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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
二章 異世界生活始まります
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15話

「そうかミソラちゃんね。俺はジン・コーヴァスだ。よろしくな」

「よ、よろしく、お願い、します」


 何か心の中で葛藤があったのか、ミソラはかなり言葉を詰まらせながらも挨拶を返す。


 まあ、その目の前の男が、正座の上に分厚く重い石畳を五枚乗せられている状態なのだから当然の反応だろう。


 ちなみに服は着ている。ついさっきの客から俺がジンの服と店の酒代の分だけは取り戻しておいたのだ。

 その場にいた客はとりあえず追い出し、今はジンに反省させているのだが。


「まだまだ余裕がありそうなので三枚くらい一気に追加しましょうか」

「もういっそのこと五枚くらい乗せとけ」

「ちょっ! 待てリク! 流石にそれは俺でもキツい! 十枚はダメ! ほんとダメ!」


 慌てて首を振るジン。ちなみに手は後ろで縛られているので自由に動かせるのが首しかない。

 必死に首を振って抗議するので、優しい俺達は間を取って四枚だけ乗せておいた。

 ひぎぃぃ~っと悲鳴を上げるジンだったが、俺達はそのままジンを放置することにした。


「…………なんと、言いますか、すごく、個性的な、マスター、ですね」


 ミソラはカタコトになりながら何重にもオブラートに包んで感想を言う。


「無理するな。ここまでダメなギルマスはそういない。酒にだらしなく、金にだらしなく、女にだらしない。三拍子揃ったゴミマスターと呼んでいい」

「そ、それは、あんまり、だろ、リクッ!」


 何か聞こえた気がしたが、恐らく幻聴だろう。

 そんな時、カランッと扉の鐘の音が鳴った。


「たっだいま~。って、おおっ? 帰ってたのかリク~!」

「うわ、またうるさいのが……」

「うるさいとはなんだよ~。お姉さんとリクの仲だろ~?」

「おまっ、飲んできたな? 臭い寄るな!」

「ナナさん。飲むならうちで金を落としてくださいとあれほど」

「いやぁ~ごめんごめん。おっちゃんに飲んでけって言われちってさぁ~」


 店に入ってくるなり、鬱陶しいテンションで絡んで来たのはナナリア・ウィンヘイム。

 紫の髪に抜群のプロポーションを惜し気もなく晒すような大胆な服を好んで着ている姉御肌を持った女だ。

 そして、ミソラはそんなナナリアを見て目を丸くする。

 そういえばさっきまた変なことを言っていたな。と思い出す。


「み、耳が、猫耳が頭から生えてるっ!! それに尻尾も! そ、それって本物ですかっ!?」

「ん? なに? この子誰?」

「あぁ~説明がめんどい。とりあえず拾った」

「あっ、私ミソラと言います。よろしくお願いしますっ!」


 ナナリアの頭に生えた猫耳と腰から伸びている尻尾を見たせいか、かなり興奮気味に自己紹介したミソラを見て、ナナリアは舌舐めずりして悪い癖を出す。

 

