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悪女ルルには秘密がある――転生大貴族令嬢は、敵対者へのお仕置きも、こっそり庶民ライフも全力で楽しみます――  作者: スパ郎


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9話 モチネオカの敵

「ハンマラディダダダダッ、ハンマラディダダダダッ、キダーアヅアアアアア」

 占い師? 祈禱師?

 一瞬、職業不詳になってしまったおばあちゃんの奇声に私は思わず椅子から立ち上がり、体を硬直させた。


 ひっひぃいいいいいいいい!!

 なに!? 私、呪われるの!?

 お金は払うから、今から逃げてもいい?


「……ふぃー。まあ、座りなさい……占い結果が出ましたぞ、お嬢さん」

 あっ、やっぱりちゃんと占いしてくれてたんだ。


 今日は週に一度の完全自由時間。

 学園からも、モチネオカ伯爵家からも解放されて、ただの庶民に戻る日。


 ルル・モチネオカでもない、エリザベス・カッパでもない、素の私を解放し、また明日から頑張るためにエネルギーをチャージする時間だ。


 ローブ姿の私は、いつも通りフードを深々と被って王都の街を散策している。若干浮浪者っぽく見えるのは仕方ない。こうしているとスリにもスルーされるので、余計なトラブルに巻き込まれずに済む。


 昼は『ジークとハナのお店』で食べると決めているので、食べ歩きの類は出来ない。たまに露店から漂ってくる香ばしい匂いに負けそうになるが、幸いなことに王都の街には誘惑が多くて食べ物から逃げられている。


 小物を買って散財し、気分を晴らす日もあるのだが、今日は見慣れないおばあさんに身を預けることにした。

『占い 一回3000ベル』と書かれた看板を横に立てかけて、簡易の屋根だけ設置して、目を瞑ってゴザに座り込んだおばあちゃん。


 只者ならぬ雰囲気を纏っていたので、年の功を信じて占ってもらうことにした。河童先輩も「ちょ、婆の言うことは信じておきな」って言っている気がする。


 占いはとても好きだ。本気で信じているかと問われれば、信じていないと答えることになる。

 けれど、当たるも八卦当たらぬも八卦。占いは、占いをして貰う時間を楽しむものだと私は考えている。それで気分よく一日を過ごせたのなら、とても良い出費だと思う。


「何を知りたい? お前さんの50年後まで全部、毛穴の隅々まで見えたが」

「3000ベルでそこまで!?」

 驚愕。

 おばあちゃん、大口を叩くにも程度が過ぎるよ!


「はよ、知りたいことを言わんか。なんなら過去までわかるし、生涯稼ぐ金額を1ベル単位で言い当てられるわい」

 大口が止まらない!!


「んーと、ですね……。いや、なんでもわかると言われると、逆に何を聞いていいやら」

「しゃーない。どうせ恋愛運とかじゃろ。小娘は大抵これ言っとけば満足して帰って行くからの。はいはい、恋愛運恋愛運」


 ……雑っ。

 なんか急に雑に。さっきの祈禱師顔負けの迫力はどこへやら。

 ま、まあ? 気にならない訳じゃないけど? 恋愛運? ふーん、はい、気になりますけど?


「では、恋愛運をお聞かせ願えますか?」

「ふむ、運命のお相手じゃがもう出会っておるぞ。しかも週一くらいで頻繁に出会っておる」

 げっ。


 そんな相手、一人しか思いつかない。


「うっ、嘘ですよね? 嘘だと言って下さい!」

「嘘は言わん。お相手に心当たりがあるようじゃの。若いうちはそんなものじゃ。相手の悪いところばかりが見えてしまい、なかなか自分の本当の気持ちに気づけぬ。ようし、婆からの金言じゃ、しかと聞けい!」

 いやー、聞きたくないー!

