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元旦の看病

「うおおおぉ! これはあのイベントのチケット! 先輩どこからかっぱらって来たんですか!?」


 戻り、2枚あったチケットの一枚を渡すと、四之宮は喫煙室で叫んだ。


「さっき、神代茉那に会ってな」と準一は煙を吐き、灰を落とす。「来るだろ?」

「それはもちろん!」


 四之宮は満面の笑みでチケットを見て、何かに気付く。「あ、このチケット」


「え? どうかしたのか?」

「いえ、このチケット、手に入らないのは当たり前なんですが、この席」


 準一はチケットを取り出し、見て見る。


「一番人気の最前列のど真ん中」

「すごいの?」

「まず一般人は手に入りません。この最前列は制作関係者や、原作者専用です」


 とんだVIP席だな、とタバコを一吸いし、少し苦笑い。「いいのかな。俺達がそんな席で」


「彼女が良いと言うんですからいいんでしょう。きっと」

「まぁ……そうだよな。あ、お前ケーキ食うか? 買って来たんだ」

「あ、食べます」


 準一はタバコを灰皿に押し付けると、袋を持ち四之宮と共にデスクへ戻る。




 そして、しなければならない仕事をする。妹、結衣への電話だ。帰る、と言っていたのだがこうなってしまった。妹よりあのアイドル様の用事を優先した、と言ってしまえば翌日には妹はどうにかしてでも東京の準一の居候先である四之宮宅を突き止め、乗り込んで来るだろう。

 そうなれば仕事場へ来るのは当たり前だ。

 避けなければならない、それが起これば、同僚の三階堂は結衣を紹介しろとうるさくなる。

 結衣は可愛い。そう、可愛いのだがそれが困りモノだ。

 可愛すぎるのだ。

 容姿が。


『……ねぇ、もっかい言って?』


 帰れなくなった、と伝えた途端。妹の声のトーンの落ち具合は半端ではなく、準一は瞼を閉じ、一呼吸置く。


「だ、だからな。帰るって言ってただろ? 仕事じゃないんだけどもな。帰るまでに遅れる用事が出来た」


 現在、準一の赤いガラケーには、四之宮や他の社員も張り付いている。


『……兄貴さ、そんなにあたしと会いたくないわけ?』

「……え?」

『そーなんだ。兄貴、会いたくないんだ。あたしがウザいんだ。だから帰って来ないんだ』


 途端に拗ねだす妹。ため息交じりに返答する。


「そういうわけじゃないんだ。だがな、知り合いの頼みごと、ってかそいつの一世一代のチャンスでな。見届けてやらなきゃならなくて」

『むぅ……なんか、それってズルくない? あたしが悪いみたいじゃん』

「そうじゃないって。でもごめんな結衣。マジでゴメン。それが終わればちゃんと帰れるから」


 ホント? と結衣は少し寂しそうに聞く。何とも申し訳なくなり準一は「本当だ」と優しく答える。

 すると通じたのか結衣は「うん」と返事をし


『じゃ、じゃあ絶対だよ。それが終わったら帰って来てよ。絶対だよ? 絶対だかんね?』

「分かった。必ず帰る」

『帰って来なかったら役所にあたしと兄貴の婚姻届出すかんね?』


 絶対受領されないし許可も下りないぜ、と思いながら苦笑いする。


『じゃあ、その一世一代見届けてあげてね。あたしはその後で良いけど、覚悟しといてね。クリスマス一緒に過ごさなかったから、こっちに居る間ず~~~~~~っと甘えるかんね?』

「分かったって。お前、マジで彼氏とか作れば? モテるんだし、可愛いし」

『あのね、兄貴以外の男に好かれても気持ち悪いし、可愛いなんて言われても鳥肌しか立たないの。もう、いつも言ってんじゃん。あたしは兄貴の女なんだからね。じゃあね、お仕事も頑張ってね』

