突然の理不尽はクリスマスイヴ前日
「ねぇ、コレ何?」
クリスマスイヴ直前の夜11時、自宅のアパート。
その二階の部屋の玄関前。彼は、同棲している彼女に1枚の写真を見せられた。
彼は会社帰り。退屈なデスクワークから解放され、やっとの思いで帰宅。
やれやれ、と言わんばかりの態度で写真を見る。
「あんたさぁ。この日、京都に出張じゃなかった?」
写真の日付は11月12日。11月は10日から15日まで京都に滞在していた。
仕事だ。
相手会社、取引先との商談の為だ。
ちなみに写真は、まだ10代そこらの若い女性と彼の2ショット。
別に何かいちゃついているわけでは無い。
ただ、並んで楽しそうに歩いているだけ。
「いや、これ」
これは、と続けようとするが「言い訳はいいから」と彼女は大きな荷物を彼の前に降ろす。
「出てって。今すぐ」
大荷物は、彼のモノ。纏めている様だ。「だから、この写真は」
「出てけつってんでしょ!」と、彼女は怒りに震える瞳で、彼を睨み付け言い放つと扉を閉める。
一方的だった。
取り付く暇もなかった。
扉が閉まって直ぐ、お隣さんや、同じアパートの人たちが何事か、と顔を出した。
「はぁ」
大きなため息と共に、大荷物を背負い、彼、朝倉準一はアパートの階段を下りた。
クリスマスイヴ直前、というより前日。追い出された準一はトボトボと歩き、近くの公園のベンチに腰を降ろし、スーツの上に着ていたコートの懐から煙草を取り出した。
ズボンのポケットからライターを取り出し、咥えた煙草に火を点ける。
一度、煙を吐くと、項垂れた。
「最悪だ」
追い出された経緯。
それは、彼の彼女、御織百合の大きな誤解である
写真の女性、それは朝倉準一の妹、朝倉結衣だ。
同棲している彼女だが、結衣の事は知らない。
教えておけば良かった。と後悔するが、もう遅い。
御織百合は、朝倉準一と同じ25歳で、見た目は綺麗だが性格に難があった。
同棲前は知らなかったが、かなり我儘で、傍若無人。
同棲前は、かなり猫をかぶっていた様だ。
彼は何度か、別れ話を持ち出したが「別れる理由が無いからイヤ」と言われ、半ばあきらめ、半年間同棲していたが、今日で終わり。
そう考えれば、少しは気が楽になる。
しかし、問題はあった。
これからどうしよう。だ。
住居であったアパートは彼女が独占。
彼は寝床が無い。
今日は野宿か、とタバコを落とし、革靴で踏みつけると息を吐く。
気温の低さからの息の白さと、タバコの煙とが混ざり、どっちがどっちか分からない。
取りあえずは知り合いを頼ろう。と携帯を開くが、同時にバッテリーが切れる。
「マジかよ」と呟き、更に項垂れ、荷物を背負い、自販機を見つける。
一瞬、自販機のコンセントを抜いて、充電してやろうか、と思うが、もう社会人だ。
逮捕されるのは嫌なので、取り出した充電器をポケットに仕舞う。
取りあえず、缶コーヒーでも買って温まろう。
そう思い、自販機の前に立ち120円投入。
だが、自販機に入金額が表示されない。
「お、おい」と思いながら見るが一向に変わらない。
しかたない、と次を入れようとした時、バイクが近づき、地面に置いた大荷物の入ったバックが奪われた。
いや、持ち去られた。
「お、おい! 待てオイ!」
叫ぶが、バイクは早い。大通りに抜け、姿を消す。
ナンバーを覚えておけば良かった。
準一は、その場にしゃがみ込み、前髪をかき上げた。
「理不尽すぎるだろ……マジで」
すると、雪が降り始め、折り畳み傘が大荷物に紛れていたのを思い出す。
この状態で野宿すれば、確実に風邪を引く。
明日は今日と同じように出勤しなければならない。
一応、通帳、定期券、免許証、保険証等は財布に入っており、それはポケットに入っている。携帯、充電器もだ。
財布を見る。
1万。
ATMで下ろすか、と思うが、通帳残高がゼロに近い事を思いだす。
通帳があるにもかかわらず、金は現金で持つのが御織百合だ。
今日は取りあえず、ネットカフェで過ごそうと思うが、定期は明日買わなければならない。
それを考えると、現金はギリギリ足りない。
給料日もまだ2週間以上先。
しんしんと降る雪は、大粒に変わり、風が吹き、勢いが強くなる。
すると、自分に当たっていた雪が止まった事に気づき、上を見る。
「あの、大丈夫ですか?」
見ると、まだ若い。スーツ姿のイケメンが自分の上に傘を差し出し、雪を防いでくれている。
「あ、ああ。すまない」と準一は立ち上がり、着いていた雪を落とし「君は?」
「あ、すいません。僕は四之宮洋介」続け「あなたの後輩です」
「え?」
「僕はあなたと同じ、営業部署の人間です。つい昨日、会計部から異動してきました」
ああ。と準一は左手を差し出す。「そうか、よろしく」
「ええ。宜しくお願いします」
ニコ、と笑い、四ノ宮は準一の手を握り返し、握手をする。「先輩、一体どうしたんです? 雪の中で」
いやぁ、と準一は苦笑いし、手を離す。「彼女に追いだされてさ」
「ダメですよ先輩。浮気は」
「してねぇよ。誤解だよ」
「した人間は皆そう言います」
ったく、と準一は写真を見せる。彼女の持っていたものと同じ写真だ。
「この女性が、浮気相手ですか?」
「妹だよ」
「ええッ?」
四之宮は驚き、準一と写真の女性、妹の結衣を見比べる。
結衣は、高校生。超が付く美少女だが、準一はそうでもない。
まぁ、悪くは無いよね。程度だ。
「お前、一応俺は先輩だぜ?」
「す、すいません。昔からこんな調子でして」
はぁ、と準一がため息を吐くと「先輩。行くところないんですか?」と四之宮。
「あ、ああ。確かにそうだな」
「だったら、ウチに来ます? ここから近いマンションですし」
「そりゃありがたいが」準一は聞いておく事にする。「迷惑じゃないか? 同居人は?」
「生憎、僕は生まれてこの方独り身です。同居人なんて無し。先輩さえよければ、来ていただいて構いません」
なら、言葉に甘える。と準一が言うと「では、行きましょう。風邪を引きます」と四之宮が言う。
四之宮の差す傘に、準一の入り、2人はマンションまで歩く。