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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
二章 異世界生活始まります
14/27

13話

 とある町に、一つのギルドが出来たのは今から数年前。

 これだけならどこにでもある話だ。しかし、そのギルドは結成当初からかなり異彩を放つギルドだった。

 まず、ギルド構成員が極端に少なかった。その数は、たった五人だったのだ。

 確かにギルドは五人以上いれば設立可能条件を満たすことになる。

 しかし、大抵は数十人集まってから設立される。

 理由は単純だ。まず第一の理由として、ギルド設立のためのクエストがあり、これがとても難易度が高く、数十人規模でないとかなりの苦戦を強いられるということ。

 第二の理由として、構成員が少なすぎると仕事をこなしきれず、他のギルドに仕事を取られてしまい、やがて経済的に潰れてしまうからだった。


 だが、そんな常識を打ち破るかのように、そのギルドは成長を続けた。

 ギルド設立クエストにたった五人だけで挑み、歴代最速でクエストをクリアさせたのである。


 その話題は国中に広まり、何人もの人がそのギルドに加入したいとそのギルドに集い、そして、そのほぼ全員が半年もせずに辞めていった。


 その話題も国中に広まり、更にもう一つ、噂が流れることになった。


 曰く、そのギルドは──


~~~


「無い……ここにも無い……。くそぅ……俺としたことが……くっそぅ……」

「ま、まあ。えと、つ、次! 次のお店にはきっとありますよっ!」


 黒いローブを羽織り、でかい荷物を背負っている赤髪の少年が、絶望の表情を浮かべながらとある店からとぼとぼと肩を落としながら出てきていた。

 その後ろにはレザーコートにホットパンツ。星形の髪飾りをした健康的な美しさを誇る黒髪の少女が、その少年を励ましながら苦笑していた。


 ここは王国付近に存在する大都市、アルカ。

 王都の次に人口が多いとされるこの町には様々な施設や店がいくつも存在し、かなりの賑わっている。

 にも関わらず、少年の表情は依然として暗いままだ。

 何故彼がこうなってしまったのか。

 原因は数時間前の彼らの会話からだった。


☆☆☆


「ほら早く来い。もうすぐでアルカだ」


 俺は項垂れながらふらふらとした足取りで山道を歩くミソラに話しかける。


「ふぇ? や、やっとですか? くっ、うおおおっ!」


 いつもうるさいくらい元気なミソラが何故今テンションが低いのか。原因は彼女の背負っている大きな荷物だろう。

 簡易テントや非常食。衣服に魔法薬。旅をするにおいて必要最低限のものは勿論、先日まで滞在していた田舎町、フレールに住む人達から貰った大量のお土産のせいでかなりの重さになっている。


「頑張れ頑張れ。ここまで来たらあとは俺が持ってやるから」

「くっ。大人げなく魔法使って勝ったくせに、そんなところで優しさアピールしたって無駄ですからね」

「魔法禁止ってルールは設定してない」

「思考が完全に子供ですね!」

「大人げないとか子供だとか、結局俺はどっちなんだよ……?」


 そもそも、お前が言い出した話だろ。と思ったが、結果俺が勝ち、あれから交代で荷物を持つようになり俺的には楽出来るので、とやかく言うのはやめておいた。


「とう、ちゃく~。はぁ~疲れましたぁ~」

「お疲れさん。にしても、ドラゴンと戦ってた時はもっと動けてたように思ったが、体力落ちたか? それとも疲労でも残ってんのか?」


 俺は少しだけ心配になったが、ミソラは軽く首を振り、否定する。


「あの時の疲労とかはないですよ。でも確かに何でか、あの時より力や体力落ちてる気がします。まぁ、元の世界にいたころに比べると、全然体力とか上がってますが」


 また出たよ。と、俺はミソラから荷物を受け取りながら、もはや習慣になりつつあると内心危惧しながらも、またため息を吐いた。


 このミソラという少女は、自称『異世界人』だ。

 何でも『ニホン』という国から来たんだそうだ。まあ、全部設定だとは思うのだが、彼女には不審な点がいくつも見られた。


 まず、この世界の常識を知らない。

 魔法なんてものはこの世界にありふれているというのに、それを知らなかった。

 そもそもこの世界の名すら知らなかった。などなど。

 例を挙げていけばキリがない。


 しかし、ミソラ嘘を吐いている可能性はある。別に異世界人を気取りたいなら知らないフリをするだけでいいのだから。

 でも、まだ不審な、というより異常なことがあった。

 彼女は人智を超えた力──言うなれば超身体能力とでも呼べばいいのか──を有しており、魔物と純粋に素手だけでやりあうことの出来る程の圧倒的な攻撃力と身体能力は、俺の度肝を抜いた。


 だが、その身体能力は今は全く発揮されていないようである。

 確かに荷物が重いとは言え、超一級危険生物であるドラゴンにも負けず劣らずの戦闘を行った人物が、これしきのことでへばるとは。


「ふぅむ……。なるほど。私は戦闘中のみあの力が発揮するタイプなのかもしれませんね……」


