一旗揚げたい人達
お約束のチンピラ冒険者って、まだやってなかったなぁ、
と無計画で書き始めたら、こんなんなった。
ここは、都市国家同盟のひとつで通称『迷宮都市』と呼ばれる。
都市国家同盟は名前が示す通り、小規模国家の集合体であり、
中核都市それぞれに国王に当たる領主が存在しているのだが、
ここはやや異質で、都市の代表が議会制で選出されていた。
元々、この場所はどの国にも所属していない田舎町であった。
迷宮の発見により一獲千金を求めた者が集まるようになり、
人口の増加に伴って一大都市を形成したのである。
都市の成り立ちから、領主と呼べる者が存在しなかったために、
迷宮探索で財を成した冒険者や大商人達が都市議会を結成し、
よその干渉を封じ込め、現在に至っている。
迷宮は未だに枯れておらず、調べ尽くされてもいないために、
周辺からは富と名声を求めてまだ多くの人が集まり続けていた。
今日もそうした者達が、冒険者組合の門を叩く。
◆
迷宮都市の冒険者は、出自が多岐にわたる。
大半は実家を継げない農民や町民、あるいは弱小貴族。
いるのが場違いにも見える、元騎士、魔術師、元神官。
出自を明かせない後ろ暗い者もいる。
今、冒険者組合の窓口にいる六人も、元は農民の子供達である。
彼らは夢を求めて訪れたものの、まず書類が書けないという、
第一の壁にぶつかっていた。そもそも字が読めないのだ。
王国、大公国、教国のように一般大衆への教育がなされておらず、
都市国家には周辺の町村へ気遣いする義務も義理もないため、
都市国家同盟では富裕層以外、共通語の読み書きや計算も怪しい。
書類で時間がかかるのは毎度の事なので窓口も慣れており、
職員が一人、彼らにつきっきりで文字から書き方を教えていた。
彼らには最初からあまり複雑な事を要求も出来ないため、
見習い登録の項目も他国に比べると必要最小限である。
そもそも長い文書が、彼らに理解可能かも怪しい。
書くのは名前、性別、年齢、出身地のみ。
そのため他国では登録の際に身元の確認などを行うはずが、
ここでは調査の目も甚だ甘かった。
おかげで最初のふるいにかけられず、バカも湧いてくるのである。
「はっ、冒険者組合はおこちゃまの遊び場になったのか?」
人相通りの態度を取る、頭の方も悪そうな連中が六人に絡む。
体格はかなり良い。六人と比べれば確かに大人と子供だろう。
「彼らはまだ登録すらしていません。
民間人への威嚇行為は組合の規則違反ですよ、ゲルさん」
職員の男にゲルと呼ばれた、固太りの男はにいっと笑って、
「威嚇なんかしてませぇん。ただのひとりごとでぇっす。
ひとりごとにケチつけたりしないで欲しいでぇす」
などと混ぜっ返す。
職員は横目で見ながら、六人が書き上げた書類をまとめる。
「おぅおぅ、これでおこちゃまたちも冒険者見習いでちゅかぁ。
後でおにいちゃん達がいろいろと教えてあげまちょうねぇ」
ネチネチとゲルがさらに絡んできたが、
「組合の規則で、冒険者同士の争いってどうなんですか?」
と六人のうち一人の青年が職員に問いかけてきた。
目を見張る職員、戸惑いつつも答える。
「民間人への威嚇や犯罪行為は組合への信用問題なので、
処罰の対象になります。当然都市法でも裁かれます。
冒険者同士での争いについては、特に規定はありません。
荒事が多い仕事ですし、ケンカも日常茶飯事ですからね。
だからと言って日常的に殺し合いなどされても困りますが」
「なるほど、わかりました」
と言った青年。次の瞬間。
物凄い音を立ててゲルが殴り倒され、床で伸びていた。
腹に拳を一撃。職員は無言。止める間もなかった。
いきり立ち、武器を抜きかけるゲルの仲間だが。
「ん?やるの?」
と言った青年は、既に連中の目の前に立っている。
数歩は離れていたのに。
「いろいろおしえてあげる、とかやたらうるさかったけど。
何をおしえてくれるって?」
ゲルの仲間達は本能的に悟った。武器を持っていても勝てない。
全員思わず後ずさる。
「これ、連れて帰ってね。邪魔」
と言った青年に冷たい汗をかきながらこくこく頷くゲルの仲間達。
慌ててゲルを抱えて出ていく。捨て台詞すら恐ろしくて吐けない。
この六人は元農民だが、戦闘経験がないわけではない。
地元では普通にオオカミやらイノシシやらを素手で撲殺していた。
騎士団など頼れる存在は田舎におらず、それが日常だったのだ。
あんな図体だけの連中が迷宮で活躍出来ているのか?
油断するつもりはないが、これなら自分達もそこそこ行けそうだと
六人は密かに自信を持った。
やはり暴力…暴力は全てを(以下略)




