見なかったからだ。


 ジン・コーヴァス。普段はギルドの商品である酒を大量に飲みまくり、ギャンブルをすれば連戦連敗し、しかも一切反省することなく再挑戦し、いい女にはすぐに騙されて、その有り金全てを奪われる。

 そんな、よほど一ギルドのギルドマスターをやっている思えない人類最底辺の男だが、彼は破砕王という異名を持ち、大地を揺るがし砕き割ることが出来るというほどの魔力を持つ、この町最強の男である。


 ナナリア・ウィンヘイム。普段はふらふらと町中を放浪し、可愛い子を見つけたら男だろうが女だろうが子供であろうが大人であろうがところ構わず口説き回り、ギルドに連れ込み酒を飲ませ、酔わせたところを食い散らかす(性的に)。

 そんなよほど一ギルドの副マスターをやっているとは思えない無茶苦茶な女だが、彼女は紫電の女王という異名を持ち、天を引き裂き稲妻を降り注がせることが出来るほどの魔力を持つ、この町最強の女である。


 リク・アースランド。普段は横柄で生意気で、家は本で埋め尽くされていて、町中でも構わず本を読みながら歩き回り、図書館には閉館時間を超えてもまだ入り浸り、本や妹のリラに危害を加えるものには誰であろうと容赦なくボコボコにする。

 そんな、よほど一ギルドのエースを担っている思えない男だが、紅蓮の妖精という異名を持ち、最年少で魔導師にまで登り詰めた天才であり、この町最高の魔法使いである。


 そして、今まさに役目を終えて空気に溶けて消えていく結界と、その周りを飛び回るカラスを見る。

 この結界魔法やカラスを使役している人物にも心当たりがある。


 ローウェン・バクライア。普段はギルドの地下に引きこもり、滅多なことがなければギルドの外に出ることはなく、それどころか、ギルドの地下からもほとんど出てこないという究極の引きこもり。

 そんな、よほど一ギルドの守りの要を担っているとは思えない男だが、絶界という異名を持ち、この町全てを常に監視し、非常時には即座にどの場所にも結界を張り巡らせることのできる、この町最強の砦である。


 ムース・ホートネス。普段はギルドの酒場のカウンターで店員をしている、表面上まともそうに見える人物だが、ドがつくほどのケチであり、金が関わると目の色が変わり、例えギルドのメンバーだとしても金を払わせる。そして、生粋のロリコンであり、幼女にならどれだけの金を使っても構わないと考えている。

 そんな、よほど一ギルドの参謀を担っているとは思えない男だが、黒羽の軍師という異名を持ち、相棒であるカラスの魔獣、クロと連携し、ギルドの全員の動きを読み取り正確無比な指示を飛ばすことのできる、この町最高の指揮官である。


 カインはそんな彼らに憧れていた。

 つまり──。彼もまた、変な人間なのであった。


☆☆☆


 俺はふぅ、と長く息を吐き出し、空を見る。

 ローの結界はもう消えており、公園には先ほどの戦闘での傷は一つ足りとも残っていない。

 クロも分身を消し、残った本体は俺の頭に乗っかっている。

 この前の借りと一緒に燃やしてやろうかとも一瞬思ったが、こいつのおかげで残党を狩ることが出来たのだから大目に見てやることにした。


「それで、お前ら無事だったか?」

「はい。私とミソラは大丈夫です。ですが、カイン君が……」


 そう言ったリラはミソラの横に立っている男を見る。誰だ、あいつ?


「まっ、まさか……。リラの彼氏?」

「いえ、違います。ただの友達です」

「あ、あぁ、そそ、そうか。なら、良かった」


 何故かミソラからじとっとした目で見られたが、気にしないことにした。

 そしてその隣のカインという少年が何故か悲しげな表情をしていたが、気にしないことにした。


「まあ、全員無事ならそれでい──」

「良かねえだろリクッ!! 何俺まで爆撃してくれちゃってんだよ! 見ろ! おニューの服が台無しだ! どうしてくれるっ!」

「全員無事ならそれでいい!」

「聞き流すな! ちゃんと弁償しやがれぇ!」


 うるせえな。どうせその服も可愛い女店員にそそのかされて買わされた物のくせに……。


「リクぅ~! 私さっきリラちゃんとミソラちゃんに振られたんだぁ~。だから慰めてぇ~。主にベッドの中でぇ~」

「断固断る。少しは自重しろ」

「うわっ! リクにまで振られたぁ~!? あぁ~あ、仕方ない。シャルで我慢するか」

「何で私に話が流れてくるのよ!! てか私だってお断りよ!! てか何で私で妥協しようみたいな感じなのよ! なんか複雑にムカつくわ!」


 ナナは口を尖らせながらシャルに迫る。そしてシャルは槍を構えながら後ずさる。もしナナが全力で掛かってきたなら、おそらくシャルは食われるだろう。俺はナナの頭部に向かって杖を降り下ろす。