 耳を塞ぐが、おばあちゃんが強引に耳ガードの両腕を引きはがす。


「嫌よ嫌よも好きのうちってな」

「それ男側への言葉ですから! 私の嫌よ嫌よは本音ですから!」

「ふぉっふぉふぉふぉ。ほれ、3000ベル出しな」

「……あ、はい」


 仕方ない。

 占い結果に不満はあるものの、内容を否定する根拠も無ければ、そもそも占いは別に当たることを保証しているものでもない。

 私は諦めて財布から1万ベル取り出して、おばあちゃんに手渡した。残念だが、これ以下の通貨を持ち合わせていない。


「小娘、釣りなんてないぞ」

「構いませんよ。なんだかんだ楽しかったので、超過分は受け取って下さいな」

「ふむ、羽振りの良い娘は好きじゃぞ。では、もうサービスで一つ教えよう。その男、なかなかに良い男ぞ。安心して身を預けてみよ」

「ふぅー……私も、そう思います」


 椅子から立ち上がり、おばあちゃんに再度お礼を申し上げておいた。

 実際、結構楽しませて貰った。


 占いは所詮占いだ。

 あまり信じすぎてもだが……おばあちゃんの言う人物にあまりにも心当たりがあった。


 レオ王子のことである。

 くぅー、私が週一ペースで会っている人物なんて彼以外にはいない。爺やシャールさんはもっと頻繁に会っているし、そもそも恋愛対象になるくらいの年齢差ではない。


 爺やは今年80歳だし、シャールさんも20代後半だ。


 年齢が近く、週一ペースで会って、なんだかんだ頼れる良い男……レオ王子しかいないんだよなぁ。


 あの人、堅物で面倒くさいが、世間一般的に評価するととても良い殿方と分類せざるを得ない。

 堅物で、面倒くさくて、腹立つけど。……腹立つけど!


 私の運命の相手、あの人かぁ。お大概に釣り合う身分だしね。

 やれやれ。みんながみんな幸せな結婚をする訳じゃないし、あんまり贅沢は言わないでおこうか。

 顔はいいし、真面目だしね。


 占いの結果はあまり気にせずに楽しむつもりだったのに、占い結果がリアルすぎてがっつり凹んでしまった。


 下ばっかり向いて歩いていたからだろう、街行く人にぶつかってしまう。


「ごっごめんさい!」

「おっと。こっちこそ、ごめんよ」

 こんな人通りの多い場所で下を向いている場合じゃなかった。

 フードから少し顔を出し、ぶつかった相手に謝罪をする。


「あっ……」

「おっ……ルル、様?」


 二人して固まる。

 そこにいたのは、学園に通う天才……ジークさんだった。


 学園での装いと違う、私の地味なローブ。しかも街を一人で自由に散策してしまっているところを見られた。

 一瞬、別人ですよって顔をしようとした。


 けれど、明らかに彼を意識してしまった後にそんな行動を取ってみろ。やましいことがあるのがバレバレだ。


「ここで、な……何をしているのですか?」

 絶対に相手のセリフだが、奪い取って私のセリフにしておいた。

「もうじき昼時ですから、弁当の配達に出ています。この時間帯に出ないと、昼時の店の厨房が火の車ですから」

「あなたの実家は料理屋さんなのですね。勉学に励みながら、実家の手伝いもしているとは見上げた若者ですね」

「なんだか、随分とお年を召したような口調ですね」

 彼はからかうようにそう言って、少しクスッと笑っていた。


 ジークさんはとてもお顔の宜しい方なのだが、笑うとまた可愛らしい一面が出て来て、とても目の抱擁になる。


「ところで、ルル様はこちらで何を?」

 げっ。

 絶対に聞かれたくないことを聞かれてしまった。先手を打ったのは失敗だったどころか、何をしているのか聞かれたら逆に聞き返すのが当たり前だということを失念していた。

 私どこまで焦っているんだ。


「まっ、迷子です」

 何を言ってもまずそうだったが、ここは天然可愛い系お嬢様として振る舞うことにする。ドジで、こんな街中まで来ちゃった。……うゆ。


「……迷子ですか」

 彼はなにか含んだ感じの相槌を打った。なによ! 文句あるなら言いなさいよ!

 私の天然ドジっ子演技に文句でも!?


「……お昼はもう食べましたか?」

「いいえ、この後寄るお店があるので、お腹は空かせているんです。あっ」

 すらっすら答えてしまった。

 うゆうゆ、言いながら迷っている人間の判断力ではない!


「そうですか……。俺は弁当の配達をもう終えたので、そろそろ家に戻ります。客がどっと来る時間帯なので、手伝わなきゃ。ルル様、すませんがそろそろ行きます」

 行ってくれ。

 そして出来れば、今日の出来事は全部記憶消去してくれ。


 今日あったとこを学園で絶対に離さないように釘を刺しておこうかとも思ったが、彼程度が今日あったとこを風潮して回っても誰も信じない。庶民の戯言だと流されるだけだろう。


 それにしても、気を付けねば。

 こんなに広い王都、しかも人が多い街中で、よりにもよって同級生に遭遇しようとは。不思議なこともあるものだ。


「……と思ったのですが、ルル様、誰かにつけられている自覚は?」

「つけられている?」

 ええ?

