スケベ椅子
ヤンキー少女、府領 翔子の蔑むような言葉に、僕はかつてない愉悦を感じていた。その時、再び部室の扉が勢いよく開く。
「椅子さん、ただいまっす! ……あ、しょ~ちゃん。今日は来てくれたんっすね」
戻ってきたのはミコッチだった。府領はミコッチのクラスメートで、この心霊同好会の幽霊部員らしい。正式な同好会として認められるには最低5人の部員が必要だが、ミコッチ以外の部員は、文字通り名前を貸しているだけの幽霊部員というわけだ。
「たまには顔を出さないと困るでしょ。……それよりミコッチ、なんなのこの椅子。なんか、異様にキモくない?」
僕をゴミ溜めのナメクジを見るような目で睨みつける府領。その冷たい視線が、椅子となった僕の芯に突き刺さり、たまらない快感となって駆け抜ける。
「さすがしょ~ちゃんっす! わかるんっすね。この椅子が噂の呪いの椅子っす」
「ふーん、やっぱり。どうりでキモいわけね」
「あ! それとしょ~ちゃん、その位置は危険っす。椅子さんは前世が人間だった転生椅子っす。普通の椅子と違って人間のように目があり、しょ~ちゃんのパンツを除いて見ることができるっす」
ミコッチは誰もが信じられないようなことを平然と説明した。府領はミコッチの説明を疑いなくすんなりと受け入れる。 ミコッチの並外れた霊能力を、彼女は心から信頼し、理解しているからだ。だからこそ府領は顔が瞬時に怒りで赤く染まった。
「このスケベ椅子が!」
『ドゴォッ!』と、さっきよりも数段重い衝撃が僕を襲った。渾身の力で蹴り飛ばされた僕は、床を滑り、そのまま壁へと激しく激突した。だが、僕は見た。壁に叩きつけられる刹那、宙を舞う僕の視界には、再び彼女の純白の物体が鮮やかに焼き付いていた。死ぬ間際に走馬灯を見るというが、僕が見ているのは間違いなく、現世の絶景だ。
「しょ~ちゃん! やりすぎっす!」
「うるさい! この椅子、私が蹴り飛ばした時にも私のパンツ見てたわよ! こんなキモい椅子、今すぐ処分すべきよ!」
「ダメっす! 僕はその椅子くんを助けるために、ここへ持ってきたんっすから。……それに、僕だって椅子くんにパンツを見られたっす!」
ミコッチのさらなる爆弾発言に、翔子の怒りはついに沸点を超えた。
「ミコッチ、 このスケベ椅子は今すぐ粉々に壊すべきよ!」
僕を本気で窓から投げ捨てそうな勢いの府領を、ミコッチが必死に力づくで抑え込んでいた。
「離してミコッチ! このスケベ椅子は女の敵よ!」
府領は腕を振り回して怒鳴り散らす。その剣幕にミコッチは必死の形相でしがみついた。
「しょ〜ちゃん、落ち着くっす!」
「止めないでよミコッチ、椅子に転生してまで女のパンツを覗こうとするスケベ野郎なんて、絶対に許しちゃダメよ!」
府領の言い分はぐうの音も出ないほど正論だった。そうだ、僕は女の敵……いや、違う! 僕の本来の能力は、みんなをマッサージで癒やしてあげることだ。その過程で、ほんの、ほんの少しばかり下心があったとしても、九十九神も許容範囲だと言ってくれるだろう。必死に心の中で弁解する僕に、ミコッチが真剣な目で府領に訴えた。
「それに、しょ〜ちゃん……椅子さんは、あの鳳にいじめられていたっす……」
その名前が出た瞬間、府領の顔色が劇的に変わった。鋭かった目つきがわずかに揺れ、彼女は毒気を抜かれたように小さく呟いた。
「 あいつに……」
沈黙が部室を支配する。翔子は複雑な表情で僕を見つめ直すと、やがてフンと鼻を鳴らして、怒りの矛先を収めた。
「……そうなのね。それなら、まあ……少しくらいパンツ見せてあげてもいいわよ」
そう言い終えるやいなや、彼女はその場で軽やかにくるりと1回転した。短いスカートが鮮やかに舞い上がり、眩い金髪とともに、例の白い物体が僕の視界を埋め尽くした。




