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クリスマスは男と2人

「おはようございます。寒かったでしょう」と同じく女性社員。オフィスに入った、準一、四之宮にコーヒーカップを渡す。

 どうも、と受け取る。手に持ったカップは、暖かい。湯気の立つコーヒーを一口啜り、カバンと一緒にデスクに置くと、コートを椅子に掛ける。


「あ、朝倉さん。今日ですけど……空いてます?」と女性社員。「え?」と準一は椅子に座る。


 お、もしや? と期待し、四之宮は無言で椅子に座り、準一を見る。その好奇心の視線に気づいた準一は口をへの字にする。


「一応聞くが、何で?」

「い、いえ……その。今日はいつもより早く上がれますから、良かったら食事でも」


 長い黒髪の彼女は、整った綺麗な顔を真っ赤にさせ、俯く。「どうでしょうか?」

 どう、と言われても、今日は先約がある。

 四之宮は「気にしないで下さい」と小声で言うが、準一は「悪いな。今日は先約がある」


「あ、すいません。彼女さんですか?」

「いや」


 準一は後ろで聞き耳を立てる四之宮に親指を向ける。「こいつと映画鑑賞会だ」


「あ、ああ。その、そういった関係……ですか?」


 この女性社員は、自分をゲイか何かと勘違いしているのか? と思い「違うよ」と苦笑いで否定。 

 すぐに、全員が揃い、部長の挨拶。

 営業部の仕事が始まった。



 福岡県、北九州。その小倉北区の商業高校。結衣はそこに通っていた。

 クリスマスであるに関わらず、学校に来ているのは、部活だからだ。彼女の所属する部活は弓道部。

 グラウンドの先、体育館横の弓道場。

 福岡では珍しく、ホワイトクリスマスだ。

 

 弓道部は、女子部員しかいない。その為、射場に立っているのは袴姿の女子部員だけだ。

 結衣は、射場の部員を見ながら、ストーブの置かれた射場隅でため息を吐いている。


「どうしたの? 昨日はテンション高かったのに」と、結衣の隣。同級生の女子である揖宿楓が、長い黒髪をポニーテールに束ね、胸当てを付けながら結衣に向く。

 

「聞かないで」と栗色のボブヘアを揺らし、結衣。「何さ、気になるじゃん。いいなって」と楓。


 ため息交じりに結衣は、楓に向く。「兄貴が仕事入った」


「あぁー……ご愁傷様」と楓は言う。彼女は、結衣がブラコンという事は知っている。

 結衣は、学校でかなりモテている。のだが、兄以上のルックスの人間に告白されても「あ、ごめん。兄貴以外に興味ないから」と冷めた返しをしている。

 皆、もったいない、と言っているが、結衣からすれば兄以外どうでも良い事、と知っている。


「確か、結衣のお兄さんって東京だったよね」

「うん。広告代理店」

「最後に会ったのいつかなぁ……。あ、夏休みだ。結衣の家に行った時」


 そうだっけ。と結衣は更に項垂れる。「そんなに会いたいの?」


「当たり前じゃん。折角、クリスマスは一緒に居られる、って思ったのに」

「それ、兄に向っての台詞じゃないって。マジ」


 ブラコン、で片付けていいのだろうか。と楓はため息を吐く。すると、結衣は、弓と矢を持つ。「撃ってくる」

 憂さ晴らしだな。と思い、楓は無言で見送る。

 撃っていた人間と入れ替わり、結衣は3番的に立つ。


 綺麗な姿勢で弓を構える。


「兄貴の」


 とりかけした矢が向き、離れる。「バカ野郎!」の声の後、矢が的を射る。


「お、すげえど真ん中」と見ていた楓。

「こら、撃つ時は静かに!」


 と顧問の女性教諭。結衣は、ガックリと項垂れた。


「理不尽」


 小さな呟きは、誰にも聞こえず、他の部員の放った矢が的にあたる、気持ちのいい音が射場に響いた。




 休んでいる2人の分の報告書を作る為に、資料作成ソフトを起動させ、キーボードを軽快に打つ。だが、それは結構大変な作業だ。

 自分の仕事を纏めるならまだしも、他人の事。それも、普段関わらない人間だ。こいつらの報告書を書かなければならない。

 クソッタレ。と思いながら、エンターキーを強く弾く。


「イライラしてるな」

 

 と同僚、三階堂が準一に声を掛ける。


「当たり前だろ? 何で休んだ人間の仕事が俺に回ってくんだよ。それも報告書」


 期日が迫っていた為、他人であっても報告書を作る必要があった。

 

