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転生したら椅子だった!?  作者: にんじん


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22/26

相打ち

 夜の教室。月明かりだけが頼りの中、鹿島は蛇のようなぎょろりとした目で僕(椅子)を見下ろしていた。その顔には煌煌とした、粘つくような笑みが張り付いている。奴は喉を鳴らして唾をごくりと飲み込むと、狂気を孕んだ目で舌を突き出し、ベロベロと僕の座面を舐め始めた。


(う、うわぁあああっ……! 気持ち悪い、やめろ!!)


 僕の全身に凄まじい悪寒が走り、座面の奥底から吐き気がこみ上げてくる。雨野さんや大空さんが座ってくれた時のあの神聖な温もりとは対極にある、おぞましい感触。前回は、なすがままだった。僕はただの椅子として、この変態行為を受け入れることしかできなかった。でも、今の僕は違う。九十九神から、この身を守り、大切な人を守るためのスキルを授かったのだ。確かに、心地よい椅子に進化したのは、鹿島のこの変態行為だったかもしれない。だが、それは偶然の産物に過ぎない。こんな奴に感謝する必要なんて、微塵もない!


( 雨野さんの神聖な椅子を汚した報いを受けろ!)


 僕は怒りに震えながら、すぐにコマンドを開いた。選択したのは【ビリビリショック(強)】だ。いきなり(最強)を選ばなかったのは、僕の優しさではない。この男にどれほどの刺激が有効なのか、様子を確かめる実験的な意味合いに過ぎなかった。悪臭を放ちながら雨野さんの椅子を汚し続ける鹿島の舌。その湿った肉塊に向けて、僕は容赦なく電流を叩き込んだ。


 『バヂヂヂヂッ!!』


「ぶべっ!?!?!?」


 電流が直撃した瞬間、鹿島はカエルのように奇声を上げて飛び跳ねた。そのまま床に無様に這いつくばり、ビクビクと痙攣を始める。


(……やりすぎたか?)


 さすがに人体、しかも舌への(強)の刺激は危険だったかもしれないと、一瞬だけ心配がよぎった。だが、僕の心配は完全に杞憂に終わった。ゆっくりと顔を上げた鹿島。その表情は、電流の痛みによる苦悶ではなかったのだ。月明かりに照らされたその顔は、逆に天国を見たかのような恍惚とした喜びに歪み、口端からはダラダラと(よだれ)が垂れていた。


「……な、なんだこの刺激は……。ちょ~~~~気持ちええぇぇ」


 鹿島のうっとりとした声が、静寂な教室に響く。こいつにとって、電流の痺れは痛みではなく、極上の快感だったようだ。鹿島はぴょんと跳ねて起き上がると、ぎょろりとした目玉をさらに血走らせ、食い入るように再び椅子(僕)を凝視した。まさか、痛めつけるつもりが逆効果になるとは。とんだ誤算だった。僕は罰を与えたつもりで、この変態大王に最高のご褒美を与えてしまったのだ。


「今の刺激はなんだったんだ……?」


 鹿島は這いつくばったまま、ぶつぶつと独り言を漏らす。さっぱり意味がわかっていないようだが、その濁った瞳には異常な期待が宿っていた。


「……わからねえ。だが、あの刺激を、もっと味わいたいな」


 鹿島は再び、汚らしい舌を伸ばして椅子(僕)を舐めようとした。僕はすぐに、コマンドから【ビリビリショック(最強)】を選択した。これなら、さすがの変態大王も電流の痛みで2度と立ち上がれないほどの苦痛を味わうだろう。そう信じて。


 『バチィィィィィィィィィッ!!!』


 教室の暗闇を真っ白に染めるほどの火花が散った。鹿島は先ほど以上に高く、カエルのように奇声を上げて宙を舞い、床に無様に叩きつけられた。全身が激しくビクビクと痙攣し、煙すら上がっている。


(……これで、終わりだろ)


 勝利を確信した。しかし、ゆっくりと顔を上げた鹿島は、これまでで最も恍惚とした、地獄のような笑みを浮かべていた。口端からはダラダラと涎を垂れ流し、うわ言のように呟く。


「……さっきよりも刺激が強くて……最高だぜ。ひひっ、ひひひっ! 今度は、コイツも直接刺激してもらおう……」


 鹿島は立ち上がると、狂った手つきでベルトを外し、ズボンを脱ぎ、パンツまでも剥ぎ取った。月光に照らされた、見るに堪えない醜態。そして奴は、全裸の下半身を僕の顔(座面)へと押し付けようと座り込んできたのだ。


(やめろ! 来るなぁ~~~~~)


 僕は逃げられない。電流を流せば、鹿島はまた喜んでしまう。だが、このまま奴に座られるなんて、絶対に、死んでも嫌だ!


(……使いたくない。でも、この変態を撃退するには、もうこれしかない……!)


 僕は絶望的な決意とともに、【ファントムハンズ(最強)】を選択した。これは文字通りの諸刃の剣だ。椅子から伸びた透明な2つの手が、座ろうとする鹿島の股間、その黄金ボールを一点の迷いもなく、最強の力で握りしめた。


「ぎぃ、やあああああああああああああああっ!!?!?」


 教室の窓ガラスが震えるほどの断末魔。いかなる快感も痛みへと変換される、急所へのダイレクト・アタック。鹿島は白目を剥き、股間を押さえながらその場に沈み込んだ。そのままピクリとも動かなくなり、意識を失う。一方、僕も見えない手を通じて伝わってきた、鹿島のヌルリとした最悪な肉体の感触。そして、それを全力で握り潰したというおぞましい実感が脳を駆け巡る。

 

(気持ち悪い……っ! 汚い……!)


 あまりの精神的苦痛に、僕の意識も急激に遠のいていった。静まり返った深夜の教室。全裸で気絶した鹿島と、魂が抜け落ちたように沈黙する椅子だけが、月の光に照らされていた。


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