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転生したら椅子だった!?  作者: にんじん


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心地よい椅子

  僕はマッサージコマンドの中から【ファントムハンズ】を選択した。すると、視界にさらなる詳細コマンドが浮かび上がった。


【 揉み強度設定 】 弱 中 強 最強 天国


(なるほど、強さが選べるのか……。まるで高級マッサージチェアだな、でも天国ってなんだ!)


 僕はその一番下にある項目に目を奪われた。【弱・中・強】まではわかる。【最強】も、なんとなく想像がつく。でも、【天国】ってなんだ?  あまりに抽象的で、かつ重みのある言葉に僕はたじろいだ。


(もしこれを選んで、文字通り彼女が昇天するような……いや、とんでもない快感や衝撃が襲って、教室中に響き渡るような声を上げさせたらどうしよう。もし取り返しのつかない結果になったら……)


 好奇心はある。けれど、それ以上に未知の領域への恐怖が勝った。大切で凛とした雨野さんを実験台にするわけにはいかない。 僕は【天国】を選択したい衝動をぐっと抑え、システムの改善提案通り、最も無難で確実であろう【中】を選択した。すると、椅子である僕から、透明な2つの手がスッと飛び出した。コマンドには見えない手と表記されていたが、本当に見えないのだろうか? 僕は少し心配になった。


 一方、雨野さんは凛とした佇まいで座っている。本当は机に体を押し当てて倒れ込みたいほどの疲労が蓄積しているのに、そんな様子を一切見せつけずに美しい姿勢を保っていた。手が見えるかどうかで不安がっている場合ではない。雨野さんの疲れを、少しでも僕がいやしてあげなきゃいけないんだ。僕は意を決して、中設定の見えない手を彼女の首筋に当てた。マッサージの経験なんてない僕だったが、手を押し当てた瞬間、指先が勝手に動き出す。その繊細で滑らかな動きは、まさに一流のマッサージ師の手さばきそのものだ。首のコリがみるみるとほぐされていく過程が、僕の手を通じてダイレクトに伝わってくる。


「……っ、あん……」


 その時、雨野さんが小さく艶めかしい声を漏らした。 ハッとして彼女の様子を伺うと、顔を真っ赤に染めながら、気持ちよさと恥ずかしさが入り混じったような、とろんとした表情を浮かべている。僕はその顔を見て、心臓がバクバクするような強烈な快感を得た。こんな彼女のレアな表情を、特等席で見られるなんて。僕はなんて幸せ者なんだろう!


 もっと見ていたい、そう思ったその時だった。


「おっはよ~、しずくちゃ~ん!」


 教室の扉が勢いよく開き、可愛らしいアニメ声と共に大空さんが入ってきた。雨野さんは弾かれたように我に返り、いつもの凛とした姿勢に戻って「光、おはよう」と挨拶を返した。けれど、親友の目は誤魔化せなかったらしい。大空さんは自分の席には行かず、一直線に僕の方へと向かってきた。


「しずくちゃん……どうしたの? なんだか様子が変よ?」

「……何でもないわよ」


「もしかして……白井くんのこと、気にしてる?」


 僕の名前が出た瞬間、雨野さんの瞳に寂しげな色が宿った。


「……うん。でも、今は違うの。私、最近すごく体が疲れてたみたいなんだけど……急に首のコリがふわっと軽くなった気がして。なんだか不思議なの。誰かに優しくもみほぐされたみたいな……」


 雨野さんは一瞬ためらったが、自分を案じる親友に嘘はつけないと、素直に感じたことを打ち明けた。


「なにそれ、本当? 誰もいないのに?」

「ええ……。自分でも信じられないんだけど、本当に気持ちよくて」


 大空さんは「そんなの気のせいだよ~」と笑いながら、雨野さんの言葉を冗談半分に受け流した。雨野さんも「そうよね……」と同調する。当然の反応だ。学校の何の変哲もない椅子に座って、勝手にマッサージが始まるなんて、誰が信じるだろうか。僕は二人の会話を聞きながら、次は肩のコリへと手を伸ばした。再び、雨野さんの口から「あっん……」と熱い吐息が漏れる。


「 しずくちゃん、どうしたの!?」

「……やっぱり、間違いないわ。誰かが、私の肩をほぐしてくれているの……すごく、気持ちいいの」


 雨野さんは顔を赤らめながら恥ずかしそうに答える。


「本当なの?でも……しずくちゃんが嘘つくわけないし。ちょっと、私と代わってみてよ!」


 興味を引かれた大空さんの提案で、雨野さんが席を立ち、代わりにお尻を預けてきた。


(……おおおっ!?)


 大空さんのキュートで柔らかいお尻が、僕の顔に深く沈み込んでくる。雨野さんよりも少しだけボリュームがあり、驚くほど弾力があってフワフワだ。さらに、視界が劇的に変わった。品行方正な雨野さんと違い、大空さんのスカートは膝上10センチのミニ丈。同じテニス部で鍛えられた彼女の太ももは、健康的で引き締まった絶妙なラインを描いている。人間なら浮気は厳禁だが、今の僕は椅子だ。この弾力と、目の前に広がる眩しい景色を堪能させてもらおう……なんて思っていたら。


「……なーんだ。しずくちゃ~ん、私、何も感じないよ?」


 大空さんの不満げな声に、僕はハッとした。このままでは、雨野さんが嘘つきだと思われてしまう!僕は慌てて、彼女の体を【ボディ・スキャン】した。


 【ボディスキャン結果】


 総合疲労度:72%(中度蓄積・活動限界近し)

 下半身コンディション  激しい瞬発運動の繰り返しによる、広範囲の筋肉疲労。

 脊柱周り 躍動感のある動きによる、細かい神経系の緊張。

 足首・ふくらはぎ  継続的な負荷による、重度の張り。

 改善提案 下半身のダメージが顕著です。ビリビリショック【中】による広範囲の弛緩ともによるふくらはぎの集中もみほぐしを推奨します。


 (大空さんも、やっぱり相当無理してるじゃないか……!)


 元気いっぱいに見える彼女も、内側は部活による疲労でパンパンだった。雨野さんの名誉を守るため、そしてこのフワフワのお尻の持ち主を救うために、僕はマッサージを開始した。

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