「その後は2人の分の仕事の内容資料の纏めだぜ?」 

「マジかよ」


 準一はキーボードを弾く手を止め、前髪をかき上げる。「お前は? 今日は休みじゃなかったか?」


「お前と同じ。1人いきなり欠員が出てな。その所為だ」

「ご愁傷様」

「まぁ、お前と違って1人分だがな。手伝おうか?」


 いや、と準一は疑い深い視線を送る。この男がこんな事を言う時、何か要求される。


「金ならねぇぞ」と準一。

「違う。お前の妹、紹介してくれ」

「断固拒否」

「ウソ、昼飯に定食屋のジャンボ定食。それでいいから」


 ったく、と言いながら、データを社内ネットワークで三階堂のノートパソコンに送る。


「仕事内容を大まかに頼む。これが終わったら、そっちの纏めに入る」

「了解」


 2人は再び無言でパソコンに向き、キーボードを打ち始める。

 が、集中はすぐに切れる。

 ふと、後ろを見ると、資料作成用ソフトのマニュアルを手に頑張っている四之宮が目に入る。


「難しいか?」

 

 準一が聞くと、マニュアルを置き、四之宮は腕を伸ばす。「ええ、会計ソフトと勝手が違いますから」


「俺は商業高校だったからソフトはすぐに覚えたが、お前、違うの?」

「いえ、商業高校でしたよ。でも、僕の学校は会計ソフト専門でしたから、こういった資料作成ソフトは無くて」


 ああ、準一は顔をパソコンに戻す。

 やっぱ、学校によって違うもんだな。と思いながらキーボードを打つ。「困ったら聞いてくれて構わない。答えるから」


「助かります」と四之宮も作業に戻る。



 

 その日は、いつもより早上がり。準一を誘った女性社員は嘆きながらも、他の女性社員に引っ張られ、女子会へ強制参加した。

 一方、準一と四之宮はまずコンビニで酒、ジュースを買い、帰宅し、ピザを3枚ほど頼んだ。


「これが、お前の好きなアニメか」

「ええ」


 大きなテレビ画面には、四之宮セレクションのアニメが放映されている。

 学園ものだ。

 主人公が入学すると、無関係にハーレムが構築されている。

 女の子たちは主人公に思いをぶつけるが、主人公はそれに気づかない。


「なぁ、こいつってこれ。ワザとやってんの?」


 準一はピザを手に持ち、ビールを置く。


「何がです?」

「いや、女の子が告白したのにさ。こいつ聞こえてないじゃん。難聴なの?」


 主人公は呼び出され、告白されるが「え? 何だって?」と聞こえていない。

 まぁ、これは学園ものに於いてはもう当たり前だ。

 突っ込むのは間違いなのだが、準一は初心者だ。


「ほら、彼は鈍感なんです」

「鈍感……ねぇ」


 ピザを一口。準一は苦笑いする。「これって、この中から1人選ぶ訳だろ?」


「そうですね。モノによってはハーレムエンドもありますが」

「いやさ、この女の子達って、こいつの何処がいいわけ?」


 そう言われ、四之宮は考えるが、思いつかない。

 よくよく考えれば何でだろう?


「女遊び激しいのにな」

「何ででしょうね?」

「お前、好きなら弁護をズバッと答えろよ」


 思いつきません、とチューハイ缶を手に、四之宮は後頭部を撫でる。 


「ですが先輩。話的にはどうです?」

「そうだな、少女マンガよりは明るいし、見やすくはある。面白いな」

「でしょう!」


 長めのソファ、準一の隣の四之宮が乗り出す。

 そして、アニメはエンディング。OVAなので1時間ほどで終了。


「次はこれです」

「へぇ、ロボットアニメか」


 BDを挿入し、テレビにビームライフルを構えたロボットが映し出され、ミサイルが爆発。ロボットが飛び出し、ポーズを決め、タイトルが出て来る。


「俺これ見てたぜ」

「ホントですか?

「つっても」


 準一はビールを飲み干し「あんまり覚えて無いんだが」と付け加えると「だったら、今から覚えましょう」と四之宮は目を輝かせる。

 別に断る理由も無いので苦笑いを浮かべる。

 物語はサクサク進行し、敵であろう組織に5機の主人公機と同型のロボットが奪われている。


「何か、ワクワクするな。展開」

「でしょう!」 


 そして、主人公もロボットに乗り込み、爆発の中に佇み1話が終わる。

 準一はピザを手に持ち、口に運ぶ。


「先輩は、ロボットアニメは好きですか?」

「嫌いじゃないな。さっきの学園ものも面白かったが、こっちの方が性に合ってる」

「意外です。先輩は、もっと静かな物が好きとばかり」


 大人しめな準一が、こんなロボットアニメが良いと言うとは意外だった。


「男子は皆ロボット好きじゃないの?」

「残念ながら、そうじゃないんです」


 そうか。と準一は新しいビールを開ける。


「先輩」

「ん?」

「メリークリスマス」


 2人は、ビール缶を当て、乾杯。そして、2話が始まり2人は黙って鑑賞を続けた。

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