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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
二章 異世界生活始まります
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19話

「えええぇぇっ!? リクさんがもう仕事に出掛けたぁぁぁ!?」


 アルカに到着し、一日経った朝。リラちゃんと共に『鴉達の酒場(レイヴンズ・バー)』に訪れた私はムースさんの言葉を聞いて驚きの声を上げた。


「ミソラちゃん。あまり大きな声を出さないで貰えるかな? ルウが起きたらどうするんだ?」

「あっ、はい……。ごめんなさい」


 ムースさんの口調はまだ優しげだったが、目が全く笑っておらず、私は即座に謝罪した。

 そんな私に代わってリラちゃんがムースさんに尋ねた。


「それで、兄さんは一体どこに行ったんですか?」

「ん~。二、三件の依頼書を同時に持っていったから、最初に何処へ向かったかは僕にもわからないな。どうしても行き先を知りたいなら今からクロに探させるけど?」


 ムースさんに呼ばれてクロがカウンターの方へと飛んでくる。

 しかしリラちゃんが首を横に振る。


「いえ、いいです。どうせ見付けてもどうにもならないでしょうし」

「うぅ……。主人公である私を置いていくなんて酷すぎです……」

「えぇ、っと……。あはは」


 リラちゃんは何とも言えないような複雑な表情を浮かべていたが、私は朝から一気にローテンションになってしまったので、それがどういう感情から来た表情なのかはわからなかった。


 話を聞くと、 何でもリクさんは「昔の感覚を思い出してくる」とか言い残して今朝早くに出発してしまったらしかった。

 あと私に言伝てを預かっていたらしく、ムースさんが言うには「お前はギルド(そこ)でまず一般常識を学べ。あと、俺の仕事に尾行しようとか考えるなよ。本気で死ぬ」だそうです。

 本当、一体何処へ行ったというのか。たぶん、私に構っていられないほどに危険な仕事なのだろう。

 私自身、どれ程の力を持っているのか把握しきれていない今、そんな所へ無謀にも着いて行ったなら、今度こそ最悪の結末に陥ってしまうかもしれない。

 そこまでを想像し、私は大人しくリクさんの言い付けを守ることしにした。


「と、言うわけでリラちゃん。この世界の文字を教えてください。お願いします!」

「あっ、はい。………………え?」


 リラちゃんは快く承諾してくれたが、何故か目を丸くしていた。


「文字、読めないんですか?」

「自慢じゃないですが、読みも出来なければ書けもしません」


 私はそう言うと、リラちゃんは本気で困ったような顔をした。

 ついでにクロが「アホ~」と鳴いたが、それは私に対する悪口だったのだろうか。


「あの……。学校はあと一週間ちょっとで始まるんですよ? そんなので大丈夫なんですか?」

「はい、大丈夫ですよ。私、一度教えて貰えればすぐに覚えられますので。それに文字さえ覚えられたら他の、歴史や魔法やらの本を片っ端から読めば一週間どころか三日か四日くらいでこの世界の知識のほとんどは得られると思いますし」


 私は何の気もなく、ただの事実を口にしただけなのだが、リラちゃんは、ムースさんも頭を抱える。何なんだろうか?


「いやいや。そんなこと出来るわけないじゃないですか。文字や一般常識程度ならともかく、歴史は長く魔法は多岐に渡ります。本だって何百、何千、何万とあるんです。それを四日でだなんて、覚えられるはずがないですよ」

「大丈夫です。私には美空流速読術がありますから。万や千冊は流石に無理でも、百冊以上なら読めるでしょう」

「……あの、何ですかその、ミソラ流って?」

「私の生み出した流派です。ちなみに私以外には出来ません」


 私は無駄に偉そうに胸を張った。

 リラちゃんはどこか諦めたような顔付きになって、私に文字の読み書きを教えてくれた。

 その諦めたような表情は、前に見たリクさんの表情と全く同じだった。


★★★


「す、すごい。本当に一度教えただけで、しかもたったの数分で覚えてしまったんですか?」

「いやいや。この言語、仕組みは結構簡単じゃないですか。形は全然違いますが、これただのローマ字と仕組みは一緒ですし」

「ろーまじ? 何ですかそれ」

「異世界の文字です」

「はぁ……?」


 リラちゃんは首を傾げていたが、どれだけ言った所で理解はされないのだろうなと思って私は早速リクさんの家にあった大量の本を読み漁ろうかと席を立った。


 それとほぼ同時に、酒場(ギルド)の扉が勢いよく開け放たれた。

 あまりに勢いよく開いたせいで、扉に吊るしてあるベルがガチンッと壁にぶつかった。


「リィィィィィクゥゥゥゥゥ!!! 出て来なさぁあいッッ!!!」


 そしてギルドに飛び込んで来たのはピンクの髪をツインテールにした美少女だった。

 しかし、その顔はさながら鬼の形相をしており、せっかくの美少女が台無しだった。

 そして背中には大きな槍、いや、あれは──


「ガンランスッ!? 凄い! リアルハンターみたい!」


 そう。某有名ゲームに出てくるようなガンランスを背負っていた。

 そんなツインテハンターにムースさんは眉間にしわを寄せながら苦言を呈する


「シャル。君も女の子なんだからもう少しおしとやかに扉を開いてくれないか。また壊されたんじゃ堪ったもんじゃないからね。それに前はちょうどお客さんが扉から出ようとした瞬間に──」

