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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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不気味な少女

 しばらくすると、静まり返った空き教室に教頭先生を連れた好色が戻ってきた。教頭はある程度の事情を好色から聞いていたようだが、そこで口の立つ腹黒が再び呪われた椅子のデタラメを並べ立てた。


 「教頭先生、これは最早、教育指導の範疇を超えています。鹿島の件、そして今回の猪瀬の件……共通しているのは、彼らがこの椅子に異常な執着を見せたことです。これは呪いとしか説明がつきません」


 学校の名誉を何より重んじる教頭にとって、再発は絶対に避けたい不祥事だ。腹黒の提案は、非科学的ではあるが学校側の管理不足を不可抗力の怪奇現象へとすり替える、最も都合の良い逃げ道だった。


 「……よろしい。すぐに君の知り合いの霊媒師を呼びなさい。この椅子はその霊媒師の元で適切に処分させる。それが一番穏便だろう」


 教頭が呪いを信じたわけではない。ただ、それが事態を収束させるための正解だと理解したのだ。腹黒はさらに畳みかける。


「猪瀬については、事情聴取を試みましたが、意味不明な言動を繰り返し精神的に不安定だったため、一時帰宅させました。呪いの影響で、精神に異常をきたしたのでしょう」


 教頭は短く頷くと、「猪瀬の事後は担任である好色先生に任せる」と言い残し、逃げるように校長室へと戻っていった。教頭の姿が見えなくなると、好色は安堵の溜息をつき、腹黒に擦り寄った。


 「腹黒先生、本当にありがとう! おかげで首がつながったよ」


 対する腹黒は、冷ややかな視線を好色に向ける。


 「好色、お前は女に対して口が軽すぎるからな。この呪いの件は絶対に内密にしろよ」

 「わかってますよ!絶対に口外しませんよ。私を信じてください」


 好色はニヤニヤと笑いながら答え、その場は収まったかに見えた。だが、その絶対ほど信用できないものはない。



 翌日、学校内は異様な熱気に包まれていた。それは呪いの椅子の噂が、猛烈な勢いで全校生徒に知れ渡っていたのだ。腹黒は僕(椅子)がいる空き教室を厳重に施錠していた。しかし、それがかえって好奇心を煽る結果となる。廊下には人だかりができ、窓の隙間から中を覗き込もうとする者、スマホを掲げて僕を撮影しようとする者が続出した。


「おい、どれが呪われた椅子なんだ?」

「埃のない綺麗な椅子が呪いの椅子みたいだぜ」


 騒ぎを聞きつけた腹黒が、血相を変えて生徒たちを追い払い始める。


(……クソッ、好色の野郎、やっぱり漏らしやがったな!)


 腹黒の予想は的中していた。好色は「ここだけの秘密だぞ」と前置きして、お気に入りの女子生徒数人に鼻の下を伸ばしながら話してしまったのだ。


 「実はあの空き教室の椅子には悪霊が憑いていてね……男子生徒を惑わして、おぞましい行為に走らせるんだよ。君たちも近づいちゃダメだよ?」


 そんな刺激的な話、多感な女子高生たちが黙っているはずがない。女性の興味を引くための好色の愚行により、僕は今や学校一の有名スポットとして祭り上げられてしまったのだ。好色は、お気に入りの女子生徒たちに呪いの話を吹き込んだ際、さすがに被害者である猪瀬の名までは明かさなかった。しかし、今の高校生たちの情報網と推察力を甘く見てはいけない。猪瀬が今日欠席しているという事実。そして彼が、最初の変態事件の主役である鹿島と親友だったという背景。点と線は瞬く間に繋がった。


「呪いの椅子、ガチじゃん。猪瀬もやられたんだろ?」

「鹿島があんなことになったのも、椅子の呪いのせいだったんだ……」


 今はSNSの時代だ。スマートフォンの画面越しに、噂は真実という尾ひれをつけて一瞬で全校生徒へ拡散された。昼休みになる頃には、学校内はもはやパニックに近いお祭り騒ぎとなっていた。休み時間のたびに、興味津々の野次馬たちが施錠された空き教室の前に群がる。その異常な光景は、すぐに教頭先生の耳に届いた。


「なっ、なんだこの騒ぎは! 隠便に済ませろと言っただろう!」


 教頭は顔を真っ赤にして腹黒を怒鳴りつけたが、肝心の霊媒師は「多忙のため、伺えるのは1週間後になる」という、にべもない返答。1週間もこの騒ぎを放置すれば、教育委員会やメディアに嗅ぎつけられるのは時間の問題だ。


 教頭室で、教頭先生はハゲかけた頭を抱えて座り込んでいる時だった。


 『コン、コン』


 部屋の扉をノックする音が響いた。


 「イライラさせるな! 今はそれどころじゃないと言っただろう!」


 教頭が怒鳴りながら扉を乱暴に開けると、そこに1人の女子生徒が立っていた。おかっぱ頭の、小柄な少女だ。教頭の威圧的な態度にも、彼女は微動だにしない。それどころか、その大きな黒い瞳は、まるで光を吸い込む古いこけしのように無機質で、得体の知れない不気味さを湛えていた。


 少女は教頭の顔をじっと見上げ、抑揚のない声で言い放った。


 「呪い椅子、僕に任せるっす」


 教頭は、彼女の独特な喋り方に一瞬面食らった。


 「四の五の言わずに呪いのことは僕に任せるっす」


 少女のこけしのような瞳が妖しく光った。


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