天使と堕天使
大空さんが心配そうに雨野さんへ問いかける。
「その椅子、今までもそんなマッサージみたいなことしてくれたの?」
「いいえ、今日が初めてなの」
「そうかぁ……。まぁ、考えても結論なんて出るわけないよね。変な椅子じゃないか、しばらく様子を見ましょ」
「そうね。もし本当に変な椅子だったら、先生に報告するわ」
「うん、それまでは2人の秘密にしときましょ!」
話し合いの結果、僕の特殊機能は2人だけの機密事項となった。
続々と生徒たちが登校し、チャイムが鳴る。大空さんは自分の席に戻り、雨野さんは少し不安を覗かせながらも、いつものように凛とした姿勢で僕の上に座った。
(……雨野さん。君の疲れ、僕が全部消してあげたい。でも、授業中に君の邪魔をするようなことをするのは無粋だよね)
僕ははやる気持ちを抑え、1限目が終わるのをじっと待つことにした。
1限目の授業が終了するなり、大空さんが駆け寄ってきた。
「しずくちゃん、なにか変化はあった?」
「……いいえ、何もなかったわ」
雨野さんは姿勢を崩さず答える。よし、今だ。僕は彼女の腰部の重度な血行不良を改善するため、【ビリビリショック(中)】を選択した。僕の座面から見えない電流が走り、雨野さんの腰を鋭く、かつ心地よく刺激する。
「うっ……!?」
雨野さんの身体が小さくピクピクと震え出す。しかし、今回はあの艶めかしい声は漏れない。彼女はいつ刺激が来てもいいように、心の準備を整えていたのだ。声は出さない。けれど、顔を見れば一目瞭然だ。唇を噛み締め、顔を少しだけくしゃっとさせて、押し寄せる快感を必死にこらえる苦悶の表情。その、どこか背徳的で美しい顔は、まさに天使のほほえみだった。
「しずくちゃん、大丈夫!?」
異変を察知した大空さんが、周囲から雨野さんの顔を隠すように、机の前に立ちはだかった。
「……ん……ふぅ……。う、うん……大丈夫……」
可愛らしい声で答えるのが精一杯の雨野さん。大空さんが壁になってくれたおかげで、その天使のほほえみを特等席で見ているのは僕だけだ。この独占感に、僕の意識はこれまでにない高揚感を覚える。
(まだだ、まだマッサージは終わってないよ!)
ピクピクと痙攣しながら、快感に耐え続ける雨野さん。僕はその姿に絶頂の笑みを浮かべながら、5分間じっくりとビリビリショックを続けた。マッサージを停止すると、雨野さんはようやく強烈な刺激から解放され、深く息を吐いた。
「……光。つぎは、電流が腰に来たわ」
「今度は電流!? で、どうだったの?」
「……とても心地よかったわ。あんなに重かった腰の疲労が、嘘みたいに取れてる……」
ビリビリショックの効果はてきめんだった。
「やっぱり、この椅子は悪い椅子じゃないわ! 私も部活で全身ガタガタだから、座ってみたい!」
大空さんは、キラキラとした極上の笑みを浮かべて僕を見た。美少女にそんな目で見られて、僕は椅子ながらにして赤面しそうだ。
「……次の休み時間に、座ってみるといいわ」
「やったぁ! 楽しみにしてるね!」
大空さんは満面の笑みで自分の席へ戻っていった。
2限目の授業が終わり、チャイムが鳴ると同時だった。 大空さんが、豊かな胸をプルンプルンと弾ませながら僕の元へやってきた。
「次は私の番ね!」
彼女はテニス部で鍛え上げた、大きなお尻を僕の座面に力強く押し当てた。正直、椅子としてその柔らかくも弾力のある感触をじっくり堪能したい気持ちもあったが、今の僕には彼女の期待に応えるという使命がある。
僕は、先ほど大空さんを【ボディ・スキャン】した際の結果を思い出す。たしか、大空さんは、脊柱周りを躍動感のある動きによって細かい神経系の緊張がある。その改善提案はビリビリショック【中】による広範囲の弛緩だ。僕は【ビリビリショック(中)】を選択した。
座面から背もたれにかけて、見えない電流が大空さんの背骨を真っ直ぐに貫き、神経の昂ぶりを強引に解きほぐしていく。
「っ!? ふ、あぁぁあああ……んんっ!!」
あまりの心地よさに、大空さんはあのアニメ声で、教室中に響き渡るような卑猥な喘ぎ声を上げそうになった。しかし、それを察知していた雨野さんが、電光石火の速さで大空さんの口を両手で塞ぐ! 溢れ出る艶めかしい声が雨野さんの手のひらでせき止められた。
「……んんーーっ! ぅん、んんっ!!」
大空さんはもはや抗うことをやめ、本能のままに全てを僕に預けるように背中を押し付けてくる。口を塞がれながらも、電流の刺激に全身を小刻みに震えさせて快感を抑え込むその姿……。
(……すごい。雨野さんとはまた違う、可愛らしい反応だ)
僕はそのまま5分間、じっくりと彼女の脊柱周りの緊張をリセットしていった。やがて電流を止めると、大空さんはぐったりと僕に体を預けたまま、まさに快楽に堕ちた天使、堕天使の笑みを浮かべていた。
「……はぁ……ん。この椅子……最高よぉ……」
満足げに、そしてどこかトロリとした目つきで大空さんが呟く。
「光、大丈夫? 声、漏れてそうだったわよ」
「ごめん、しずくちゃん。でも、これ……本当にすごすぎるわ。部活の疲れがどこかに行っちゃった」
大空さんの満足げな笑みを見て、僕はとてもうれしかった。




