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転生したら椅子だった!?  作者: にんじん


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13/17

謳歌

 僕のいない教室は、僕がいた時となんら変わらずに時を刻んでいる。何事もなかったかのように日常は刻まれる。雨野さんは僕の訃報を聞いた後から元気がなく、2限目で「体調が悪くなった」と言って早退してしまった。僕の椅子人生は、2限目にして唐突に終わりを告げた。……と言っても、明日になれば雨野さんはまた登校してくるはずだ。僕は彼女の暖かくふんわりした感触を失って、人間の時と同じように、誰からも相手にされない教室内のオブジェとなった。


 時間は経過して、お昼休みになる。


 今日は一日中、オブジェとして終えると思っていた時、僕の方へ駆け寄る1人の人物が居た。その人物はクラス一騒がしい女性、天陽(てんよう)(きら)だ。鹿島たちが男子のムードメーカーなら、天陽さんは女子のムードメーカーと言えるだろう。


「雪、雫……大丈夫かな?」


 天陽さんは心配そうに、雨野さんの前の席に座っている冬山(ふゆやま) き(ゆき)に声をかけて、空いていた僕の上にドカッと腰を下ろした。


(お、おおぉぉぉっ……!?)


 その瞬間、僕の全身パイプに電気が走った。天陽さんのお尻は、雨野さんよりも肉厚は少し少ないが、小ぶりで温かみのある感触。雨野さんとはまた違った種類の、ダイレクトな気持ちよさが伝わってくる。正直、決して美人とは言えない天陽さんだが、僕は愛嬌のある彼女の顔は嫌いではない。むしろ、どちらかと言えば好きなタイプと言えるだろう。


(雨野さん、ごめんなさい……!)


 心の中で一応の謝罪をしてみるものの、僕の心は天陽さんの魅力的なお尻の感覚に、今にも張り裂けんばかりの喜びで満たされていた。いや、もう完全に奪われている。僕はその感触を十分に堪能すると、次に僕の視界に入ってきたものに目を奪われた。座りながら子供のように足をバタつかせている、天陽さんの足だ。


(おぉ……なんて健康的なんだ!)


 陸上部で鍛えられた、少し筋肉質で小麦色に焼けた足。白くて細い雨野さんの足も至宝だが、この、健康的で躍動感のある筋肉質の足も、今の僕にはとてつもなく魅力的に映る。興奮を隠せない。椅子という特等席から眺めるこの光景は、あまりにも刺激的だ。もう、卑屈になって死にたいなんて考えていた過去の僕はどこにもいない。僕の第二の人生……いや椅子人生は、思っていたよりもずっと楽しく、刺激的で、少しエッチな輝きに満ちている。僕は、天陽さんがバタつかせる足の振動を全身で受け止めながら、この新世界を全身全霊で謳歌している。


 天陽さんの声は、とにかく大きい。思わず耳を塞ぎたくなるようなボリュームだが、僕にとっては、それが少しも不快ではなかった。例えるなら、それは激しく降り注ぐ雨だ。雨は、傘を持たない人にとっては不快なものかもしれない。けれど、渇いた大地に根を張る植物にとっては、それこそが生命の恵みだ。人間の時、誰からも疎外され、孤独の中にいた僕にとって、天陽さんの教室中に響き渡る大きく明るい声は、凍りついた心を溶かす慈雨そのものだった。


 一方、天陽さんが話しかけている冬山さんは、彼女と真逆の性格だ。北欧出身の母を持つダブルの女子生徒で、透き通るような色白の肌に、神秘的な銀色の髪。いつも静かに読書をしていて、人とはあまり会話をしない。しかし、太陽のような天陽さんとは不思議と仲が良く、天陽さんの嵐のようなお喋りを、冬山さんは静かな湖のような微笑みで受け止めている。2人の会話の内容は、早退した雨野さんを案じる深刻なものだったけれど、僕はその言葉の意味よりも、天陽さんの力強い声の響きと、冬山さんが醸し出すひんやりとした清涼な空気に、深く心を癒やされていた。天陽さんの大きな声が僕の背板を震わせるたびに、僕の魂までが共鳴し、活力を取り戻していくのがわかる。


 かつての僕は、教室の隅で息を潜めるだけの死んだオブジェだった。けれど今の僕は、彼女たちの体温を感じ、その声に癒やされる意志ある椅子だ。天陽さんの元気な声と、座面から伝わる健康的な熱量。僕の第2の椅子生は、退屈とは無縁の最高に刺激的な毎日になりそうだと、この時は本当に思っていた。

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