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クリスマスイヴ

 クリスマズイヴ。学生は冬期休暇に入っているであろうその日の朝7時。駅のホームにスーツにコートを羽織った準一、四ノ宮が居た。

 準一のスーツは、洗濯し乾かしたものだ。

 定期は先に購入している。


「今日も寒いですね」と白い息を吐きながら四之宮。準一が頷くと、駅に電車が流れ込み、止まる。

「乗るか」

「はい」


 2人は、出勤する人間がすし詰め状態になっている電車に乗り込む。

 人にもまれ、その上、暖房が効いている為、長く乗っていれば気分が悪くなりそうだったが、会社は電車で4駅。

 割とすぐに着く。

 車内アナウンスがその駅を言うと、プシュ、とドアがスライドし、人がゾロゾロと流れ出る。


「ったく、マジで出勤電車はキツイ」

「ホントですね。僕も慣れません」

「だよな」


 2人は、はぁ、と息を吐き、ホームの階段を上がり、駅を出る。

 空は晴れている。当然雪は降っていない。が、皮膚を刺す様な寒さは風と共に伝わってくる。

 準一と四ノ宮は、カバンを持っていない手をポケットに突っ込む。

 寒さに耳は赤くなっている。

 2人の務める会社は、その駅から目と鼻の先にある広告代理店だ。

 それ程大きくないが、社員は割と多く、会社の建物自体は結構大きい。


 会社は駅から距離こそ近いが、寒い中、横断歩道で赤に引っ掻かった手前、2人はやっとの思いで着いた、と言いたかった。

 正面玄関を抜け、自分たちの部署。営業部のオフィスへ入る。

 準一は真ん中のデスク。四之宮は後ろだ。2人はデスクに着くと、背中合わせに近い状態になる。

 現在の時刻は8時前。営業部部長の挨拶で営業部は仕事を開始する。その時間は8時半。

 終了時刻は6時、となっているが、最早残業は当たり前だ。


 準一はカバンをデスクに置き、椅子にコートを掛ける。「どうぞ」

 同僚、1つ下の女性社員が準一、四ノ宮にコーヒーの入ったカップを渡す。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 準一、四ノ宮が言うと「いいえ」と女性社員は他に出勤して来た社員にも同じように渡す。


「お前、あの子狙ったら?」ふと、準一がコーヒーを啜りながら、椅子を回転させ、四ノ宮に向き、先ほどの女性社員を指さす。


「顔は良いんだから。ここいらで女性経験もあった方がいいんじゃねえか?」

「何言ってるんですか。仕事の方が忙しいんですから」


 真面目だねぇ。と準一は女性社員が置いていったシロップ、ミルクを入れ、使い捨てスプーンで混ぜる。


「先輩、甘党ですか?」

「ああ。どっちかって言うとな」準一は一口啜る。「お前は? ブラックが良いのか?」

「ええ。何だか、スッキリしません?」

「そうか? 俺は苦味が慣れないからな」

 

 眠気覚ましにはなりますよ。と四之宮が言うと、準一の携帯(四之宮の部屋で充電した)が鳴る。

 見るとメールだ。


「メールですか?」

「ああ」


 誰からです? と四之宮が聞く前に差出人を見る。

 朝倉結衣。


「妹からだ」

 

 少し、興味あり気に四之宮が携帯を覗きこもうとするので、携帯を隠し、自分だけで見る。


『兄貴、あの写真届いた? あたしとのツーショット。良かったね。あたしの修学旅行と鉢合わせして』


 そうか、準一は納得した。

 百合が、何故あの写真を持っていたのか。思い返せばおかしかった。

 結衣が送ったのか。

 見ると、まだメールは続いている。


『早く別れてね?』


 準一は、無言で携帯を閉じた。「内容は何でした?」と四之宮。


「あ、ああ。修学旅行のお土産をどうするかな、とか。そんな話だ」

「ああ。仲が良いんですね」


 仲が良いわけでは無い。ただ、結衣が一方的に準一を好いているのだ。

 高校生になった今でも『兄貴と結婚する』と言い張っているのだ。


「そうだな……仲、いいんだろうな」

「?」


 遠くを見るような準一。四之宮は何も言わない。すると、いきなり準一は我に返り「お前、一昨日からこの部署に異動になったんだよな?」


「ええ」

「なら、なんで昨日は居なかったんだ?」


 昨日、この部署。そのデスクに四之宮は居なかった。

 居たなら、自動販売機で会った時、準一はすぐに気付くからだ。


「ああ、昨日は会計部で一つ仕事が残ってたんです」

 

 それでか、と納得。準一はカップを置く。「ここの仕事内容は?」


「主にオフィスですよね。それに、偶の営業」

「分かってるじゃないか」

「不安で仕方ないですよ」

「安心しろ、すぐに覚える。新規の広告応募が来れば、嫌でも戦列参加だ」


 がんばります、と四之宮はカップを置き、机に突っ伏す。



程なくして、営業部は全て揃い、部長の挨拶。となる筈だったが、四之宮の自己紹介がまだ、との事で、四之宮は皆の前に立ち、一礼する。


「一昨日付で、会計部から営業部へ異動してきました。四之宮です」


 と、ここまでは良かった。


「先輩である朝倉さんとは、一緒の部屋に住んでいます」


 これがマズイ。女性社員組はガタガタ、と動き、準一、四之宮を見比べ「いいかも」等と嬉しそうな顔をしている。

 男性組は、もう酷い。準一の友人の社員は「え? お前そっち?」みたいな目でみており、準一的には、弁解しなければならず、立ち上がる。


「お前、もうちょい言い方を考えろ」

「ですが、ありのままです」

「もう少しマシな言い方を思いつけ」


 少し、四之宮が考え始めると、準一の友人が準一の裾を引っ張る。「お前、彼女さんは?」

 当然の問いだ。

 準一が答えると「ご愁傷様」と他人事だ。


「まぁまぁ、楽しい仲間が増えた。それでいいかね?」と黙っていた部長が準一に救済の一言。

 自己紹介は打ち切り「はい」と皆は返事をすると、各々の仕事に就く。 

 

「四之宮君、君は朝倉君とペアだ。分からない事は彼から聞いてくれ」

 

 ペア、の単語に目を輝かせた四之宮は「はい!」と大きな返事をすると、準一に笑みを向けるも、準一からは顔を逸らされる。


「お前、懐かれてるな」と友人の茶々を右手で払い、ため息を吐くと四之宮が準一の横に立つ。


「ペアとして、宜しくお願いします。先輩」

「ああ、宜しく」


 諦めた、と言わんばかりの笑顔の準一だが、内心、悪い気分ではなかった。

 四之宮の人間性は、後ろですすり笑う友人より遥かにしっかりしている。

 こいつがペアか。良かった。

 一瞬、準一は百合を思い出す。

 何で人間ってああも違うんだろうな。

 

「どうしました?」


 何か変な顔をしていたであろう準一に四之宮が聞く。「何でも」と返され、四之宮は「何か失礼な事とか考えませんでした?」


「はは、お前ほど出来た人間は居ねえよ」

「はいはい」


 と四之宮が答え、準一は資料を見せ、パソコン画面を見せた。

 手短に、仕事の説明だ。

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