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偶然出会った美少女が、自分は異世界人だとほざいてる  作者: いけがみいるか
一章 異世界召喚されました
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11話

 祭、とは言ってもそんなに大規模なものではなく、町人みんなで料理を作り飲み明かすといった類いの些細なものであった。

 しかし、これでも充分過ぎる。本来なら町を危険に晒したことを咎められても仕方ないのだから。


「わざわざすみません。こんな催しまで開いてもらって」

「いえいえ、気にせんでください。これは感謝の気持ちを伝えるついでに自分達も盛り上がりたいだけですから」


 ほっほっほと笑う意外と気さくな町長の冗談に苦笑しつつ、用意してもらった豪勢な料理を頬張ったが、どうにも他のことが気がかりで味がハッキリとしない。

 取り逃がしたアルマのことも気がかりではあるが、今はミソラのことの方が気になった。

 と言っても今さらミソラの妄言や奇行については諦めの域に達しつつあったのだが、どうにも先程の奇行は今までと少し違うような気がした。もちろん気のせいかもしれないが。


 つい周りを見渡しミソラの姿を探してしまう自分に気付き、かぶりを振る。何をやってんだか……。


「何してるんですかリクさん。何かの儀式ですか?」


 俺の心と微妙にシンクロしたことを内心驚きつつ、声のした背後を振り返る。そこには予想通りミソラが立っていた。

 しかし、予想と違っていたところがあり、俺は言葉を失った。


「ど、どうですかね? 似合ってますか? こんなドレスみたいなの着るのあまり得意ではないんですが……」


 照れくさそうにしながらドレスを見せてくるミソラに、俺は正直、見惚れていた。

 黒く艶やかな長い髪には夜空を淡く照らす光のような星の形を模した髪飾りが留めてあり、その黒髪とは対照的な純白のドレス。すらりと伸びた腕や短めなスカートから覗く細い足に、照れて赤くなっている顔を見て、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「あ、あのぅ……ご感想は?」

「えっ!? あ、あぁ。いいんじゃねえか? 似合ってるよ、うん」


 俺が何も言わずに固まっていたので、心配になってもう一度同じ問いをしてきたところで、ようやく我に帰り早口で感想を述べた。


「お~。よかったじゃないかミソラちゃん。まあ、これで似合ってないだなんて言ってたらおばちゃんが許さなかったけどねぇ。全くこんな可愛い子が彼女だなんて鼻が高いだろうねあんた」

「ちょっ!? おばさんっ! 私達は別にそんな関係じゃないですからっ!」

「あれま? そうだったのかい。でも張り切って服を選んでた、ってことは──」

「わ~っ! わ~っ!、もうっ!!」


 快活そうなおばさんは慌てるミソラを見て楽しそうに笑っていた。

 かなり親しく接しているところを見ると、おそらく彼女がさっき言っていた服をくれたおばさんなのだろうということはわかった。

 だがまさかドレスまで貰っていたとは思ってもみなかった。思わぬ不意打ちに上手い返しも思い付かなかった。


 そんな俺の心情を知る由もないミソラはおばさんの背を押しやっていた。最後に「上手くやりなよ!」と言っていたが、どういう意味かはわかりかねた。


 少し息を乱しながら隣に腰を下ろすミソラ。何をそんなに慌てているのか気にはなったが、俺より先にミソラが口を開いた。


「ええと、なんというか……。お騒がせして申し訳ないです」

「別に構わねえけど。よかったじゃねえか。知り合いが出来てよ」

「それは、はい。そうですね。本当に優しい方です。少々お節介な所がありますが……」


 口を尖らせながら言うミソラだったが、嫌がっている感じは見受けられなかった。たった一日ちょっとでよくそこまで仲良くなれるものだと関心した。

 そのあと、他にも色んな人と仲良くなったという自慢話を料理を食べながら聞いていると、ふと思い出したかのようにミソラのやや食いぎみに聞いてきた。


「ふぁ、ほうひへは」

「口の中のもん飲み込んでから喋れ」


 俺は水を入れたコップを差し出す。ミソラはそれを受け取り一気に飲み干した。


「むぐ、んく、はぁっ。そういえばリクさんは何であの時生き返ったんですか? どんな魔法使ったんですか? あとで教えてくれるって話でしたよね?」

「……脈絡無さすぎだろ。一瞬何を言い出したのか本気でわからなかったわ」

「伏線は忘れない間に回収しとかないとですから」

「そのまま忘れててくれてもよかったんだがな」


 あの時。つまり盗賊のゼブに致命傷を負わされた時のことだ。確かにあの時俺は「あとで説明する」みたいなことを言ったような気がする。


「ま、秘密ってわけでも何でもないからな。あれは、こいつのお陰だ」


 俺はミソラにあの時に砕けた杖の木片を見せた。


「こいつの名前は『再生の杖』って言ってな。これを使えば対象物を元の完全な形に再生させることができるんだ」

「それって、結構すごいことなんじゃ……」


 ミソラがわずかに震えながら聞く。何だか泣きそうな目をしていたが、嘘を吐くのも何か違う気がしたので本当のことを話した。


「だな。価値で言えば国宝級の杖だ」

「ほんと申し訳ありませんでしたっ!」


 それは見事な土下座だった。


「別に気にしてねえっての。それに……」


 俺は口をつぐむ。これは別に、ミソラに言う必要はないと感じたからだ

 だが、中途半端に会話を止めてしまったせいで、ミソラが怪訝な表情を向けてきたので、俺は話を反らす。


「いや、何でもない。ってか、そんなことよりもだ。お前こそあの馬鹿げた力はなんなんだよ? お前本当に人間か?」

「そうですね。強いて言えば異世界の人間です」


 それはなんだ? 異世界の人間は誰しもそんな力を持っているとでも言いたいのか?

