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悪女ルルには秘密がある――転生大貴族令嬢は、敵対者へのお仕置きも、こっそり庶民ライフも全力で楽しみます――  作者: スパ郎


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6話 クレストヴィ侯爵

 王都の留学はそれ程忙しいものではない。


 というのも、学園は週に3日しかなく、ばりばり詰め込み教育をするわけでもない。あの学園は本当に箔をつけるための側面が大きい。


 実力者を集めて、更に磨きをかける場所。期間も1年と普通の学校と比べると短い。才能の原石を磨き上げることはせず、初めから輝いている宝石たちをブランド名付けて送り出すのが目的。


 じゃあ1週間の残り4日が休みなのかと言われればそんなことは無く、モチネオカ家長女としての公務がちゃんとあった。

 王都はあらゆるものが多く流通している。物資を初め、人も、情報もこの地には数えきれない数のものが毎日流れ込んでくる。


 長女を留学させておいて、王都の地の利を我が父上が逃すはずもなかった。私に大金を持たされて、自由に使うように言われている。


 自分で考え、何をどう使えばモチネオカ家のためになるのかしっかりと頭を捻りなさいとのことだ。父上は昔から私に試練を与えがちである。スパルタかよ。


 そんなとき、私は決まって河童先輩に頼るのだった。


 ねえ、河童先輩。こんな大金握らされても困るよ。何が領地のためになるなんてわからないし。要求無茶過ぎ。

「ちょ、あんまり気負うなって」

 そんなこと言われても、額が額だよ? 小さな領地なら、領地ごと買えちゃうような金額だ。

「ちょ、それが信頼の証だって。好きに使えばいいっしょ。楽しいのが一番だべ」

 やっぱり? 私もそう思ってた! ありがとう、河童先輩!


 やっぱり河童先輩は頼りになる。ちょっと次元が違うレベルで私の人生をいつも良い方向へと導いてくれる。

 感謝してもし足りない。ああ愛しき河童先輩。


 という訳で、来ましたオークション会場。

 会場には、大勢の貴族、商人を初め、資産家たちである富裕層が集まる。


 私もドレスコードに従いドレスを着込んでいるが、今日競られる品物は華麗なドレスには似つかわしいとは言い難い……牛、豚、羊、鶏だ。

 宝石? 貴金属? いいえ、家畜です。


 河童先輩のアドバイスに従い、私は父上から与えられたお金を自由に使うと決めた。

 自由に使うとはつまり、好きなものに使うことだ。


 私はあまり貴族の権威とか、格好いい殿方にあまり興味がない。そりゃ目の抱擁にはなるけれど、実益がある気がしなくて……。そういう意味では私は父上に似たのかも。それと、幼少期から面倒くさい悪友がいたせいかな……顔には本当に興味がなくなってきていた。


 顔の良い悪友とはレオ王子のことだ。

 日に日にイケメン路線を辿っている“あれ”だが、幼少期はお人形さんのように可愛らしかった。顔が整い過ぎて魂を持った人形さんかと、顔を何度も弄った過去を思い出す。


 まつ毛が長くて、長くて、本物か? とぷつりと抜いてあれを泣かせたこともあった。

 けれど、やっぱり性格が面倒くさすぎて、レオ王子とは一度も恋仲になったことはない。人間、なんだかんだ性格でしょ。河童先輩はそのあたり強い。緑色でも色気半端ないから。


 顔で言えば、最近知り合ったジークさんもかなりイケメンの部類だ。敢えて気づかないふりをしていたが、私の取り巻きたちも彼の容姿にきゅんっと胸をときめかせていたのを目ざとく見抜いている。


 立場の違う茨の道の恋だろうけど、みんな頑張るんだよ。結婚式にはちゃんと出るから。私が出れば身分違いも公認のものとなるだろう。モチネオカ家にはそれだけの権威があった。


