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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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31/33

変貌

 「君は誰なんだ!」


 教頭先生は苛立ちを爆発させ、声を荒らげた。


「僕は1年3組の深冷(しんれい) 巫女(みこ)っす。登録者500人のYouTuberっす。この案件は僕が解決するので、教室の鍵を渡すっす」

「ふざけるな! これは遊びではないのだ。すぐに立ち去りなさい!」


 教頭は顔を真っ赤にして激しく机を叩いた。相手は登録者たった500人の自称YouTuber。そんな子供に首を突っ込まれ、動画で拡散でもされれば、最悪全国的なニュースになりかねない。呪いの椅子の件をこれ以上大きくしたくない教頭にとって、彼女は疫病神でしかなかった。


 しかし、教頭が机を叩いたその衝撃で、机上に置かれていた空き教室の鍵が跳ね上がった。それは重力に逆らうような軌道を描き、吸い込まれるように深冷の手元へと落ちる。


 (ありがとっす。教頭先生)


 深冷は声を出さずに心の声で感謝を伝えて、教頭が鍵の紛失に気づく前に、小走りで教頭室を後にして、空き教室へと向かった。すると空き教室へと続く廊下には赤いコーンが並べられ、【立ち入り禁止】の張り紙が物々しく踊っている。今は授業中のため、野次馬の姿はない。深冷は慣れた手つきで鍵を開け、静まり返った教室内へと足を踏み入れた。


「おかしいっす。全然悪い気が感じられないっす……」


 彼女は、霊感が極めて強い少女だった。その能力を活かし、各地の心霊スポットを巡る動画を配信しているが、最高再生回数は1000回。YouTuberと名乗るのもおこがましいほどのド底辺である。だが、彼女の感覚は本物だ。深冷は背中のリュックから手際よく三脚とカメラを取り出し、教室の隅にポツンと置かれた僕(椅子)にレンズを向けた。


「僕は心霊探偵のミコッチっす。ここはとある高校の、使われていない空き教室っす。実はここには、男子生徒を惑わす【呪われた椅子】があるっす」


 深冷はカメラに向かって淡々と解説を始める。


「この椅子が呪いの椅子っす。これから僕がこの椅子と対話をするっす」


 深冷の直感では、この椅子に禍々しい呪いなど宿っていない。噂はデマだと判断した。しかし、動画のネタが欲しい深冷は体裁を整えるため、彼女は呪いの椅子と対話を試みる。深冷には、幽霊と対話するための特殊な方法がある。


 彼女は深く、深く、空気を吸い込んだ。肺の奥まで空気が満たされると同時に、彼女は静かにまぶたを閉じる。そのまぶたの裏では何かが蠢いている。 細い血管が浮き上がり、神経が粟立つような微かな震え。そして、彼女がゆっくりと目を開けた。すると、大きな黒い瞳は、内側から溢れ出したドロリとした鮮血に飲み込まれたかのように、禍々しい深紅へと変貌していた。それは単なる赤い目ではない。網膜の奥で無数の細かい亀裂が走り、そこから暗い情念が滲み出しているような、生々しく、かつ不吉な輝き。瞳孔は獲物を狙う猛禽のように細く収縮し、ただ冷徹にこの世ならざる真理だけを捉える、底なしの穴が開いているようだった。




 僕は今、腹黒の卑劣な策略によって呪われた椅子という名の怪物に祭り上げられていた。休み時間になれば、興味本位の野次馬や、SNSの承認欲求に飢えた生徒たちが、見世物小屋を覗くように僕を眺め、スマホのシャッターを切る。施錠されているおかげで、あのおぞましい猪瀬のように直接触れられることがないのだけが、唯一の救いだった。でも、少しだけ、有名人になったような気分を味わえたのは皮肉な喜びだ。いじめられっ子だった白井の時には、決して向けられることのなかった視線が僕に集まっていた。

 

 今は授業中。あれほど騒がしかった廊下の喧騒が嘘のように消え、薄暗い教室には静寂だけが満ちている。この急な静けさは、まるで祭りの後のようで、少しだけ寂しさを感じさせた。


(僕の椅子生も、もうすぐ終わるんだろうな……)


 そのうち、腹黒が連れてくる霊媒師によって、僕は処分される。人間だった頃の僕は毎日、死にたいと願っていた。けれど、椅子になった今の僕はどうだろう。無機質な椅子に死という概念があるのかはわからない。そのせいか、終わりが近づいていることへの恐怖はなかった。そもそも、僕は一度死んでいるのだ。今ここで椅子としての幕が下りても、それは少し長い夢を見ていただけのことなのだろう。僕は、ただ静かに、終わりの時を待っていた。


 その時だった。


 ギィィ……と、重い音を立てて空き教室の扉が開いた。入ってきたのは、おかっぱ頭に、こけしのような不気味な黒い瞳を持つ小柄な女子生徒だった。


「……おかしいっす。全然悪い気が感じられないっす……」


 彼女はブツブツと独り言を呟きながら、迷いのない足取りで僕の目の前に立った。そして手際よくリュックから三脚とカメラを取り出し、教室の隅にポツンと置かれた僕にレンズを向けたのだ。


(誰だ……? 何をしてるんだ?)


 彼女はカメラに向かって「心霊探偵ミコッチ」と名乗り、僕のことを解説し始めた。どうやら僕をネタに動画を撮るつもりらしい。


「この椅子が呪いの椅子っす。僕がこの椅子と対話をするっす」


 深く深呼吸をして目を閉じた。そして、静かに目を開ける。すると深冷の大きな黒い瞳が禍々しい深紅へと変貌していた。


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