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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
二章 異世界生活始まります
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17話

「くそ。外に逃げやがったか」

「あ、リクさん。聞いてください。私アルカディア学園に入りたいんです。何とかなりませんかっ?」


 クロを取り逃がしたイライラを募らせながらカウンター席に戻ると、ミソラが興奮気味にアルカディアへの入学手続きをしてほしいと懇願してきた。

 一瞬顔をしかめる俺だったが、確かにこいつのあの超身体能力があれば入学は出来るだろう。

 しかし、と思った瞬間俺は閃き、ミソラの要望に答えてやることにした。


「構わねえぞ。手続きくらいはしてやる」

「ほんとですかっ!ありがとうございます」


 嬉しそうに感謝を述べるミソラを見て、心の中でニヤリと笑う俺を見たリラが「兄さん……」と、じと目でこちらを睨んでいたが、俺はあえて無視をすることにした。


「兄さん。何だか今日はいつにも増して機嫌悪いですね。何かあったんですか?」


 リラは正確に俺の機嫌の悪さを指摘し、俺の目を覗き込んでくる。

 うっ、と目を逸らしつつも正直に訳を話す。


「……欲しい本が売り切れだったんだよ」

「あぁ、『べリアルマインド』ですね。それなら私が買っておきましたよ。何だか破竹の勢いで売れていたので兄さんが帰ってくる頃には売り切れてしまっているかと思って──」


 なん、だと……。俺はリラの言葉の意味を理解出来ずに呆然とリラを見つめていたら、リラがポーチから俺の求めていた『べリアルマインド』の本を取り出した。


「リラ愛してるっ!」

「はい。私も愛してますよ兄さん」


 俺は即座にリラの手を握り、目を輝かせながら感謝した。流石は俺の妹だ。気遣いのレベルが神レベルだ。


「じゃ。俺早速読みふけるから、誰も邪魔するなよ!」

「わかってますよ兄さん。今日はもうゆっくりしてください」

「ありがとよリラ。それじゃあとのこと頼んだ」

「は~い」


 リラの返事を聞いた俺は階段を登っていった。



★★★


「今のは一体誰ですか……?」

「はは……。君のよく知るリクだよ。リクは好きな物を前にするとよくああなる。特に小説とかね。僕たちはリクのことをよく『紙オタク』って言ってる。でも本人の

前では言わない方がいいよ」


 私は今起こった一連の出来事に頭が着いていっていなかった。


 まさかあのリクさんがあそこまで無邪気に喜び、妹であるとはいえリラちゃんに「愛してる」だなんて。


「う~ん。あれくらいだと一時間くらいかな」

「え? 何がですか?」

「兄さんがあの本を読み終える時間です。そして読み終わった後はいつも小休止してからもう一度読み返すので、その小休止の間にサンドイッチでも作って持っていくんです。そうでもしないと兄さん何も食べないから」


 い、妹恐るべし……。兄の読書スピードを完全に把握し、癖を知り尽くし、あまつさえ手が汚れないようにサンドイッチの差し入れを考えているなんて。


 リラちゃんはたぶん、超が付くほどの──


「リラちゃんは、ブラコンなんですね……」

「はいっ。兄さんは私にとって最高の兄であり、自慢であり、誇りです。世界で一番尊敬し、愛している人です」


 その時のリラちゃんは太陽のような笑顔をしていた。


 そして、リクさんも超が付くほどのシスコンなのだろうな、と思った。


「まさかとは思いましたが、このギルドって変な人ばっかりなんですね」

「変とは心外だなぁ~」

「あれ? ナナリアさん。帰ってたんですか?」

「え? リラちゃんが帰ってきた時にいたじゃん。……リクしか目に入ってなかったなこんにゃろめ」


 そういえば私もクロやリラさんに気を取られてナナリアさんのことを忘れていた。

 それに思い返せばさっきから姿が無かったが、何をしていたのだろう。


「掃除してきた」

「あ、マスターを片付けてたんですね。お疲れ様です」


 さらっと私の心を読み、リラちゃんは事も無げにお疲れ様と言う。

 ある意味本当にすごいギルドだと思った。


「まともなのはムースさんと私くらいですね」

「自分のことを棚に上げてすごいこと平気で言うよねミソラちゃん。でも、ムースはそんなんじゃないぞ?」

「えっ?」

「ちょっとナナさん。変なこと言わないでください。確かに少しお金にうるさいところはありますが、それくらいですよ」

「あぁ……なるほど」


 水一杯でお金を取るのが少し、というならそうなのだろう。しかし、他の強烈な個性を見ているとまだマシに思え──


「るう? るーるー」

「おや? どうしましたルウ。お腹が空いたんですか? 待っててください。今すぐご飯作りますからね。今日はリラさんに高級のお肉を買ってきて貰いましたから楽しみにしておいてくださいね」