「おう」


 と、通話が終了すると準一は携帯を仕舞う。


「……何でみんなして聞いてんすか」


 ジト目で皆を見渡す。だが、皆あからさまに引いている。


「お、お前朝倉……あんな可愛い妹にあんだけ好かれて、女って」


 三階堂は一歩下がり


「き、近親相姦的な?」


 女性社員は一歩下がり


「僕はもう慣れましたよ」


 四之宮は一歩近づく。


「近い近い近い」


 準一は、一歩近づく事により、目の前、鼻頭が当たる距離の三階堂に苦笑いを向けると、後ろを向き、大きくため息を吐いた。





 年末、大みそか。準一と四之宮は出掛けずに部屋に居た。2人でコンビニで大量に購入した缶ビールを手に、つまみを作りアニメを見て居る。神代茉那が出ているアニメだ。


「いやぁ~。たまんないっすね、年末にアニメって」


 結構寂しい事じゃないか? と思うが、このアニメが結構面白く、酒が入っていながらも準一は割と見入っている。

 駄目なアイドルと駄目なマネージャーの、奮闘劇。トップアイドルになるまでを描いた作品。

 この作品の原作は、ライトノベルで準一はその一冊を借り、読んでみたが


「……台詞多くね?」


 と、読む気を失くしアニメで見る事にした。準一の読む本は決まっておらず、映画などで有名になった恋愛小説も読めば、外国の作品を翻訳出版した本も読む。


「いいですよねぇ……アニメ」


 四之宮の意見には賛成だった。準一はライトノベルは合わない、からだ。

 第3話のオープニングが始まり、準一は柿ピーを摘み、口に運ぶ。 


「先輩結構楽しんでますね?」

「見て見れば面白いからな。これにハマる奴らの事が少しは分かったよ」

「じゃあ先輩も」


 と言った四之宮の頭をゆっくりとチョップする。「だが、オタクにゃならんぞ。俺は齧る程度で良い。ロボットアニメなら考えるが」

 準一のお気に入りはロボットアニメ。


「それじゃあ後でSEED見ません? 砂漠の虎編で止まってますし」


 考えてみれば明日からは仕事は無い。まぁ、徹夜でも良いか。と頷く。どんな展開になるのか気になっていたので丁度良かった。

 



 

 つまみが無くなる頃、既に日は昇りつつあった。日の光、初日の出をカーテンの裏から感じ一瞬、眩しさを感じ準一は目を覚ました。頭が痛み、気持ち悪かったが朝だと理解し立ち上がろうとする。どうやら、ソファに座ったまま眠っていたらしいのだが、四之宮が自分に倒れ掛かって来ている。


「四之宮」と呼び肩を叩くと四之宮はゆっくりと目を覚ます。「う、吐きそう。……あぁ、おはようございます。先輩」


 本当に気分が悪そうなので背中を擦ってやると、口に手を当てたままの四之宮はおぼつかない足で洗面所へ向かう。流石に危ないので肩を貸してやり、洗面台まで運ぶと四之宮は吐きそうにオエオエ、と唸る。

 見かね背中を擦ってやると


「す、すいません」と辛そうに礼を言う。


 新年早々なんて奴だ、等と思いながらため息を吐き、落ち着いた四之宮を彼の自室のベットに寝かせた。


「先輩、本当に申し訳ありません」

「気にするな。それより、大丈夫か?」

「えぇ、特に問題は」


 と四之宮は言うが見るからに悪そうだ。顔色も良くないし、声に力が無い。あの快活とした好青年はどこへやら。


「飯は食えるか?」

「いえ、今はちょっと」

「なら腹が減ったら言ってくれ」

「そ、そんな悪いですよ」

「バカ言うな。辛そうにしてんだ、世話焼きは俺の義務だって、大人しく受けてろ」


 はい、と言った四之宮。「よし」と笑みを浮かべた準一は冷えピタを取り出す。


「どうする? 辛いなら付けるか」

「じゃあ、お願いします」


 おう、と応じ準一は冷えピタを貼ってやる前にデコを拭く。多分、少し熱もあるのだろう。飲み過ぎの二日酔いかと思ったが。ゆっくりと冷えピタを貼ると四之宮は少し落ち着く。


「冷たくて気持ちいいです」


 と言いながら、四之宮は毛布を被ろうと手を伸ばすが、それより早く伸びた準一の手が布団を掛ける。


「元旦にいきなりこんなだが、治さなきゃ意味ないからな。まずは寝てろ」

「はい……すいません」

「いいって、じゃ俺はここにいるから」


 はい、と蚊の鳴くような声で返事をした四之宮はゆっくりと瞼を閉じ、真っ赤な顔のまま眠った。それを見て準一は一息つくと、タオルなど汗を拭く物を用意し、四之宮の机から椅子を持って来、ベットの横に置くと座る。

 すーすーと寝息を立てる四之宮の顔を覗き込み


「腹出して寝たのか」


 と呟くと、手近な棚からファッション雑誌を取りペラと捲った。特段興味があるわけでは無いが、何も見ていないよりマシだった。

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