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落ちこぼれの笛吹き、狂暴な古竜を『歌』で手懐けて空中要塞の主になる

掲載日:2026/04/02

あの咆哮には、拍子がある。


城壁の外から届く轟音を、騎士たちは恐怖として受け取り、魔導師たちは計算すべき破壊力として受け取っていた。アルトには——六拍で完結する音型と、その型が次へ移るときのわずかな揺らぎが、聞こえていた。


学院で最後の術式試験を受けた日、監督官が首を振った。「お前の音は基準から外れている。共鳴しない。つまり、どこにも届かない」


アルトは何も言わなかった。言えるはずがなかった。自分には聞こえている——監督官の杖の先が、試験管の魔素に触れる瞬間、ほんの一瞬だけ周波数がずれるのが。でもそれを指摘すれば「言い訳」と呼ばれた。何度も経験していた。


監督官が背を向けた後、アルトは中庭で笛を吹いた。誰も聴いていない。でも——自分は聴いていた。自分の音が、確かに空気を震わせていることを。


それで十分だった。そう思いたかった。


でも本当は、違った。誰かに聴いてほしかった。自分の音が、誰かの耳に届いてほしかった。その願いが叶わないことを、アルトはよく知っていた。


術式を描けば魔力が漏れ、詠唱を紡げば共鳴が乱れる。学院では「落ちこぼれ」と呼ばれていた。教室の最後列、窓際の席。教師がアルトを当てることはなかった。当てても答えられないからではなく、当てた瞬間に教室の空気が濁るのを、教師自身が無意識に避けていたからだ。


だが風の流れと地面の震えを「入力」する感覚は、誰より鋭かった。魔力を持たないからこそ、干渉のない純粋な周波数だけが耳に届く。


中庭で笛を吹くと、塀の外の森から何かが応えてくる。虫でも鳥でもない、低い拍を持った往復音。返すと変わる。変えるとまた変わる。


最初に応えがあったのは、学院に入学して三ヶ月目の夜だった。中庭の石畳に座り、練習用の木笛を吹いていた。ふと、自分の音が戻ってくるのに気づいた——反響ではない。間がある。間を持って、何かが答えていた。アルトは息を止めた。森の闇は動かなかった。でも、そこに何かがいることは、皮膚が知っていた。


それから三年間。姿も名前も分からない何かと、その対話を続けていた。


雨の夜も、雪の夜も。風が強すぎて自分の音さえよく聞こえない夜は、相手の声も届かなかった。でも次の夜、必ず返ってきた。こちらが途切れさせた分を詫びるように、少し長めの往復音で。


今、城壁の外から届く咆哮の底に——その対話と同じ文法が流れていた。


---


骨笛を唇に当てた。


翡翠色のそれは冷たくて、すぐ温まる。この笛を拾ったのは廃村だった。三年半前、学院の課外実習で訪れた村は、既に人が住んでいなかった。床板を剥がした土の下、腐食しかけた革の小袋に入っていた。骨笛一本だけ。他には何もなかった。


息を通すと微かな抵抗があって、それが逆に手応えになる。三年間、この感触だけが変わらなかった。


最初の音を出した瞬間、腕の産毛が逆立った。


向こうが聴いている。皮膚がそれを先に知った。


咆哮の底にある音型が「何かを失った」形をしていた。アルトにはそれが分かった。失ったものの輪郭を、音の欠落として聴き取れる。三年前、森の相手が初めて「悲しみ」の形を送ってきた夜——あの時と同じ欠落の型だった。


アルトは息の向きをずらし、同じ揺らぎを自分の喉の奥でなぞった。相手の形に自分の形を合わせるだけだ。


でもその瞬間、群れの前列が波のように静止した。


四千の魔物が、動きを止めた。


指先に力を入れた。深いところから引き上げる息で、次の節を出した。唇の端が乾いてきた。唇の皹から滲んだ血が、塩の味で笛の縁を濡らした。


中列が座り込んだ。


止めなかった。止めたら別の音になる。それは森の相手から教わった——返すときに一拍でもずれると、相手は同じ形では返してこない。会話はいつも、次の音をどう返すかで決まる。


