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1月2日とお雑煮

少し遅めの1月2日。よろしければお楽しみください

 1月2日を迎えた時、四之宮はすでに回復していた。しかし、元気であって正月であっても特段することは無い。かなしいかな、この男2人は彼女が居ない。

 準一はそう、彼女が居ない事を考えながら四之宮にコーヒーを淹れる。


「しかし」と言いながら四之宮の座るソファ、その隣のチェアに腰掛け、テレビを点け朝のニュース番組、アナウンサーの男を見、ため息を吐く。「俺達には彼女ってのが居ないからな。虚しくならないか?」

「まさか、僕は先輩がいてくれて、満足しています」

「何サラッと気持ち悪い事言ってんだよ」

「先輩、何気に酷いですよね」


 そうか、と聞きながら啜ると「そうですよ」と返され「そうか」と再び言うとコーヒーの入ったカップから口を離す。


「なぁ、お前さ。そんだけ顔いいんだし、彼女作ろうとか思わなかったわけ?」

「さぁ……どうでしょう。僕はアニメが全てですし。でも、そういった告白なんかは何度かあるんです。僕の部屋、ファッション雑誌とかポスターとか、一見すると普通じゃないですか?」

「あ、ああ」


 確かに、と思う。四之宮の部屋は探さない限りオタク趣味、とは到底かけ離れている。


「友達はいるんです。アニメ好きの人なんですけど、趣味の事は隠す方が良いから。って、ああやって隠す方法を教えてくれて」

「へぇ……どんな奴?」

「一見すると普通ですよ。アニメ好きですけど。凄く良い人で、僕にかなり優しくしてくれて。実は今日、その友達がここに来るんです」

「ふーん……って、え? いいのかよ。俺が居て」


 聞くと四之宮は笑みを向ける。


「先輩はこの部屋の住人ですよ。それに、少し貸していたDVDを返してもらうだけですから」


 なら、顔合わせは無いか。と準一は思いコーヒーに口を浸け「あちっ」となる。熱いのを忘れていた。


「はは。ドジッ娘ですか?」

「はぁ、漢字。違うんじゃないか?」


 わざとですから、と笑った四之宮はコーヒーをゆっくりと啜った。






 コーヒーを啜っていたのは午前7時。2人とも仕事の所為か早起きが習慣だ。8時を過ぎた頃、適当な談笑を切り上げ準一と四之宮は朝ご飯を作ろうと、台所に立っていた。

 言うまでも無く、準一は料理上手。四之宮は出来るが、準一ほど美味しくは作れない。

 なので、たまに準一から料理を習っており、今日も習う事にした。


「え? 先輩、分量とかは気にしないんですか?」と聞いた四之宮は、野菜を切る手を止め、準一を見る。「ああ」と答える準一はリズミカルにトントンときゅうりを切り進めている。