 それってつまりは、ストーカーの類?

 いや、もっと危ない人かもしれない。


 私のこの完全自由時間は家の者でも爺やくらいしか知らないはず。しかも爺やには完全に自由になりたいから護衛もつけないでくれと頼んでいるはず。


 ……げっ。誰? 私のスケジュールを知っていて、尾行するような相手って……。


「まっ、全く気付きませんでした」

 私の顔はきっと青ざめていることだろう。

 ジークさんがあまり不安にさせまいと、少しゆっくりめ口調で話してくれる。


「大丈夫。どうやら相当距離がある。100メートルくらい一定の距離を保って追跡してきている。もしかして、ルル様の家の護衛だったりします?」

 首を横に振って否定しておいた。

 それはない。


 爺やは約束を守る人だし、シャールさんはそもそも私の自由時間を知らない。それに知っていてもこの時間帯はシャールさんにとっても一週間に一度の完全な自由時間。わざわざ私を守る義理も無い。今頃日向ぼっこであくびでもしている頃だろう。


「かなり高い可能性で、敵だと思います。我が家は……それなりに敵がいます……」

「そうですか。俺の雷魔法で敏感に人の意識を感じ取れるんです。人が意識を飛ばす時、電流が走るのを知っていますか?」


 なんか、そんな話を化学で聞いたことがあるような無いような。

 とにかく、雷魔法を扱うジークさんにはその微細な電流が見えるらしい。


 追跡者は離れた場所から常にその微細な電流を私に飛ばしてきていると解説してくれた。


「この人の多さ。王都の建物の多さを考えても、恐らく追跡者は目を頼っていない。俺同様に魔法を使っているか、はたまた別の能力か」

「探偵みたいな能力の可能性もあると」

「そうですね。追跡のプロかもしれない。……少し、俺の戦力では不安があります」


 ジークさんは学園で天才と呼ばれている身だ。

 庶民でありながら、貴族の学校に入れた。


 彼は勇者の生まれ変わりだと騒がれていたりもするのに、そのジークさんが不安ですって!?


「なんとなくわかるんです。電流の安定加減や、この一定の距離を全く崩さず自然にふるまっている感じ……多分、敵は相当強いですね」

 あんまり聞きたくなかったかも。

 私の顔は今や青ざめすぎて河童先輩の緑色に近くなっているかもしれない。「ちょ、それって良い事じゃん」って河童先輩がお茶らけている気がする。助けて、河童先輩!


「んー、ルル様の家まで戻れば、身を守ってくれる方はいますか?」

「はい! シャールさんっていう、とても強い人がいます。使用人たちも戦闘に長けた人がいますし、絶対になんとかなります」

「では、そこまで逃げましょう。ルル様、乗って」


 彼は背負っていたバッグを体の前面に移動させ、私に背中に乗せるように伝えた。

 バッグの中には、配達の弁当を入れていたのだろう。


 の、乗ればいいの?

 な、なんか大丈夫ですか? これ。

 私のローブ臭くないよね?


「はやく!」

「はっはい!」


 四の五の言ってらんない。

 天才ジークが危険を感じているなら私にはどうしようもない敵だ。早くシャールさんにこのことを伝えねば。


「走ります。大きく揺れると思いますので、しっかり捕まっていて下さい」

「はっひゃい!」


 肩にそっと両手で捕まっていたのだが、そうじゃないらしい。

 くびにそって腕を大きく回りて抱き着くと、よしっ、とジークさんが言って走り出した。


『雷よ、我が血となれ。轟け、拒むものすべてを置き去りにせよ』

 ジークさんの鼓動が上がり、体の周りにビリビリと電気が走る。鼓動に合わせて、電機もパチパチと脈打つ。


 グッとスピードがあがり、人の移動速度とは思えないスピードで走って行く。人ごみを避けて壁を走ることもあった。ヒーロー!?