後列が伏した。


四千が、静止した。


笛を降ろしたとき、黒い古竜の背中が光を帯びていた。鱗が溶け、翼が収まり、百メートルの巨体が一人の少女に凝縮された。大きいものが小さくなるのではなく——本質だけが残って、余分が全部消えたような変化だった。


漆黒の長髪。深紅の縦長の瞳。白い肌、群青のドレスに鱗の欠片。


少女は城壁の前に降り立ち、アルトを仰ぎ見た。沈黙があった。それから言った。


「笛吹き。その笛は、どこで手に入れた」


命令より静かで、命令より重い声だった。


「廃村の床板の下で、拾いました」


少女は動かなかった。長い間、動かなかった。その間、アルトは聴いていた——彼女の内部で何かが軋む音を。古い傷が、乾いた音を立てて開くような。


「そうか」


その二文字の中に、三年分の応答が入っていた。アルトには聞こえた。まだ言葉にできなかったが、確かに聞こえた。


「私はリヴァイ。古竜第三氏族の長女、千二百年を生きた」彼女が顔を上げた。「お前の名は」


「アルトです」


「アルト」一度だけ繰り返した。確かめるように。「今夜からその笛を、誰にも渡すな。誓え」


「誓います」


リヴァイは群れに向けて短い音を出した。人間には出せない周波数の、腹に響く命令音だった。四千が向きを変え、音もなく退いた。彼女はその後ろ姿を一瞬見送り——その目に、アルトは気づいた。誰も見ていないと思った瞬間、リヴァイのまつげがわずかに震えたのだ。何かを堪えるときの、あの震えだった。


城壁の上で、誰も声を出せなかった。


---


その夜、アルトは中庭で笛を吹いた。


いつものように、塀の外の森から声が来た。低い往復音。返すと変わる。変えるとまた変わる。


でも今夜は——終わらなかった。


いつもは数往復で引き上げていく。今夜は、アルトが止めるまで続いた。止めた後も、しばらく向こうから音が来た。それが止んだのは、深夜を過ぎてからだった。


アルトは骨笛を両手で包んで、空を見た。石畳の隙間にたまった埃が、音の残響に合わせて微かに揺れていた。窓ガラスが、低い周波数で唸った。


彼は気づいていた。でもまだ、聞かなかった。聞いてはいけない気がした。


---


翌朝から、リヴァイは城門の外で待つようになった。


石畳に腰を下ろし、膝に顎を乗せ、空を見ていた。アルトが来ると深紅の目だけが動いた。「遅い」と言われた。日の出と同時に来たが、遅かった。


次の日は日の出前に来た。やはり遅かった。


三日目、まだ星が残っているうちに来ると、リヴァイはもう石畳に座っていた。ドレスの裾に夜露が染みていた。ずっとそこに座っていたのだ。


アルトは隣に座り、しばらく黙っていた。


「何時から来てるんですか」


「関係ない」


「夜はどこで」


「関係ない」


リヴァイは空を見たまま、指先でドレスの裾を押さえた。さっきまでそこに何かがあったような仕草だったが、何もなかった。彼女はただ、指を動かしていた。


ふと、彼女が呟いた。「昔、音を橋と呼んだ者がいた」


アルトが聞き返すより早く、リヴァイは首を振った。「何でもない」


アルトは諦めて笛を取り出した。リヴァイが体の向きをほんの少しだけ変えた——アルトの方へ、気づかないほどの角度だったが、確かに変えた。演奏が始まると、彼女の喉の奥でごろごろとした低い音が鳴った。竜が安堵しているときの音だと数日で覚えた。