「ん。よろしく。それにしても黒髪とか珍しいね。ねぇ触っていい?」

「あっ、はい。どうぞ」

「すごく綺麗な黒髪だねぇ。手入れもちゃんと行き届いてる。それに肌もぷにぷにしてて柔らかぁい」

「えっ? あの……ちょっと……」


 ナナリアの目は妖しく光りだし、ミソラは軽く身を引いた。が、ナナリアはその腰に手を回して引き戻し顔を近付ける。


「ふふっ、可愛いなぁ。ねぇ? ミソラちゃん、だっけ? 今からお姉さんと良いことしない?」

「……へっ?!」

「大丈夫だよ。怖くないから。それにお姉さん慣れてるから、しっかりリードしてあげる。初めてでも全然平気だよ? ちゃんと気持ちよくしてあ・げ・る」

「えっ? えっ? えぇっ?!」

「まあ取り合えず、部屋行こっか? 何なら高級の宿屋に今からでも──ファッ!?」


 俺はナナリアの顔に水をぶっかける。

 ムースが「十ユグル追加、っと」と言っていた。しくった。普通にしばけばよかった。


「……あぁ~あ。何すんの。せっかくの美貌に水が滴って更に良い女になっちゃったじゃない。それにあと少しで口説き落とせたのに」

「ほぼ無理矢理連れ込もうとしてた、の間違いだろ。ったく」


 俺はそう言ってコップをテーブルに置く。

 その音にビクッと反応したミソラが顔を真っ赤にしながら脱兎の如く駆け出して俺の後ろに隠れた。


「えっ、えとっ、リクさんっ。わ、わたし、もしかして今、貞操の危機でしたかっ?」

「あぁ。ギリギリだったな」

「ああ! 否定して欲しかった! そんな人じゃないって言って欲しかった!」


 ミソラは俺の服の端をつかみながらプルプル震えていた。

 何でドラゴンと対峙したときより怯えてるんだよ。と思わなくもなかったが、女にとっての危機だったのだし、まあ服くらい掴ませてやっていいかと、視線をナナリアに戻す。


「あちゃ~。怯えさせちゃったか。失敗失敗」

「反省してねえなお前」

「反省なんかしてたらあたしじゃないっ! にゃははは」


 いや、しろよ。と思うのだが何回言っても反省しないのだからどうしようもない。


「と、いうわけで、こいつはナナリア・ウィンヘイム。男も女も平気で食い散らかす女豹のセリアンで、ここの恥ずべき副マスターだ」

「よろしくねっ!」


 ナナリアはミソラに向かってウインクしながら椅子に座った。


「うぐおおおおおおっ!! ナァァァナァァアア!! てめえ、どこに座ってやがるうううううう!! 重いんだよくそがああああっ!!」


 椅子。正確に言うとジンの膝の上に高く積まれた石畳の上に座った。


「あっれ~。この椅子ぐらつく~。それに固ぁ~い。しかもうるさぁ~い。そして女の子に向かって重いとか超失礼だなぁ~。いっそのこと全体重乗っけちゃおっかなぁ~?」

「ぎゃあああああっ!? やめろ! やめて! やめてくだしゃいナナリア様ぁぁあああ!!」


 ジンの形と声をした椅子が悲鳴を上げる。俺は耳を塞ぎながら補足説明を入れる。


「──ちなみに、ナナはドSだ。そしてあの石畳もあいつのだ」

「うわぁ……」


 ミソラにしては珍しく、かなりドン引きした顔をしていた。


「騒がしいですね。何の騒ぎですか?」


 その声に、ミソラ以外の全員が驚き、声のした方を見る。

 そこには黄緑の長髪をなびかせ白衣を纏っている眼鏡の男──ローウェン・バクライアが中指で眼鏡を持ち上げながらこちらに歩いてきていた。


「…………嘘、でしょ? マジで? なに? 今日何が起こるの!?」

「うっわ。嫌な予感しかしねえ……」

「いや、待ってください。今では店の常連さんからは逆に、ローさんの姿を見た人はその日すごく良い日になるとかいう噂があるんですよ。だからそんな邪険に扱わなくても」

「えっ? 何? 何なんですか? 彼がどうかしたんですか? っていうかそれよりその人──背中から羽が生えてますよ?! しかも、妖精みたいなっ!」


 全員がミソラを見て、「何言ってんだ? こいつ」という表情を見せたが、セリアンすら知らないミソラのことだ。シルフのことも知らなかったのだろう。


「そいつはローウェン・バクライア。シルフの学者だ」

「誰なんです? そこの黒髪の少女は?」

「また説明かよ。出てくるなら一度に来いよ。説明がめんどくさいんだよ。そいつは俺が拾ってきた。名前はミソラ。以上だ!」

「雑ッ! リクさん雑すぎです!」


 ミソラは俺の背中を叩きながら抗議してきたが、そろそろめんどくささがピークに達しつつあった。

 ただでさえ、本が買えずにイライラしているというのに。


「そういえば、なんで皆さんはローウェンさんが来ただけでそんなに驚いてるんですか」


 その疑問には俺でなく、ムースが答えた。


「ローさんは普段はずっとこの地下にある研究室に籠りっぱなしなんだよ」

「へえ。でも別にそんなに驚くことでも──」

「二ヶ月ぶりです」

「……はい?」

「ローさんがこの一階に出てくるのが約二ヶ月ぶりなんですよ。そして、ギルドの外にはおそらくこの一年、三回くらいしか出ていません」


 ミソラは開いた口が塞がらないという表現がぴったりなくらい呆然としていた。

 そう。ローウェンは筋金入りの引きこもりなのである。

 知的に眼鏡を持ち上げたりしているが、奴も他の奴等と同じくらいの駄目人間なのであった。


「久しぶりだなロー。俺はてっきり死んでんのかと思ったぞ」

「ん? あぁ、なんだジンか。お前は私が地下にいる間に椅子にチョブチェンジしたんだな。存外似合っている」

「ブッ飛ばすぞてめえっ!」

「おっと足が滑った!」

「ナナァァァァァ!! やめろって言ってんだろおおおおお!」

「ローさん。何か飲みますか?」

「君の奢りなら頂こう」

「なら結構です」

「相変わらずのドケチだな、ムー」


 いつの間にか、そこにはこのギルドを結成したときの五人が揃っていた。

 この光景を見るのは、何だかとても久しぶりな気がする。

 俺ですら久しぶりだというのに、それをギルドに来てすぐに見れるなんて、一体どれくらいの可能性なのか。と、未だに俺に隠れているミソラを肩越しに見た。


 まだ俺の服を掴んではいたが、その目は何故か輝いているように見えた。


~~~


 曰く、そのギルドは──『鴉達(レイヴンズ)酒場(バー)』は、かなりの実力者の集まりであるのと同時に、奇人変人変態の集う問題児達の巣窟でもあるという噂が立った。

 このギルドに入れるのは彼らと同じ奇人変人変態問題児だけだという。

 もし、ごく普通の者がそのギルドに入ったなら、おそらく無事では済まないだろう。

 そして一週間も経たずにそのギルドを去ることになるであろう。


 と、そんな不名誉な噂が町中に、やがて国中に流れることとなるのであった。

 しかし、否定は全く出来なかった。

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