 背中から雷の羽根のような残光を道に残し、ジークさんは全力で走った。

 思いっきり腕を回したのは正解だったみたいだ。


 気を抜くと振り落とされて、ローブ姿で街中を大回転することなるだろう。セルフ市中引き回しの刑が実行されそうだ。


「大丈夫ですか?」

 息を切らせながら、ジークさんが心配してくれた。


 当たり前だが、ジークさんは魔法を使いながら私を背負って全速力で走ってくれている。疲れない訳が無いと、今更になって気づいた。


「ほ……褒美を与える! あなたに褒美を!」

「いえ、結構ですよ。ルル様が無事ならそれで」


 最悪だ。私、なんでこんな高飛車なことしか言えないんだろう。

 無償で私を助けてくれようとしている人に、褒美だなんて。

 ああ、自分の頭をポカポカと殴りつけて罰したいが、それは後にしよう。今はしがみついていないと落ちてしまうから。


 私が30分もかけて王都の市場まで行ったのに比べ、ジークさんは10分もしないうちに案内通りに進み、モチネオカ伯爵家の屋敷の辿り着いた。


 門の前まで来ると、流石に安心できた。

 ジークさんから降りると、彼は膝に手を当ててはあはあと息を荒げる。


 本当にごめんなさい。私の勝手な自由行動で、ジークさんに迷惑をかけることになってしまった。


「あの……ごめんなさい。そして、ありがとう。もっと早くお礼を伝えるべきでした」

「ふふっ。良いですよ、気にしなくて。それに、お礼ならもう貰っています」

 もう貰っている?


 そんな訳はない。私は先日の試験結果のときにジークさんと初めて会い、今日が二回目だ。彼に何も渡した覚えはなかった。


「あ、入学許可を出した件ですか? あれなら別に恩に感じて貰う必要はありません」

 与えられた権限について回る仕事を処理しただけのことだ。

「それもありますが、他にも頂いています。じゃあ、俺はこれで。今日会ったことは黙っておくので、ご安心を」


 走って行く彼の背中に呼びかける。


「待ってください! せめてお昼だけでもごちそうさせて下さい!」

「構いません! それにそろそろお店の方が混んで来ますので、帰らないと!」


 魔法を使った状態のジークさんの足は恐ろしく早く、あっという間にその姿を消していった。


 行っちゃった……。

 なんだか、少ししか会っていないのに随分と濃い時間を過ごしたものだ。


『ジークとハナのお店』には行けなかったが、今日は仕方ないか。

 屋敷内に入ると、息を切らしたシャールさんが走って来た。トレーニング中だったのだろうか?


 私は慌てる気持ちを抑えて、シャールさんに追跡者がいることを伝えた。かなり強い人らしいから気を付けるようにとも。


 シャールさんは私の護衛であり、何か気づいたことがあったらいつでも言うようにと普段から言われている。しかも彼は私の事情に首を突っ込んでこないので、何でも相談しやすいという面も持ち合わせている。


「なので出来れば、その者の背後にいる人物の正体を暴きつつ、今後このようなことがないように対処したいのです」

「その件であれば、ちょうど、はあはあ、いま、処理してきました」

 はやっ。

 早すぎない?


 あ、それで息を切らしているのか。


「屋敷の周りをうろつき、お嬢様を付け狙っておりましたので、即確保を。経験上、正体もわかります。おそらく貴族の醜聞を狙うパパラッチの類でしょう」

「凄い。既に正体までわかっているだなんて。お相手はかなり強いらしいですが、シャールさんに怪我はありませんか?」


 見たことろ大丈夫そうだが、随分と息が荒れているので手間取ったには違いないのだけど。


「……はい、かなり強かったですが、勝負は一瞬で決まりました。とにかく、お嬢様。今後、その者に関して一生心配することはないとだけお約束致します」

「よかったぁ。ありがとう、シャールさん。ほんっとうにありがとう!」

 身の安全を守って貰えるってこんなにも心安らぐのか。


 どこか私よりも安心している気がするシャールさん。勘違いだろうか。


 こんな頼りになる人を送ってくれた父上にも感謝だし、シャールさんには感謝してもしきれない。

 彼の家族には領内で仕事を与えて生活して貰っているが、人質に取られているとも知らず弟が将来モチネオカ伯爵家のために働きたいと息巻いているらしい。


 折角なので好待遇で向か入れて、シャールさんの恨みも徐々に晴らしていこうと思う。モチネオカ伯爵家には敵が多いのだ。ならば、味方もしっかり増やさなくちゃだよね。


 今日は昼を食べ損なったので、爺やとシャールさんを呼び、共に昼食を食べることにした。


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