 何か、自分の中で推測を立てているミソラを横目に見ながら、俺は顔を山の麓の方に向ける。


「ほれ。あそこがアルカだ」

「ん……って、うわあ。でかい町ですねぇ~」


 驚くのも無理はない。何せ、この国にある町の中でも、王都の次にでかく広いと言われているくらいだ。

 感激しているミソラを余所に、俺は歩き始める。

 ミソラはそれに気付き、目線はアルカに向けつつ、俺の後ろを着いてくる。そして俺の背中に向かって質問を投げ掛けてくる。


「あの町には観光名所とかってありますか? 美味い料理の出るお店とかありますか? どんなイベントが発生するんですか?」

「一度に何個も質問するなっての。あと、最後のはよくわからんっ」


 俺は手をひらひらと振りながら適当に聞き流す。そして尚も続く質問の嵐の中で、一つだけ、俺の心に引っ掛かった項目があった。


「武器屋とかあります? 闘技場とか、あの町特有の行事とかは? あと本屋とかもありますか? 学校とかはあるんですか? 娯楽施設とか──」

「ちょっと待て。……ちょっと待て」

「何で二回言ったんですか?そんなに重要なことですか?」


 俺はミソラの言葉を思い出し、反芻する。

 ──武器屋、闘技場、行事、本屋、学校…………。


 ……………………あっ。


「ああああぁぁぁああぁああっっっ!?」

「な、なんですか急に大声出して!? びっくりするじゃないですかっ!」


 俺は非常に重要なことを思い出し、ミソラの言葉も耳には届かなかった。

 俺は己の失態と愚かさを嘆きつつ、脇目も振らずに走り出した。


「大声で叫んだと思ったら今度は全力で駆け出したっ!? さっきから何なんですか!? 説明してくださいよリクさ~ん!」


 魔法こそ使ってなかったが、俺の持てる全ての体力を使い、一度も立ち止まることなくアルカまで駆けていった。


☆☆☆


 アルカに着くや否や、俺は目的の店に飛び込んだ。

 その少し後、ミソラが息を切らせながらやや遅れてその店に入ってきて一言呟く。


「はぁ……はぁ……。ここは、本屋、ですか?」


 しかし、俺は返事をする余裕がなかった。先ほど店員から死刑宣告も等しい無情な言葉を聞かされていたからだ。


「どうしたんですか? すごいテンション低いですけど」

「…………いんだよ……」

「えっ? ごめんなさい。もう一度言ってください」


 声が小さすぎたのか、ミソラはもう一度聞き返す。俺はなんとか顔を上げて答えた。


「無いんだよ、もう……。売り切れだったんだ……」

「えっと……。何が、というのは変ですね。ここは本屋なんですし。好きな本の発売日だったんですか?」

「いや。発売されたのは少し前だ。確か、ちょうどお前とはじめて会った日だ」


 絶望にうちひしがれながらも昔の記憶を手繰り寄せ、その日のことを思い出す。


「あぁ、何だかもう懐かしい感じがしますねぇ~」

「何でだよ。てか、こうしちゃいられねえ!」

「ええっ!? また走るんですかっ!?」


 つい先日のことをもう懐かしいとかほざいているミソラは放っておいて、俺は別の本屋へと向かった。


☆☆☆


 ──そして町中の本屋を駆け回り、さっきので五件目だった。

 しかし、どこに行っても俺の求めている本は売り切れだった。


 その本の名は『べリアルマインド』。現在この国、ユグラシア王国で大流行している冒険小説だ。

 そして勿論のことながら俺も愛読している作品だ。

 いつもなら発売と同時に購入し、一日かけて読みふけるのだが、半ば無理矢理依頼を受けさせられ、結局買えず終いだったのだ。

 それを迂闊にも忘れており、今に至る。まさかここまでとは思ってもみなかった。発売日になると即買いに行くので、まさかこれほど売り切れ続出しているとは知らなかった。


 そして、六件目。新刊が並べられている棚を見る。不自然なまでにぽっかりと一ヶ所だけ空間が空いていた。

 俺はこの時点でほぼ予想していたが、わずかな藁にもすがる気持ちで店員に聞いた。

 結果は──。


★★★


「あのぅ……。元気出してくださいリクさん。その本ってすごい人気なんですよね? ならすぐに重版されるはずですよ」

「はは、そうだな……」


 リクさんはそう言って笑っていたが、顔は全く笑っていなかった。目は虚ろで、足取りも重い。ドラゴンを目の当たりにした時以上に絶望していた。


 私は何とか励まそうとしつつも、結局どうすることも出来ずにとぼとぼ歩くリクさんの後ろを着いていくことしかできなかった。


 しばらく無言で歩き続け、ふとリクさんが立ち止まったので私も足を止める。


「着いたぞ」

「はい?」


 リクさんが急にそう言って目の前の建物を指差す。

 その建物は木造三階建てで比較的に新しい雰囲気を纏っており、入り口には片足のカラスのようなマークが描かれていた。

 その下に何語かわからない文字が書かれている。

 この世界の文字は私には理解出来ないので、首を傾げながらリクさんを見る。


 リクさんはもはやお約束となったため息を一つ吐いた。


「ここが俺の所属してるギルド兼大衆酒場。

名前は──『鴉達の酒場(レイヴンズ・バー)』だ」

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