その音を聴くたびに、アルトの心臓の裏側が落ち着かなくなることも、同時に覚えた。


五日目、学院の後輩が近づいてきた。骨笛の先端に、興味本位で指を触れた。


気づいたらリヴァイが立っていた。音もなく、後輩とアルトの間に。深紅の目が、後輩の指先を見ていた。何も言わなかった。ただ見ていた。その視線には殺意ではなかった——もっと古い、もっと正確な「所有」の宣言があった。


後輩が蒼白になり、走り去った。


「なぜそこまで」とアルトが言った。


リヴァイはドレスの裾を指先で、わずかに握った。それだけだった。


「まだ、言えない」


その「まだ」が何かを約束する言葉であることは、分かった。


---


宮廷魔導師長イグリスがアルトの演奏を記録し始めたのは、三週間後だった。


老人は距離を置いて聴き、錫杖の先の宝珠の反応を手帳に写し続けた。演奏が終わると前に来て言った。


「お前が音を出すたびに、宝珠の魔素干渉が変化する。魔法でも呪術でもない方法で」


「私には魔力がないので」


「だから面白い」宝珠を机に置いた。かすかな音がした。ただそれだけの動作に、六十年かけて積んだ何かが一緒に置かれた重みがあった。「私は三十年前、魔物に意思はないという学説を立てた。お前の演奏を聴いた今、私はその三十年を疑っている」


「一つ条件があります。音のまま、受け止めてください。理論に訳さないで」


イグリスはアルトを見た。初めて真正面から見るその目は、若い——いや、歳を重ねたからこその、好奇心を失っていない目だった。


「難しい注文だ」


「分かります。でも訳すと、息が抜ける気がして」


暖炉の薪がはじける音がした。しばらくの沈黙。それから、イグリスはゆっくりと頷いた。手帳の余白に、数式ではなく五線譜を引いた。初めての行為だった。彼の手はわずかに震えていた——老年のせいではなく、長年封印していた何かを解き放つときの震えだった。


「お前の音を、私も聴かせてもらうことにしよう」


それが、イグリスという男の、最も誠実な言葉だった。


---


その夜、城門の外。


アルトが骨笛をしまおうとしたとき、リヴァイが言った。


「その笛で、何を吹いている」


「森の相手の声を、返しているだけです」


「相手」


「三年間、毎晩応えてくるんです。塀の向こうから。姿は見えないけど——」


アルトはそこで口を止めた。リヴァイの顔色が変わったからではない。彼女の呼吸が、ほんの一瞬止まったからだ。


「その声は、どんな形をしている」


「低い往復音です。六拍で完結する。でも最後の一拍がいつも、少しだけ遅れる」


リヴァイは動かなかった。


「……その遅れを、お前はどう返している」


「同じ遅れで返します。返すと、次は遅れが半分になる。さらに返すと——」


「さらに返すと」


「元の長さに戻る」


沈黙が落ちた。長い沈黙。その間、リヴァイの喉の奥で何かが鳴っていた——音にならない音。人間の耳には届かないが、アルトの皮膚がそれを捉えていた。それは、悲しみの形をしていた。


「リヴァイさん」


「もういい」


彼女は立ち上がった。振り返らずに言った。


「明日も、ここで吹け」


---


北方の報告が届いたのは、雪の前だった。


三万。議場の誰もが黙った。報告を読む書記官の声だけが、寒い空気に響いた。食料の枯渇。山を越えて南下。三週間以内に城塞都市に到達。


イグリスが立って言った。「アルトを使え。異論のある者は自分で止めに行け」


誰も異論を唱えなかった。唱えられる者がいなかった。


城塞都市の丘の上に立ったとき、アルトの足の裏が冷えた。


三万が放つ圧は、四千の時と質が違った。大地が揺れていた——地震ではなく、膨大な重みが地を押している、生き物の揺れだった。鉄の匂いと獣の体温が混ざった空気が、顔に当たった。三万の声が折り重なって、空気そのものを変えていた。呼吸をするたびに、喉の奥が獣のにおいで焼けた。