「まぁ、俺の場合だがな。作る飯は自分の分、それに結衣の分ばっか。作っていれば、嫌でも好みの味付けが分かるからな」

「そんなもんですか?」

「そんなもんだ。案外とな。料理は慣れだ」


 はい、と応じ四之宮は野菜切りを再開。切り終わる頃、準一は別の作業に入っていた。調味料、鍋などを取り出している。


「何を作るんですか?」

「昨日、お前は寝込んでて正月っぽいモノ、食べてないだろ? お雑煮、食べたくないか?」

「そんな、気を遣って」

「気にすんなって。じゃ、ちゃっちゃと作っちまおうぜ」

「はい!」


 元気よく四之宮が答えると「よし」と準一は鍋をIHに置き雑煮づくりを始めた。






 朝食はそれなりにお腹の膨れるメニューになっていた。お雑煮。他には四之宮の練習の末の肉じゃが。準一の作った魚の煮付け。それに白米。たくあんも用意してある。


「随分と豪勢になりましたね」


 テーブルに料理を並べ、四之宮が言うと準一が熱いお茶を淹れ、持ってくる。「だな」


「でも、先輩ってやっぱ凄いですね。何でも作れるんじゃないですか?」

「まさか。知ってる範囲だけだ。悪いな、煮つけで時間食って」

「いえ、美味しい料理が出来上がるんです。待ちますよ」


 あんがとよ、と四之宮の向かいに座った準一はお茶を自分のトコに置くと、四之宮の方にも回す。


「あ、どうも……それじゃ」

「ああ」

「「いただきます」」


 口を揃え、2人はまず雑煮に手をつける。入っていた餅を箸で掴み、口に運び引っ張ると伸び、切れる。それを噛んで呑み込んだ四之宮は汁を啜る。


「美味しい……」

「しみじみ言うなよ」

「でも、本当に美味しいです……凄いなぁ、先輩」


 考えてみれば、と準一は思う。準一は福岡に居た頃、何かに褒められたと言えば面倒見の良さと料理の腕だ。

 自分ではわからない、美味いのだろうか?

 そう思いながら、四之宮の肉じゃがを一口食べ


「ん?」


 と声を出す。


「どうです?」

「美味しい。あまり汁気が無い感じが」

「よかったぁ……」


 心の底から嬉しそうな表情を浮かべた四之宮。美味しいと言われた事が余程嬉しいのか、準一は思わず笑みがこぼれる。


「そういや、お前の友達、名前何て言うんだ?」

「あ、はい。揖宿康太です」


 揖宿? と準一は知り合いの名前を探す。確か1人知っている。珍しい名前だ、すぐに覚えた……そう、結衣の弓道部の友達だ。しかし珍しいな、そんな少ない苗字を日本で2人も知れるなんて、世間は狭いってやつだな。


「福岡県出身ですよ。先輩と同じですね」


 撤回だ。まさか、兄妹なんてことは無いだろう。それだと本当に世間は狭くなる。


「何時ごろに来るんだ?」

「えっと……昼前ですね」

「そっか、じゃあそれまで掃除とかしないとな」


 はい、と応じながら「本当に家事を生活の一部にしている人だな」と感心する。四之宮の周りの男子の大半は、掃除などを行わない人間が多い。

 だからこそ、準一の家事スキル、家事を生活の一部にしているからこその清潔感には一種の信頼を抱いている。


「俺は隠れていた方がいいか?」

「ダメです。僕のお客さんは先輩のお客さん。先輩のお客さんは僕のお客さんですよ」


 どこのジャイアン理論だよ。と思う準一は魚の煮付けを食べ、少し濃いなと思い茶を啜る。


「ですから、一緒に居て下さい。絶対ですからね」

「分かったよ。……なぁ、ヤバい奴とかじゃないよな?」

「そんなんじゃないですよ。本当に、アニメ好きの良い人です」


 だよな、と思いながら質問がかなり失礼だったと反省しながら雑煮の汁を飲み干し、空になった茶碗を置く。


「お雑煮、振る舞った方がいいと思う?」

「あ、いいですね。先輩の雑煮ならきっと喜びますよ」

「そっか?」

「そうですよ」

 

 だといいが、と準一は付け加えると四之宮の肉じゃがを口に含むと白米をパクパクと食べ進めた。





 1月2日。東京は雪が降っていた。と言っても、公共交通機関が麻痺するほどでは無い。上機嫌の揖宿康太は、武蔵小金井駅で電車を降り、ドンキホーテじゃない側から駅を出ると、すぐ向こうにあるサイゼリヤに目を向け、次に右を見、イトーヨーカドー、マクドナルドを見る。


「洋介のマンションは」


 キョロキョロと探し、見つける。揖宿が出た側、すぐ左の横断歩道を渡り、細道に入った中。モスバーガーの目の前、マンションがある。

 しかしまずは何か買っていこう、とDVDの入ったトートバックを背負い直す。


「コンビニでスイーツでも買っていくか」


 揖宿はマンションに向かう前に、少し先。牛丼屋の隣にある青いコンビニへ向い、適当にケーキを購入すると急ぎ足でマンションへ向かう。





 インターホンを押す前に四之宮は出た。相変わらず、人の良さそうな整った顔立ち。これでオタクなのだから少し勿体ない、と揖宿は思うがそれは四之宮も同じだ。茶髪にした揖宿はファッションモデル顔負けにカッコいい。


