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転生したら椅子だった!?  作者: にんじん


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悪夢の再来

 大空さんは満足げな表情で自分の席に戻っていった。代わって座った雨野さんは、誰にも聞こえないような小さな、けれど心が洗われるほど美しい声で呟いた。


「椅子ちゃん、ありがとう」


 ふわりと、春の陽だまりのような微笑みを僕に向ける。


(……こちらこそ、ありがとう、雨野さん!)


 僕は叫びたい気持ちだったが、声は届かない。それでも、彼女の体温が座面を通じて伝わってくるだけで、僕の心は幸福感で満たされた。


 雨野さんはすぐに凛とした表情に戻り、3時限目の授業が始まった。僕は本来の椅子の役目に徹しながら、彼女の集中を妨げないよう静かに時を待つ。そしてチャイムが鳴ると同時に、僕は次のステップへ進んだ。彼女の足首・ふくらはぎの重度の張りを解消するため、【ファントムハンズ(中)】を起動し、下半身の入念なマッサージに従事した。


 それからというもの、僕と雨野さん、そして大空さんの3人だけの秘密のマッサージルーティンが確立された。休み時間のたびに2人が入れ替わり、僕は持てるスキルの全てを注ぎ込んで彼女たちを癒やし続けた。そして、二週間が経過した。僕の献身的な治療の効果はてきめんだった。2人の表情は以前よりもさらに明るくなり、肌のツヤも良くなって、2人の美貌はさらにレベルアップした。


 僕は2人の状態を把握するためにボディ・スキャンを実行した。



 【ボディ・スキャン結果】雨野  雫様


 総合疲労度 32%(良好・大幅改善)

 首・肩周り  筋肉の強張りはほぼ解消。柔軟性が戻っている。

 腰部 血行不良が改善され、慢性的な重だるさが消失。

 ふくらはぎ 乳酸の蓄積はなく、むくみも完全に解消。

 継続マッサージ提案 肉体的な危機は脱しました。今後は【ファントムハンズ(弱)】によるリラクゼーションと、【バイブレーション(弱)】による集中力維持のメンテナスモードへの移行を推奨します。



 【ボディ・スキャン結果】大空 光


 総合疲労度:25%(極めて良好・充実)

 下半身コンディション  瞬発力が向上。筋肉の柔軟性が理想的な状態。

 脊柱周り 神経の緊張が解け、睡眠の質が向上していると推測される。

 足首・ふくらはぎ 重度の張りは消失。

 継続マッサージ提案 激しい運動後は【ビリビリショック(中)】による素早い疲労回復と、筋肉の質を保つための【バイブレーション(弱)】による深部刺激の継続を推奨します。



(よし……! 2人とも、あんなにボロボロだったのが嘘みたいだ)


 スキャン結果を見て、僕は椅子としての深い充足感を覚えた。しかし、これで終わりではない。全国大会を目指すテニス部の練習、責任の重い生徒会活動、そして学年トップを維持するための猛勉強を続けている。日々、新しい疲れは蓄積されていくのだ。


(雨野さん、大空さん。僕が陰ながらサポートをしてあげるよ)


 僕は気を引き締め直した。


 2人のケアに全力を注ぎ、幸せな2週間が過ぎた。しかし、あの悪夢はまたやって来た。放課後。日が暮れて誰も居ない、静まり返った教室。遠くの廊下から、コツ……コツ……と微かな足音が聞こえてきた。足音は次第に大きくなり、この教室の前でピタリと止まる。


(見回りの用務員さんだろうか……?)


 いや、違う。この粘つくような空気、背筋が凍るような不快感。僕は2週間前のあの悪夢の再来だとすぐに理解した。ガラリ、と扉が静かに、ゆっくりと開かれる。けれど、それは見回りのような堂々とした所作ではなかった。音を立てないよう細心の注意を払い、闇に紛れるようにこっそりと忍び込んでくる。その怪しい人物は、暗闇に慣れた足取りで迷うことなく一直線に目的の場所へと向かってくる。もちろん、向かう先は、雨野さんの席だ。


 月明かりに照らされたその怪しい人物の正体は、もちろん鹿島だ。僕だけが知っている鹿島の真の姿、歪んだ欲望の変態大魔王だ。2週間前にも僕の体(椅子)を執拗に汚そうとしたあの男が、再び雨野さんの椅子を汚しに来たのだ。


(……鹿島、またお前か。また来ると思っていたぞ)


 鹿島は薄気味悪い笑みを浮かべ、雨野さんの椅子に顔を近づけた。



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