届くのだろうか。自分の音が。


アルトはその問いを飲み込んだ。飲み込まなければ、最初の音が出せなかった。


「聞こえるか」リヴァイが隣に来た。彼女の声はいつもより低かった。緊張——千二百年生きてきた彼女でも、三万という数は特別だった。


「聞こえます。飢えです。怒りじゃない、食べ物を失って山を越えてきた」


「伝えられるか」


「自信がない。三万は遠すぎます、音が届く前に散る」


リヴァイが一歩前に出た。


「私が増幅する。お前の音を乗せれば、三万の端まで届く」


「……やったことが」


「ない」


「私もないんですが」


「だから今やる」


その言葉に、アルトは笑いそうになった。笑わなかった。リヴァイの横顔が、緊張で硬くなっていたから。


アルトは深呼吸をした。三万のにおいの中で、自分の息の味を探した。あった。微かな、木笛の残り香のような味。


「リヴァイさん。一つだけ」


「何だ」


「私が割れたら、あなたが続けてください。形は覚えています」


リヴァイはアルトをじっと見た。深紅の目が、初めて——本当に初めて——揺れた。


「割れるな」


それだけ言って、彼女は前に向き直った。


笛を持ち直した。息を整えた。


最初の音を出した。


リヴァイの喉が応えた——今まで聴いたことのない音だった。人間の体の胸郭全体が共鳴体に変わる音。アルトの節を受け取り、包み込み、何十倍にも膨らませて送り出す。アルトは自分の音の外側に、もう一つの音の膜ができる感覚を初めて感じた。二人で一つの音楽が、空気を変えながら広がっていった。


前列が止まった。


次の節。アルトは三年前、森の相手から「飢え」の形を教わった。自分も何も食べずに返した夜があった。相手は長い沈黙の後、違う形を送ってきた。飢えを認めること——その重みをそのまま受け止める形。


その次の節。生きていることの温かさを編み込む形。夜ごとの対話の中で、相手が「生きている」という音を送るとき、必ず最後の一拍が温かくなる。その温かさを自分の音に乗せて返す。


最後の節——これだけは、誰からも教わっていない。リヴァイが隣に立っている。その事実だけで吹けた形。帰る場所があるという約束の形。


三つの節が重なったとき、魔物たちの呼吸が変わった。


中列が座り込んだ。後列が伏した。


三万が静止した。


その時だった。


最後尾にいた一体だけが——小さな、鱗の色が薄い個体——振り返った。


アルトには見えた。三万の後ろ姿の中で、ただ一匹だけがこちらを向いた。そして、短い声を発した。


その声は、アルトの骨笛と同じ基準音を持っていた。


学院で「基準から外れている」と宣告された、あの周波数だった。


「……リヴァイさん」


「聞こえた」


リヴァイの声には、驚きと——何か、懐かしむような響きがあった。


「あの子は、群れの中で一番弱い。生まれたときから声が小さくて、誰もあの子の音を聴こうとしなかった」


「でも、あの子は聴いていたんですね。私の音を」


「お前の音を、一番よく」


その個体はもう一度短く鳴いた。そして、群れの後を追って走り去った。


アルトはその場に立ったまま、しばらく動けなかった。唇の血が乾き、膝の震えは止まらなかった。でも、胸の奥に何かが灯った。自分と同じ「落ちこぼれ」が、あの三万の中にいた。


連れて帰りたかった。


その願いが叶わないことを、アルトは知っていた。あの子は群れの中に帰る。それでいい。それでいいのだ。


笛を降ろしたとき、視界の端が暗くなっていた——酸素が足りていない。リヴァイが何も言わずにアルトの横に立ち、肩に手を当てた。初めて触れた。その体温が、震えを少し止めた。でもアルトは気づいていた——リヴァイの手のひらも、ほんの少し震えていることに。


城塞都市の城門が開いた。守備隊の指揮官——白髪の壮年の男が、まっすぐアルトの前まで来た。それから膝をついた。鎧が音を立てた。重い音だった。その男が三十年の軍務で一度も膝をついたことがないことを、誰もが知っていた。


