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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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隠された傷

 僕は必死だった。ミコッチの吐息混じりの艶めかしい声、そして頬を朱に染めてとろけるような彼女の表情。僕は欲望が暴れ出しそうになるのを、聖者のような精神力で抑え込み、ただひたすらに彼女の疲れを癒やすことに専念した。しかし、僕は忘れていた。この光景を、僕をスケベ椅子と断定して疑わない府領がどんな顔で眺めているかを。


 今の状況は、客観的に見れば椅子が女の子を悦ばせているという、これ以上ないほど破廉恥な絵面である。僕の予想は、最悪の形で的中していた。府領の真っ白で美しい肌は、怒りと羞恥で真っ赤に硬直しており、その双眸は僕を千切り捨てんばかりに鋭く光っている。僕は正しいことをしている。彼女に報いる義務がある。その正義感を貫こうとしたのが、運命の分かれ道だった。


 ミコッチの口元から、快感に耐えかねたような一筋の雫が零れ落ちた瞬間、府領の堪忍袋の緒が切れた。


「ミコッチから離れろ、このスケベ椅子!」


 激しい罵声と共に、僕はミコッチから引き離され、力任せに蹴り飛ばされた。『ガツンッ!』 と再び壁に激突した。だが、それだけでは終わらない。府領はじわりじわりと、まるで獲物を追い詰める死神のような足取りで僕に近づくと、その細い腕で僕を軽々と担ぎ上げた。ここは校舎の4階。この高さから地面に叩きつけられれば、椅子としての僕の身体は粉々に砕け散るだろう。それは僕にとっての死を意味していた。


「しょ~ちゃん、やめるっす! 椅子さんは、僕の酷い疲労を癒やしてくれただけなんっす!」


 ミコッチは必死に叫ぶ。その声に府領の動きが一瞬だけ止まった。


「でもミコッチ、あんな変な声あげて……。あんた、完全にこのスケベ椅子に騙されてるわよ!」

「本当っす! 僕を信じてほしいっす! しょ~ちゃんも、一度座ってみればわかるっす!」


 ミコッチは必死だった。その姿に府領はようやく僕を窓の外へ放り投げるのを踏みとどまった。


「……ミコッチのことは信じてるわよ。でも、このスケベ椅子だけは信用できない」


 苦虫を噛み潰したような顔で僕を床に下ろす府領。彼女は短いスカートを必死に押さえ、僕にパンツを見られないように警戒しながら、じっと僕を睨みつける。座って確かめなければミコッチを否定することになる。だがこのスケベ椅子に身を預けるのは死ぬほど抵抗があるようだ。


 葛藤の末、彼女は冷たく言い放った。


「ちょっと待ってなさいよ、ミコッチ」


 府領は一度部室を飛び出し、五分もしないうちに戻ってきた。その手に握られていたのは、1個のクッションだった。


「これで完璧よ」

 

 僕は悟った。彼女は僕という存在に対して完璧な対応策を練ってきたのだ。座面にクッションを敷くことで、僕へのお尻の感触を遮断し、僕の視界を物理的に塞いで白い太ももも見せない。直感的に、彼女は僕に対する防御を完璧に固めてきたのである。


 僕は府領の完璧な防御策にショックを受けた。クッション1枚隔てただけで、僕のスケベ心は完璧に遮断された。だが、今は落ち込んでいる暇はない。彼女に僕の有意義性を証明し、この4階から投げ捨てられる運命を回避しなければならないのだ。府領がクッション越しに、恐る恐る僕の上に腰を下ろした。


「……ふん。ただの椅子じゃない」


 彼女は勝ち誇ったように笑うが、僕は即座にボディ・スキャンを開始した。


 【ボディ・スキャン結果】 府領 翔子


 総合疲労度:92%(限界突破・超危険域)

 全身の打撲痕:背部および大腿部に棒状の鈍器による複数の皮下出血。炎症による熱感あり。

 腰部・背部: 激しい戦闘行動(あるいは逃走)による、筋繊維の微細な断裂と強度の強張り。

 自律神経: 常に周囲を警戒しているため、交感神経が異常に昂り、休止状態に入れない。


 【 改善提案 】

 身体は悲鳴を上げています。ビリビリショック(中)により患部の痛みを遮断し、鎮痛を促すと同時に、ファントムハンズ(弱)により、緊張した筋肉を徹底的に解きほぐす必要があります。


 僕はボディ・スキャンの結果に言葉を失った。見える場所は透き通るような白い肌。しかし、服の下に隠されたその身体には、無数のあざが刻まれていたのだ。それは転んでできたようなものではない。明らかに棒状の何かで執拗に殴打された、凄惨な暴力の痕跡だった。僕は、彼女がこれまでどんな地獄のような日々を過ごしていたのかを察し、背もたれが震えるほどの衝撃を受けた。


「……どうしたのよ。何も感じないわよ。やっぱりただの椅子じゃない」


 府領は毒づくが、その声はどこか震えているようにも聞こえた。彼女は、この痛みと疲労を誰にも悟られないよう、不良という鎧を着て虚勢を張っているのだろうか。僕は決意した。スケベ心なんて、今の僕には1ミリもない。この傷だらけの少女を、僕の機能をもって少しでも癒してあげたい。僕は静かにビリビリショック(中)を選択した。


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