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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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名案

 「さて、どうやってバレずに椅子さんをこの空き教室から脱獄させるかっすかね……」


 ミコッチは僕の座面をじっと見つめ、眉間にシワを寄せて考え込んだ。その不気味なほど大きく、深い地獄の火を灯したような深紅の瞳が、怪しくキラリと輝く。何か閃きでもあったのだろうか。


 「名案が思い付いたっす!おっと、 その前に、まずは動画を止めるっす」


 ミコッチは教室に設置していた三脚とカメラを手際よくリュックにしまい込んだ。そして、宝くじに外れたような、なんとも残念そうな顔で呟いた。


 「今回の動画はボツっすね」


 彼女のメインコンテンツは、心霊スポットに赴き、幽霊と対話することだ。しかし、そのほとんどはデマであり、ただスポットを巡るだけの動画で終わることが多い。稀に本物の幽霊と遭遇することもあるが、霊体はカメラには決して映らず、録音されるのはミコッチが虚空に向かって話しかける声だけ。視聴者からは独り言が痛いヤラセ動画だと揶揄され、登録者が伸び悩む原因にもなっていた。けれど、僕は知っている。彼女の霊力は、間違いなく本物だ。今回の動画も、再生すればミコッチが椅子に話しかけるだけの奇妙な映像にしかならないだろう。人間が椅子に転生したという前代未聞のスクープも、証拠となる僕の声が入っていない以上、誰も信じるはずがない。


 ……いや、彼女が動画をボツにしたのは、自分の実績のためじゃない。この内容が世に出れば、僕は好奇の目にさらされ、研究対象として解体されるかもしれない。僕という存在を守るために、彼女はあえてお蔵入りという選択をしたのだ。僕は鋼鉄のフレームを震わせる思いで感謝した。


『ミコッチ……僕のために、せっかくのスクープ動画をボツにしてくれてありがとう』

「……勘違いしないでほしいっす。これは歴史的大スクープっすよ。でも……動画に僕のパンツがバッチリ映り込んでたからボツにしただけっす!」


 ミコッチは顔を真っ赤にして、僕の背もたれをペシッと叩いた。感動を返してほしい。理由がひどく現実的だ。いや、現代の編集技術ならモザイク処理なりカットなり、いくらでもやりようはあるはずなのだが……。もしかすると、これは僕に気を使わせないための優しい嘘だったのだろう。僕はこれ以上の追及はしないことにした。


「お片付け完了っす。次は椅子さんの番っすね。えーと……あ、あの椅子がちょうどいいっす」


 ミコッチが提示した名案は、拍子抜けするほどシンプルで、それゆえに大胆なものだった。この空き教室には、使われなくなったガラクタ同然の机や椅子が無造作に積まれている。先生たちがこの鉄と木の山を一脚残らず把握しているはずもなかった。ミコッチは隅っこで埃を被っていた椅子の中から、僕と型が近く、それなりに見栄えの良いものを選び出した。そして、ハンカチで丁寧に埃を拭き取ると、僕が元いた場所にその身代わりを配置した。


 (なるほど……これならパッと見では、椅子が入れ替わったなんて誰も気づかない!)


 準備が整うと、ミコッチは僕の背もたれと座面に小さな手をかけ、ひょいと持ち上げた。学校の椅子は、見た目以上に運びにくい。身長148センチの彼女が持つと、椅子の脚が彼女の膝を直撃しそうになる。重さよりも、その嵩張(かさば)りが最大の敵だった。


 「……ちょっと持ちにくいっすね。でも、僕の腕力を見くびらないでほしいっす!」


 ミコッチは僕のフレームがカチャリと音を立てないよう、脇に抱え込むようにして固定した。ここからは時間との勝負だ。まもなく5時限目の終了を告げるチャイムが鳴る。そうなれば、廊下には一斉に生徒が溢れ出し、椅子を抱えて歩く彼女は目立ってしまう。スピーディーに、それでいて鋼管が壁に当たって高い音を立てないよう、慎重にミコッチは小走りで空き教室を抜け出した。さすがに椅子を抱えたまま校門を潜るのは目立ちすぎる。そこで彼女が目指したのは、校舎の北側、日当たりの悪い廊下の突き当たりにある小さな部屋だった。


 「僕、公式の部活じゃないっすけど、【心霊研究同好会】っていうのを立ち上げてるっす。ここなら、滅多に人も来ないし安全っすよ」


 『キーンコーンカーンコーン』


 非情にもチャイムが鳴り響き、遠くの教室の扉が開く音が聞こえてくる。ミコッチは滑り込むようにして、手書きの同好会のプレートが掛かった扉を蹴り開け、僕を中へと運び入れた。


 「……ふぅ。ミッション完了っす。これでひとまず、君を処分しようとする大人たちの目からは逃げ切ったっすよ」


 薄暗い部室の中で、ミコッチは少し乱れた息を整えながら、得意げに僕の座面をポンと叩いた。

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