「……名を、聞かせてもらえるか」


「アルトです」


指揮官はもう一度頭を下げた。言葉を持っていなかった。


イグリスが丘を登ってきた。手帳を持ったまま、一言も言わずにアルトの前に立ち、外套を外して肩に掛けた。リヴァイと反対側に、老人が並んだ。


三人で、三万が山へ帰っていくのを見ていた。


---


その夜、城門の外の石段に二人で座った。


リヴァイは空を向いていた。しばらく黙っていた。アルトも黙っていた。口を開けば、何かが終わってしまう気がした。


それからリヴァイはゆっくり、自分のドレスの裾を指先で押さえながら言った。その指は、昼間の震えを引きずっていた。


「その骨笛の骨が誰のものか、私は知っている」


アルトは動かなかった。


「三百年前に死んだ、私の弟の骨だ」


風が来た。石段の冷たさが背すじに届いた。


「名前を、フェイルと言った。人間の言葉で言えば『残響』という意味だ。彼は生まれつき弱かった。群れの中で一番小さく、一番声が小さかった。でも——聴くことは、誰よりもできた」


リヴァイの声が、途中で二度、途切れた。二度とも、彼女はその途切れを飲み込んだ。


「ある冬、彼は餌を探して人間の村へ行った。戻らなかった。探した。見つけたのは、彼が自分で掘った穴と、掘った跡だけだった。骨はなかった」


「……埋めたんじゃないですか。自分で穴を掘って」


「そうかもしれない。そうであってほしい」リヴァイが初めてアルトを見た。その目には、昼間の強さはなかった。「廃村に埋めた。標を立てたが嵐で消えた。それから三百年、どこを探しても見つからなかった」


リヴァイはそこで息を吸い、続けた。


「三百年前、私はもう一人の人間に出会った。吟遊詩人だった。彼は音を『橋』と呼んだ。音は、生きている者と生きている者を結ぶ橋だと」彼女の声が少しだけ柔らかくなった。「彼は私に言った。『あなたは橋を渡ったことがない。だから孤独なんだ』と」


「……渡ったんですか」


「渡らなかった。渡れなかった。彼は年老いて死んだ。私は見送った。そのとき初めて、橋を渡らなかったことを後悔した」


沈黙。それから、彼女はアルトを見た。


「お前は二度目の橋だ。私は今度は渡りたいと思っている」


アルトは何も言えなかった。ただ、骨笛を取り出した。温かい。いつも温かい。持っている間は、ずっと体温で温まっている。先端に、微かなひびが走っていた。三年分の往復音が、そこに刻まれていた。


「リヴァイさん」


「何だ」


「毎晩、塀の外の森から何かが応えてきたんです」アルトは骨笛を見た。「三年間、ずっと。返すと変わる、変えるとまた変わる——」


リヴァイが動かなかった。呼吸も、止まっているように見えた。


「あれは——お前の弟だったんですか」


答えなかった。


ただ、リヴァイの指先がドレスの裾をきつく握った。白い指の関節が、わずかに震えていた。彼女の喉の奥で、音にならない音が鳴っていた——昼間、三万の前で聞いたあの悲しみの形ではなかった。もっと古い。もっと深い。三百年の孤独の形だった。


アルトは笛を唇に当てた。


今まで吹いた中で一番静かな節を出した。三年間、夜ごと森へ向けて出していた、あの往復音に応える形の節を。


リヴァイの喉が低く長く応えた。


その音は——三年間、夜ごと塀の向こうから届いていた声と、同じ文法を持っていた。同じ遅れ。同じ温かさ。同じ、帰る場所を探す形。


アルトの喉の奥が、締まった。泣くわけじゃない。でも確かに、締まった。涙ではなく、何かもっと古いもの——音でしか表現できないもの——が、そこにあった。


笛を止めなかった。止めたら、この声も止まる気がした。


二つの音が夜の空気の中をしばらく続いた。始まりも終わりも分からないまま、ただ、続いた。


遠くで、イグリスが城壁の上に立っていた。彼は手帳を開いていたが、何も書いていなかった。書けなかった。この音を五線譜に閉じ込めることは、生きている鳥を檻に入れることよりも残酷に思えたから。