 だとしたら、末恐ろしい世界だな。と思わずにはいられなかった。


☆☆☆


 祭りは夜まで続き、最後の締めである「鎮魂の舞」を残すのみとなった。そして案の定、ミソラが問い掛けてきた。


「鎮魂の舞ってなんですか?」

「魔物の魂を鎮める儀式だ」


 聞かれるだろうということは予想していたので俺は事前に備えていたのでミソラの疑問に即答した。


 そもそも今回の祭りは規模も小さく、正式なものではないが、本来なら討伐祭と呼ばれる類いのものだ。

 そして討伐祭とは名の通り、町の平和を脅かした魔物を討伐した際に行われる祭だ。今回は(くだん)のドラゴンと、その他大量に召喚された魔物達のことだ。

 しかしながら魔物とて一つの命を持つ生き物であり、人間の都合によって滅ぼされた命を蔑ろにしてはいけない。といった理由で祭りの最後には死んだ魔物と、それと戦い命を落とした戦士がいれば、その者の魂も一緒に鎮めるために「鎮魂の舞」が行われるようになったのである。


「へぇ~。それってどんな舞いなんですか?」

「踊りは地方によって色々違う。舞いじゃなくて歌を歌う場合もあるようだ」

「そんないい加減でいいんですか?」


 ミソラはやや呆れた感じだった。


「まあ、舞いや歌は言ってはなんだが、所詮オマケだ。重要なのは舞いの時に一緒に発動させる魔法の方だ。【原典(オリジン) (いやし)の章 中級編(セカンド)】《レクイエム・カーム》。それを発動させている間、舞いを踊ったり、歌を歌ったりするようになっただけだからな」


 《レクイエム・カーム》とは、主に死霊系の魔物を浄化するために、また霊魂相手に安らぎの眠りを与えるための魔法だ。

 それに強い魔力を持つ者であれば、死後も魂だけがこの世に漂うことが稀にある。魔物も然りだ。

 そして、長くこの世に漂えば悪霊や死霊へと変わる。だからそうなる前にこの魔法を使う必要がある。

 たぶんだが、盗賊を連行していった国軍が既に簡易的ではあるだろうが、その浄化処置を施しているだろう。

 だが、俺は祭が開かれずとも、責任を取ってこの辺りを浄化するつもりでいたので、むしろ都合が良かったくらいだ。

 そこまで説明を終えると、ミソラが何か思い付いた顔をした。


「ふ~ん。それじゃあ、私が舞いをしても良いってことですか?」


 予想外の発言がミソラの口から飛び出したので、俺は思わず目を見開く。


「お前、舞いとかできるのか?」


 俺がそう聞くと、ミソラはえっへんと胸を張った。


「何を隠そうこの私、日本舞踊や神楽舞い、ブレイクダンスにタップダンス、果てには竜の舞いから花びらの舞いまで、ダンスや舞いに関しては既にマスター済みなのですっ」

「ほう。そりゃすごい。なら頼むわ」

「……竜の舞いと花びらの舞いのところでツッコミが欲しかったです」


 俺が素直に感心しているというのに、何故かツッコミが無かったことに不満を言うミソラだったが、すぐに気を取り直し、二人で町長の元へ行き、鎮魂の舞のことを申し出る。

 町長は是非ともやってもらいたいと言い、俺達も頷く。そのついでに俺は町長の杖を借りる。


「あれ? リクさん、わざわざ杖なんか借りなくても魔法使えるんじゃないんですか?」

「まあ、でも一応な。様式美ってやつもあるし」

「そうですか。それもそうかもしれませんね」


 ミソラはそう言うと簡易な舞台へと上がり、俺もそれに続いて舞台の隅に立つ。他にも楽器を持った町の人達も舞台に上がってくる。

 そして、準備は整ったのを見計らい、俺は杖を天にかざし魔法を完全詠唱した。


「【原典 癒の章 中級編】この世に漂う魂よ。あるべき場所へ還り、静かに眠れ。《レクイエム・カーム》」


 美しい鐘のような音が夜空へと響き渡り、それに合わせて他の楽器も軽やかな音色を奏で始める。

 舞台中央ではミソラが純白のドレスを揺らしながら優雅に舞う。

 その姿は、悔しいことに綺麗だということを認めざるを得なかった。

 笑顔で踊り舞うミソラは、さながら小説に出てくるような、可憐な妖精のようだった。

 それに言うだけあって、町人誰もがミソラの舞いに魅了されていた。その中に先程見かけたおばさんの姿も見られた。


 やがて《レクイエム・カーム》の効果が消え、それに合わせて音楽や舞いも終了となった。

 一瞬の静寂の後、割れるような拍手と歓声が上がった。

 それは、紛れもなくミソラに向けられた称賛だった。


「やれやれ。鎮魂の舞だっつーのに。元気な町人だよ」


 そんな祭りの夜は、最後に一番の賑わいを見せてようやく終わりを告げた。

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