「久しぶり、康太」

「おお。見ろよ、ホイップしてそうな高そうなクリームの上にメロンが乗った豪勢なプリン。持ってきたんだ。食おうぜ」


 いいよ、と四之宮が頷く直前。揖宿は靴を脱ごうとし気付く。

 靴が多い。

 知らない奴、誰だ。


「洋介、この部屋……いや、邪魔する」

「え?」


 いつもと様子が違い、四之宮は困惑しながら後を追う。揖宿はまず洗面台へ。洗面台の歯ブラシ用カップは2つ、歯ブラシは2つ。赤、青。次に台所、食器棚。揖宿の想定通り、なぜかお揃いのカップやその他食器がある。


「おい、四之宮。やっぱ掃除早く終わったし、昼前には買い物に行った方が良いぜ。冷蔵庫、空っぽだったろ」

 

 聞こえてくる知らない男の声。揖宿は警戒しながら台所に近づいてくる声に耳を澄ませ、すぐにその人物は出て来る。


「あ、紹介するよ。僕の先輩、同じ営業部なんだ。朝倉準一先輩」

「え? あ、ああ。初めまして」


 と言った準一は頭を下げる。揖宿は頭を下げようとせずただ睨み付け、目を細める。


「ざ……んな……」


 何か小さな声を発しながら震え始める揖宿。準一、四之宮は分からず目が合う。


「ざけんなよ!」


 何が、と思う2人は揖宿に聞かず彼の言葉を待つ。


「ざけんな! 何で俺じゃなくてあんたみたいなぽっと出の奴がここに一緒に住んでんだよ!」


 ビシッと準一に指を刺す揖宿。準一は四之宮を見、「何で説明しなかったんだよ」と目で聞くと「いやぁ……すいません」と四之宮は申し訳なさそうに頭を下げる。


「分かるか!」と揖宿は四之宮に向くと、両手で肩を強くつかみ揺さぶる。「な、何が?」と四之宮。分からず、一歩後ずさり。

「何で俺じゃないんだよ……マジでさぁ。何でだよ。すっげぇムカついてんだよ。分かる?」

「い、いや、先輩は荷物奪われたりとかしてたし」

「そうじゃねぇよ……!」


 低い声で言った揖宿は下げていた顔を上げ、四之宮に目を合わせる。


「何で……何で、俺を拒んだんだよ。何でこいつは一緒で良いんだよ」


 正直、準一はドン引きだった。流石の準一も、目の前のガチ勢に背筋を震わせる。見ると、四之宮は理解できずに顔を真っ青にし、準一を見ている。助けを求める目だ。 


「なぁ……洋介!」と押した揖宿は四之宮を押し倒す形になる。「ちょ! ちょっと!」と四之宮は迫る揖宿の顔から逃れようと顔を逸らす。

「何で、そんなに……どうして俺を拒むんだよ」

「い、いや! これは普通の反応だってホント!」


 流石に準一は見かね、揖宿の襟首を掴むを引っ張り上げる。「おい」


「んだよ、あんたに関係あんのか?」

「一応後輩で、部屋の主だからな」


 準一が言うと四之宮はパッと起き上がり「助かりました。先輩」と準一の背中に隠れる。それを見、準一の手から逃れた揖宿は悔しそうにする。


「そ、そんなに……そうか。分かった……ッ! 朝倉準一!」

「え? あ、うん。何?」

「俺の方が、洋介を幸せにできる!」

「そうか」

「ああ、そうだ。どうだ、参ったか」


 ああ、と応じた準一は少し考え閃き口を開く。


「お雑煮、食べる?」

「頂きます」


 どうやら揖宿はお雑煮を食べてくれるらしい。出来ればこの流れを切り上げて、準一はさっさと逃げたかった。

 

「任せる」


 と準一は四之宮の肩を叩くと台所へ行き、お雑煮の温めを始めた。

本当にお暇であれば、感想など。待ってます


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