---


空中要塞の話が出たのは、それから間もなくのことだった。


イグリスが古文書を持ってきた。「天と地が共鳴するとき、空に礎が生まれる」という一節を示した。ページは焦げており、解読されたのはその一文だけだった。残りは焼けていて読めない。しかし、その一文だけで十分だった。


リヴァイが「曾祖母が実際に見た」と言った。彼女がそう言うとき、いつもより言葉が短かった。それは、曾祖母の記憶が彼女の中でまだ生きた傷である証拠だった。


「やってみますか」とアルトが言った。


「根拠が感覚的すぎる」とイグリスが言った。


「音なので」


老人が何か言いかけて、止めた。手帳を出した。筆ではなく、錫杖の先で地面に五線譜を描いた。土の上に描かれたそれは、風が吹けば消える。しかしイグリスは構わなかった。むしろ、消えるからこそ描くのだと、その手つきが語っていた。


リヴァイがアルトの横に来た。朝の空気は冷たいのに、その体温が腕のそばに来るだけで少し温かかった。


「笛吹き。空中要塞が完成したとき、その主はお前だ」


アルトは骨笛の先端を見た。ひびが、昨日より深く刻まれていた。奏でるたびに、骨は脆くなる。弟の残響は、もう長くない。


渡すなと言われたのは、守るためではない。


渡せないからだ。


この笛が鳴り続ける限り、この音はアルトのものになる。そしてアルトが鳴り続ける限り、この声は消えない。リヴァイは最初からそれを知っていた。だから「渡すな」と言ったのだ。誰にも渡せなくなることを、知っていたから。


「……分かりました」アルトは深く息を吸った。「主ではなく、調律役と呼ばせてください。あなたが決めたなら、そうなると思ったので」


リヴァイの瞳が、わずかに揺れた。そして——彼女は初めて、ほんの少しだけ口元を緩めた。笑顔ではなかった。でも、それに近い何かだった。千二百年の重みが、一瞬だけ軽くなったような。


「……いい。そう呼べ」


---


建設が始まった。


アルトは最初の一音を出した。


リヴァイの喉が応え、丘の向こうで群れが翼を広げた。四千の古竜たちが、それぞれの位置につく。イグリスが手帳を開き、筆を走らせた。彼の手はもう震えていなかった。六十年の迷いが、ようやく解けた者の手つきだった。


音は空へ昇った。


冷たい大気が震え、微細な結晶が浮かび上がった。空気中の水分が、特定の周波数に応じて結晶化する——アルトにはそれが見えた。音の節に合わせて、無数の小さな光が生まれる。


古竜たちが輪になり、翼の振動で結晶を編んだ。翼の一本一本が、ある音を奏でていた。それぞれが違う音。しかし全体として、一つの和音を形作っている。


アルトは自分の基準音とリヴァイの共鳴の間に生まれる微かな「うなり」を聴いた。二つの音が完全に一致するまで、息の強さを調整する。それが調律だった。


柱へ、床へ、穹窿へ。


音が続く限り、空は答えた。


一日目。基礎ができた。アルトの唇は既に割れていた。


二日目。壁が立ち上がった。アルトの指の皮が剥けた。


三日目。塔が生まれた。骨笛のひびが、先端から中央へ広がった。


七日目。アルトは寝ていなかった。リヴァイも寝ていなかった。イグリスは七十歳を超えているというのに、一睡もせずに記録を続けていた。彼の手帳はもう五冊目だった。


その夜、リヴァイが初めて「疲れたか」と聞いた。アルトは答えられなかった。答えれば、疲れが自分を支配する気がしたから。


十日目。リヴァイが言った。「笛吹き。その笛が割れたら、お前はどうする」


アルトは答えられなかった。答えを出すことが、その時を早める気がしたから。


十五日目。アルトの血が笛の穴を何度も塞ぎ、そのたびに舌で押しのけた。骨笛の表面には、乾いた血の層ができていた。それでも音は変わらなかった——いや、変わった。血の層が倍音を増やし、より深い響きを加えていた。