「あいたっ!」

「やめろっての。変に注目浴びちまってるだろうが。またギルドの評判が下がる」

「ぶ~。……ん? あの娘可愛くない?! へいそこの美少女~!」


 そう言い残したナナはすぐさま群衆の中に消え。


「あ、やべえ。酒が切れた。誰か酒持ってきてくれぇ~!」

『幼い子供もいるところでそんな下品な姿を晒さないで下さい。さっさと戻ってうちに帰ってきてください! って、もうめんどくさいです。クロ頼みますよ』

「アホ~」

「いだだだだっ! やめろクロ! 俺の柔肌に傷が付くだろ。お婿に行けなくなるだろ!」

『キモいです。ジン。口を開かないでください。クロ。速やかにその男をギルドに運んできてください。ギルドの評判が更に下がります』

「あいだだだだだだっ!? ら、乱暴にするなって! 爪がっ! 爪が食い込んでりゅうううっ! いやぁぁらめえぇぇぇ!!」


 酒が切れたとだだをこねるキモいおっさんが、分身したクロに頭やら腕やらを捕まれ、強引に引っ張られていき。


「兄さんっ! 今から私の買い物に付き合ってください!」

「今からっ!? 今日は疲れたし明日からでも──」

「に・い・さ・ん?」

「是非買い物に付き合わせて貰いますっ!」

「ちょっ、リク! まだ私との勝負が付いてないでしょうがっ!」

「やだよ。めんどくさい。お互い、倒した数だって正確にわからないだろ。てかそもそもそんな格好した奴とこれ以上一緒にいたくない」

「ぶっとばすわよ!」


 俺とリラは町へと買い物に。その後ろをシャルが鬼の形相で追いかけてきた。


 それぞれが、それぞれに好き勝手に散らばり始め、公園にはミソラとカインという少年だけが残った。


★★★


「「……す、すごい」」


 私とカインの言葉がきれいに重なり、お互いの顔を見やる。


「なんか、圧倒されっぱなしでしたね」

「あぁ。すげえ人達だってのは聞いてたんだが、まさかここまでだとは思ってもみなかったぜ」


 本当にその通りだと私も思った。まさかあそこまで──


「「まさかあそこまでぶっ飛んだ人達だったとは……」」


 あの人達を見ていると自分がどれだけ極々一般的な異世界人なのかがよくわかる。


 しかし、やはりリクさんの所属しているギルドだけあって本当に強い人達ばかりなんだな、と感動もした。

 最初から決めていたことではあるが、やっぱり私はこのギルドに入りたいと、そう思った。


「俺、やっぱこのギルドに入りてえな」

「えっ? あぁ、リラが入る予定だからですか?」

「なっ!? ち、ちげえよ! ……いや、確かにそういう意味も少しはあるけど。ってそうじゃなくて!」


 何でここまでバレバレなのに誤魔化そうとするのだろうか。と気にはなったが、こういうキャラは自分が誰に好意を向けているかを周囲にバレていないと思い込むことが多い。ソースはラノベ。

 カインもそのキャラであることはまず間違いないだろう。だから私はあまり深く追求してやることはせずにカインの言葉を待った。


「あの人達さ。仲間(リラ)のために本気で怒ってたろ? それはギルドの仲間を本当の家族のように思ってるってことだろ。それって、何か良いな、ってさ。そういうところにすげえ憧れてたんだよ。……悪い。何かうまく説明出来ねえけど」

「いえ。それで十分伝わりましたよ。私もそういうギルドに憧れてましたし。それに私もいずれこのギルドに入るつもりですし」

「そうなのか?」

「はい。まあ、まずは学校に入学するつもりですけどね」


 そう言って私は無意味に胸を張る。


「そうか。ならお互い頑張ろうぜ」

「えぇ。ではまた。そろそろ私もリクさんを追い掛けませんと」

「そうか。なら、会えたらまた学校でな」


 私はカインに別れを告げてからリクさん達が歩いていった道を走っていった。


~~~


 一人残ったカインは走り去るミソラの背中を見送ってから、学校の寮へと戻るために歩き始める。

 その時、ふと先ほどのミソラの言葉が引っ掛かった。


「……ん? 入学?」


 だが、その言葉が誰かに届くことはなかった。

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