クリスマスは休暇取り消し
京都での商談、結構異例の事態だった。普通、商談的なモノがはっきりしている場合。それも、地方都市でかなり離れている場合、パソコンのスカイプ等でそれを行うのだが、出向いた企業社長がパソコンでの商談を嫌う、と知っていた為出向いた。
その企業は、来年には東京進出を図っている為、準一の務める広告代理店に頼んだのだ。
その際、偶然準一は結衣と出会った。京都での商談がひと段落し、清水寺に居る時だ。
どうも、結衣の高校は、修学旅行が延期になり、本当に偶々だったらしい。
まぁ、それが原因でクリスマスイヴ前日のそれに繋がるのだが。
「え? 休暇取り消し?」
と、準一は携帯の向こうの部長に聞き返した。時間にして、深夜。
迷惑な話だが、それどころではない。
休暇取り消し? そりゃ無いぜ。
「そうだ。悪いとは思うんだが、2人使えなくなったんだ。その埋め合わせ、と考えてもらって構わない」
「使えなくなったって?」
「高熱を出したそうだ」
マジかよ、と口には出さず、顔を覆い、ため息を吐く。「分かりました。通常通りに出勤します」
「すまんな。その分、年始の休みは多くする。じゃあ、夜分遅くにすまんかったな」
「いえ」
と通話終了のツーツーという寂しい音が鳴り、準一はため息を吐いた。
「先輩」と自分の寝室から出て来た四之宮。「ああ悪い、起こしたか?」と準一。
「電話ですか?」
「ああ、俺の休暇が取消らしい」
「あー……ご愁傷様です」
別に、休暇がない事ではない。休暇が無くなった事で起こる被害が怖いのだ。
実家に居る妹、結衣。
もし、休暇取り消しなんて伝えてみろ、何を言い出すか――――
「クリスマスは帰れるって言ったじゃん!?」と案の定、朝に実家に電話を掛けると結衣は叫んだ。
駅のホーム、赤くなり少し痛い耳にはきつく、携帯を離し、一度息を吐き、再び近づける。
「悪いな。だが、急なんだ。部署で2人が高熱を出して、その埋め合わせだ。でもその分、年始の休暇は多い」
一呼吸置き「お前、いい加減兄離れしたらどうだ?」
「する訳ないじゃん。じゃあ、年始は絶対帰って来てよ。帰って来なかったらそっち行くからね。絶対だかんね!」
「分かった。何度も言うな、じゃ、母さんや父さんに言っといてくれ」
と通話終了ボタンを押す。すると、隣の四之宮が肩を叩く。
「先輩」
「ん?」
「見て下さい!」
四之宮は、自分のスマートフォンの画面を見せてきた。見ると、仕事内容のコピー。
年末に営業に出向く事務所、その資料だ。
「えっと? 神代茉那の宣伝広告」
準一は、四之宮を見る。何か、目が輝いている。
「先輩! 神代茉那ですよ!」
テンションが高い四之宮に、声が大きい、と注意。「すいません」と四之宮は肩を縮める。
「俺は知らないんだが、アニメ関係か?」
「そうです。この、ほら」
再び画面を見せられる。画面には、名前も知らないアニメの画像。
萌だな、多分。
「これが?」
「今、この『俺の彼女はアイドル』の主題歌は、この御舩茉那が歌っているんです。このツインテールの女の子の声もです」
へぇ、と言うが、準一は特に興味はない。「それって、凄いの?」
アニメを見ないからこその感想。四之宮は目の色を変えた。
「先輩、今日はアニメ鑑賞会をします。強制参加です」
「え? お前俺は寝るって」
「却下です」
すると、電車が到着。扉がスライドし、あの密集空間が姿を現す。
気が滅入る、と思っていると、四之宮が腕を掴み「行きますよ。仕事を終わらせましょう」と引っ張り、2人は出勤した。