二十日目。


笛が完全に軋んだ瞬間、アルトは息を止めた。


骨の筒が指から滑り落ちる。


石畳に当たって割れる音がした——それは、ある音型の最後の一拍のように聞こえた。弟の、最後の挨拶のように。


代わりにアルトの胸郭が震えた。横隔膜が引き上がり、肺の空気が直接、音になった。


学院で否定された「基準音の欠如」が、今、世界を測る物差しになった。


笛なしで、アルトは歌った。歌というより——自分の体を笛に変えた。肋骨が共鳴し、喉頭が節を作り、舌が音を削った。


空中に翡翠色の影が落ちた。柱は震え、床は鳴り、穹窿は呼吸した。要塞は完成していなかった。ただ、奏で続けられていた。そしてその音の中心に、アルトが立っていた。


イグリスが呟いた。「地脈の干渉を受けない。どの国の領土でもない。音だけが法となる場所——それを空中要塞と呼ぶのだ」


アルトは答えず、ただ歌い続けた。


リヴァイが言った。「お前はここで調律を続ける。群れは戻り、人は聴く。それが主の役割だ」


アルトは頷いた。目をつぶり、呼吸を整えた。六拍の揺らぎが、安定した基準音へ落ちつく。


要塞全体が、かすかに鳴った。


---


それから三年が経った。


空中要塞はまだ完成していない。おそらく、永遠に完成しない。完成とは、音が止まることだから。でもそれは誰も問題にしなかった。要塞は空中に浮かび、群れはその周囲を飛び、時折、人間の交易船が訪れる。


イグリスは毎日のように手帳を開いている。五線譜はもう四十冊を超えた。彼は最近、弟子を取った。二人の若者に、五線譜の書き方を教えている。「理論ではない」と彼は言う。「音をそのまま残す方法だ」と。


リヴァイは変わらず城門の外の石段に座っている。ただ、今は空中要塞の石段だ。彼女は時々、アルトの隣で眠る。竜が眠るとき、喉の奥で微かな音が鳴り続ける。守るべき者の存在を確認するための、無意識の音だ。


アルトは毎朝、笛を吹く。笛はもうない。でも彼の両手は、いまだに骨笛の形を覚えている。指をその形に組んで息を吹き込むと——空気が震え、かつて笛がいた場所に、音が生まれる。


骨の欠片は、アルトの首から下げている。割れた笛を、革紐で繋いで。冷たい。けれど、肌に当てているとすぐに温まる。


晴れた夜、空中要塞の上から二つの音が来る。アルトの歌と、リヴァイの喉の共鳴。始まりも終わりも分からないまま、ただ続いている。


時折、それに応える第三の声がある。低く、かすかで、最後の一拍がいつも少しだけ遅れる。遠くの山の頂から、あるいは森の奥から。その声が聞こえるたびに、アルトの首元で骨笛の欠片が微かに震える。冷たいはずのそれが、ほんの一瞬だけ温まる。


そして、もう一つ別の場所から——


遠い丘の下、学院の窓から一人の若者が空を見上げている。彼は落ちこぼれと呼ばれている。教師は彼を当てない。でも彼には聞こえている——空から届く、六拍のリズムが。


彼はそっと、自分の木笛を唇に当てた。


その音は——アルトが最初に森へ向けて吹いたあの夜の音と、同じ周波数を持っていた。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

この物語が、少しでも皆さまの心に残り、何か小さな余韻をお届けできていましたら、これほど嬉しいことはありません。


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