「そんな前のことは今はどうでもいいのよ! それよりリクの奴はどこ!? 町に戻って来てるって情報は既に掴んでるのよ! 隠すとあんたのためにならないわよ?」


 しかし、ムースさんの話を遮り、リクさんの居場所を問い詰めるツインテハンター。

 ムースさんも思わず溜め息を漏らしていた。


「リクなら今朝には町を出たけど」

「はぁ!? 何ですって!? あンの紙オタク馬鹿がぁ!! 私との約束ほったらかしてまた勝手に出掛けたですって!? それでどこ行ったのよ!?」

「依頼書三件同時に持ってったから何処へ最初に行ったかは──」

「ならクロを飛ばしなさいっ! 場所さえわかれば私が直接追いかけるから!」

「……クロ。お願いできるかい?」


 心なしかクロも「しょうがねえなぁ」みたいな顔をしながらギルドの外へと飛び立っていった。


 そして不意に訪れた沈黙に、私は耐えきれなくなって隣に立つリラちゃんに耳打ちをした。


「リラちゃん。あの登場シーンが過激なピンクツインテガンランス美少女は誰ですか? 何だかリクさんと約束が、とか言ってましたけど……。はっ! もしかして、リクさんの恋人っ!?」

「違うわっ!! ……って、誰あんた」


 まさかの本人からのツッコミに内心驚く私。だけどすぐに意識を切り替え何度目かの自己紹介をした。


「私はミソラと言います。異世界人です」

「なるほど、あんたも相当な変人なわけね。それじゃムース。リクの場所がわかったら呼んで。私は上にいるから」


 それだけ言うともう私に興味を無くしたのか、踵を返して階段へ向かった。

 しかしムースさんが小声でこう呟いた。


「ちなみにリクが連れてきたんだよね」

「詳しく話を聞かせなさい!!」


 階段へ向かっていたはずの彼女は一気に私に詰め寄って来た。私は軽く両手を上げながら後ずさる。


「えっ?! 詳しくと言われましても……」

「シャルさん。まずは落ち着いてください。威圧がすごすぎてそれじゃあ会話になりませんよ」

「リラ……。はぁ、わかったわ。クロがリクを見付けるまで暇だしね。じゃムース、これでなんか適当に作って」


 そう言って彼女はカウンターに手のひらほどの大きさの袋を放り投げる。中身は大量の金貨だった。


「全部使っていいから、その代わり早く作りなさいよ」

「やれやれ。畏まりました」

「じゃあ私も手伝います」


 ムースさんとリラちゃんは厨房へと消え、他にお客もいないので、広い酒場にたった二人だけとなってしまった。


 き、気まずい……。と思っていたら向こうから急に話し掛けられた。


「ねえ、その髪って地毛なの?」

「へ? あぁ、はい。そうですよ」

「ふ~ん。あいつ、こういうのが……」


 何か小さな声でぶつぶつと言っていたけれどよく聞こえなかった。

 そう言えば、この世界では黒髪は珍しいんだったな、と思い出す。


「でも、その……えっと……」

「なによ? って、そういや私、名乗ってなかったわね。シャルロッテ・ランスロットよ」


 シャルロッテ・ランスロット。なるほど。それでシャルか。


「でもシャルロッテさんの髪も素敵で綺麗ですよ。そのツインテールもスゴく似合ってますし」

「そ、そう? ま、まあ、当然だけどねっ。あっ、それと私のことはシャルって呼んでいいわよ」

「は、はい。じゃあシャルさんで」


 最初は少し怖い人なのかと思ったけれど、案外チョロそうだなと内心思った。


 その後、私は運ばれてきたムースさんの料理を堪能しながら今までの経緯を簡単に説明した。


 そして、全てを説明し終えたら、シャルさんが突然テーブルを叩き立ち上がった。


「あ・の・馬鹿リクがぁぁっ!! 調子に乗って死にかけたですって! 私以外に負けたら承知しないって言ってあったでしょうがぁぁぁあ!!」

「あ、あの。それは私が足手まといだったせいで……」

「別にそんなの関係ないわ。ただあいつが腑抜けてただけよ! いくら再生の杖なんていう面倒な杖を使ってたからって、あいつがそんな雑魚相手に瀕死の怪我を負わせられるわけがないのよ! 全部あいつの怠慢が招いた結果よ。今すぐあいつの顔面に一発入れてやらないと気が済まないわ。ムース! クロはリクをまだ見つけられないの?!」

「そうですねぇ……。おや、見付けたようです。町から南に向かって……」

「南ね! 待ってなさいよリク!!」


 言うが早いか、入ってきた時と同じように扉を勢いよく開いて弾丸の如く駆けていった。

 テーブルにはまだ大量の料理が乗っているのだが、これはもういいのだろうか。

 もしかして、全部私が食べないといけないのだろうか。

 ともあれ、台風のようにやって来て、竜巻のように去っていったシャルさんは急速に南へと向かっていった。

 次はリクさんに直撃するんだろうなぁ、なんて他人事のように思った。


「なんだか、凄い人でしたね……。色々と」

「シャルもこのギルドのメンバーだから」


 何故かその一言だけで妙に納得してしまった私がいた。

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