「るう~! るーうー!」

「ははっ。そんなに喜んで貰えると僕も嬉しいよ」


 ムースさんと、階段から降りてきた白い、髪も服も肌も本当に真っ白な少女の会話を私は口をぽかんと開けながら見ていた。


 何故かと言えば、ムースさんがカウンターから一瞬で階段まで移動し、さっきまで見せなかった本物の笑顔というものを少女(いや幼女と言った方が正しいかもしれない)に向けていたからだった。


「ま、まさか……」

「そのまさかだよ。見てな。おいムース。その高級肉って私らの分もあるの?」

「は? あるわけないでしょう? 全部ルウの分です。リラちゃんはお肉を買ってきてくれたので少しだけならあげますが、ナナさんに渡す分は一切れたりともありません」


 ムースさんの言葉に温度を感じ取れなかった私は、軽く身震いした。


「わかったミソラちゃん? あいつは変態的なロリコン野郎だ」

「それとあの白い()はルウちゃんです。何故か「るう」「るー」「うー」以外の言葉を発することが出来ないみたいです。意思疏通みたいなことは出来ますが、完璧に意思疏通出来るのはロリコンであるムースさんだけなんですよ」

「二人とも。あまりロリコン言わないでくれないかな。僕はただの紳士だよ」


 変態という名の? と私は心の中で半ば呆然としながらツッコんだ。


 やばい。このギルド早くなんとかしないと。と思っても、おそらく手遅れなのだろうな、とも思う私だった。


☆☆☆


「ふぅ……」


 俺はリラから貰った『べリアルマインド』の新刊を読み終えた後の妙に満たされた感覚に身を預けながら椅子に持たれ掛かる。


 ここはギルド三階にある宿泊用の個室なので、自室にいる時と違い、本を棚に並べて眺めることは出来ないので、本はそのまま机の上に置いて、目を閉じる。


 今回も面白かった。早くも次回が読みたくなる出来だった。小説を読んでいるといつも必ず思うことだが、この感覚も嫌いではなかった。


 するとちょうどそのタイミングで扉をノックする音が聞こえた。

 おそらく、いや確実にリラだろう。本当にいつもバッチリのタイミングでやってくるので、どこかで監視されているのではないかと疑ったことすらあるくらいだ。


「兄さん。今大丈夫ですか。お腹空いただろうと思ってサンドイッチ持ってきました」

「あぁ、ありがと。入ってくれ」


 俺はそう促し、リラが部屋に入ってくる。リラはサンドイッチとコーヒーを机に置き、俺の邪魔にならないようにか、素早く部屋を出ようとしたが、俺はリラを呼び止めた。


「リラ。少しいいか?」

「え? はい。どうかしたんですか?」


 俺に呼び止められたのが意外だったのか、不思議そうな顔をしていたリラをベッドに座らせ、俺は徐に話し始めた。


「もう気付いてるかもしれないし、話を聞いたかもしれないが、お前にはちゃんと俺の口から言っておく。……俺、あの杖を使ったんだ。ちなみに対象は俺自身。今回下手うって死にかけた」


 リラはハッと息を呑み、俺の死にかけたという言葉に顔を青くする。


「大丈夫だリラ。確かに死にかけたが、死んじゃいない。現にこうしてここにいる。だから心配はいらない」


 そう言ってリラを安心させるが、リラの顔は未だ優れない。


「……まあ、心配いらないとか言われても、って感じだよな。でも本当に大丈夫だから、な?」

「……はい。私は、兄さんを信じてますから。兄さんは私一人を置いて死んじゃったりしないって」

「そっか。ほんとにごめんな、リラ」


 俺はリラの目からこぼれ落ちそうになっていた涙を指で拭ってやり、頭を撫でながらジンの言葉を思い出す。

 俺の命は確かに俺のものだけではない。そのことを改めて再確認し、俺は一つの決心をした。

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