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転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


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呪われた椅子

 腹黒の瞳が、獲物を狙う猛禽類のようにギラリと光った。彼は失神して涎を垂らす猪瀬を一瞥もせず、淡々と、しかし確信に満ちた声で話し出した。


 「このままだと、好色先生の管理責任が問われるのは確実でしょう。一度ならまだ、想像を絶する変態の突発的犯行として収まりがつきますが、二度目となれば話は別だ。これは完全に、あなたの指導不足と判断されますよ」


 好色は顔を青くして身を乗り出す。猪瀬たちは教師の前では少しやんちゃな生徒を演じていたが、裏では2年生の不良を束ねる問題児。好色も腹黒も、自分たちの利益のために彼らの悪事をもみ消し続けてきたが、それももう限界に達していた。


 「教えてください、腹黒先生……。どうすれば私は助かるんですか!」

 「簡単なことです。すべて、この椅子に責任をなすりつけるのですよ」


 好色はポカンと口を開け、腹黒の言葉が理解できずに固まった。


 「椅子のせい……? 意味がわかりません。椅子が何かをしたとでも?」


 腹黒は滑稽なものを見るような笑みを浮かべて続けた。


 「この椅子は呪われているのです。鹿島も、猪瀬も、この呪われた椅子の虜になり、精神を狂わされてあのような凶行に及んだ……。そう筋書きを書くのです」


 (……こいつ、とんでもないことを言い出したな)


 僕は椅子の中で戦慄した。腹黒の言っていることは、ある意味では芯を食っている。僕はただの椅子ではないし、九十九神の力を宿した異能の存在だ。しかし、腹黒の意図は真実の追求ではなく、明確な悪巧みだった。


「この椅子は呪物であり、我々凡庸な教師の手には負えない存在だった。そう世間に思わせれば、あなたの管理責任は霧散します。だって、いっぱしの教師が呪いに対処できるわけがないですからね。生徒たちも被害者になり、あなたは不可抗力の不運な教師……。完璧だと思いませんか?」

「……ですが、そんな話、信じてもらえるでしょうか?」


 好色は難色を示した。科学の時代に呪いの椅子などと言い張っても、単なる責任逃れだと一蹴されるのがオチだ。


「大丈夫ですよ。私には知り合いの霊媒師がいます。もちろん、金でどうにでもなる、金欲にまみれた男です。彼にこの椅子には強力な悪霊が憑いていると一筆書かせ、仰々しくお祓いの儀式をさせて処分すれば良い」


 腹黒の冷徹な計画に、好色の顔にようやく安堵の色が広がった。


「……霊媒師が加担してくれるのなら、話は別だ。椅子に罪を着せて、私はお咎めなし……。流石ですね、腹黒先生!」


 2人の腐った大笑いが、静かな空き教室に響き渡る。



 2人の密談を特等席で聞かされていた僕は、全身が凍りつくような恐怖を覚えた。このままでは、僕は呪いの椅子として、忌むべき物品として処分されてしまう。それは椅子にとって、完全な死を意味する。僕はまだ、椅子生を何1つ満喫しきっていない。


(処分されるなんて、まっぴらごめんだ!でも僕には何もできない)


 椅子である僕には言葉で弁明する術はない。さらに厄介なのは、九十九神から授かったばかりの悪魔の機能だ。もし今ここで奴らを攻撃すれば、それこそこの椅子は人を襲う呪物だという彼らの嘘に、真実味を持たせる結果になってしまう。


 僕が深い絶望に沈んでいる頃、好色は薄気味悪い笑みを浮かべて、証拠隠滅の準備のために職員室へと戻っていった。教室に残された腹黒は、無造作に足を上げると、失神している猪瀬を力任せに蹴り飛ばした。


「……痛えな、糞! 何しやがる!」


 猪瀬は飛び起き、威勢の良い声を上げた。しかし、次の瞬間に自分の全裸の姿と、見下ろしてくる腹黒の冷酷な目線に気づき、顔面を蒼白にさせた。腹黒はニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべ、震える猪瀬に語りかける。


「いいか、猪瀬。お前はこの椅子に呪われて、無意識のうちにこんな破廉恥な行為に及んだことにしろ。その方が、お前にとっても都合が良いだろう?」


 猪瀬は屈辱に顔を歪め、腹黒を鋭く睨みつけた。だが、今の自分に反論の余地がないことは理解している。


「……わかったよ」


 絞り出すような猪瀬の返事に、腹黒はさらに追い打ちをかける。


「あ、それとお前。今日中に『自主退学』しろ。お前みたいなゴミが学校にいたら、俺の経歴に泥がつくんだよ」


 猪瀬の拳が、みしりと音を立てて握りしめられた。その怒りは、椅子である僕ですら感じ取れるほど強烈なものだった。


「ふざけるな……! 誰がそんな——」

「好色先生がな、お前のその醜態をしっかり動画で撮影済みだ。これ以上言わなくてもわかるよな?」


 腹黒の言葉に、猪瀬の拳から力が抜けた。映像という逃れられない証拠を握られている以上、彼に抗う術はない。かつてクラスを牛耳っていた陽キャグループの威厳は、無惨にも打ち砕かれた。


「早く服を着ろ。そして2度と、この学校の敷地を跨ぐなよ」


 猪瀬は這いつくばるようにして服を着ると、逃げるように教室を後にした。その背中には、もうかつての傲慢な影はどこにもなかった。 残されたのは、不敵に笑う腹黒と、孤独な椅子である僕だけだ。


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