「本当にルル・モチネオカ公爵令嬢様が……、どうぞご入場ください。特設席を用意しておりますので、どうかごゆるりとオークションをお楽しみください」

 入場係担当者が、この家畜オークション会場にやって来た私の名に半信半疑といった状態で反応したが、何度か確認してやはり間違いないとオークション会場に通してくれた。


 私に用意されたのは二階のボックス席。

 観劇のホールを想起させる美しい会場では、一階席に着いた客たちがこれから出品される家畜たちの話題で持ちきりだ。


 分厚いパンフレットを渡される。中には、今日の家畜たちの情報が事細かに記されている。血統や特徴、なりやすい病気の傾向や、改良の歴史、牧場の様子など。どれも興味深い内容でしっかり読み込んでおいた。予習は大事だ。


 しばらく待っていると、会場の席が完全に埋まり始め、司会の進行が始まる。

 まずは鶏部門から。


 卵が出品されるオークションもあるが、今日はちゃんと生まれた状態でこちらに運ばれている。こちらの世界では交通面はあまり発達していないが、その代わりに転移系魔法は発展している。私の出版した書籍によっても転移魔法は改良が加えられ、輸送費は以前に比べて3割は安くなっていると聞く。


「さあ始まりました。まずはレヴィナス家で生産された雄鶏から参りましょう。我が国でもっとも家畜の品種改良に力を入れているレヴィナス家が自信を持って出品してきた個体です。皆様、どうか後のことを気にせず最初から全力で落札することをお勧めいたします」


 壇上にいる司会の案内で登場したのは……巨大なヒヨコ。

 雄鶏と聞いていたからなんかめちゃくちゃ気性の洗い鶏が出て来るのかと思っていたら、ダチョウサイズのピヨピヨ鳴く可愛らしいヒヨコちゃんだった。


 ほっ。いやしっ。持ち帰りたい。


 ……ではなく、ちゃんと競らないと。

 レヴィナス家といえば、お肉が美味しい土地として知られている。領主様が家畜産業に全力注入しており、近年その成果が目覚ましい。


 貴重な品種をこのオークションで落札し、我がモチネオカ家に持ち帰り、いずれは我が領地でもその美味しいお肉を食べる作戦だ。


 我が領地も酪農には力を入れているが、レヴィナス家と比べるとね……って感じだ。でも、いずれは追い抜く。そのためにも、まずは先を行くレヴィナス家の貴重なヒヨコちゃんを落札しなければ。


 早速始まるオークション。

 3000万ベルから始まった金額。こちらの世界の金銭の額だが、円とほぼ変わらない感覚なので、3000万円スタートという感覚で大丈夫だ。


 ヒヨコ一羽に3000万円!?

 ……やっ、やすい!


 あのレヴィナス家が中途半端な個体を市場に流すはずもない。彼の家は、大物貴族とは言い難い家格だ。

 優れた品種をずっと家の内部だけでずっと生産していると、そのうち大物たちから圧がかかる。「え? なにレヴィナス君。君のとこの美味しいお肉、なんで私たちに分けてくれないの? もしかしてやましいことでもあるの?」と難癖付けられる。これまじ。過去に何度も起きている。ちなみに、我が家は難癖付ける側である。悪っ!


 だから難癖付けられないように、定期的にこうして大規模なオークションで自家の品種を外に売り出したりする。当然高値で取引されるし、他の家がレヴィナス家に迫れば彼らとて生き残るためにまた品種改良を頑張るという良い循環にもなる。そんな感じでメリットもあるにはあるので、レヴィナス家はかわいそうだが、いいんじゃないかなと思っている。私は得しているし。私も悪っ!


「さあ、皆さま振るって入札下さい! おっ、45番ウィリアム様から4500万の入札。お次はありませんか? 4500万、4500万です!」


 ふふっ、私はまだ慌てない。

 落札する気が無いわけではない。というより、大本命がいきなり来ている。けれど、こんなお遊びには付き合わない。


「おおっ!? これは101番、クレストヴィ侯爵様から1億ベルの入札! 早速大台に乗りました。さあ、これに続こうというお方はいらっしゃいませんか? 家の実力の見せどころですよ。振るって入札にご参加下さいませ!」


 そう。司会者の言う通り、こういった公の場におけるオークションは家の力を示す場としても活用される。

 安く買えば確かに得である。けれど、大物がそんなせこいことをしてしまっては家の名声に響く。何度も言うが、この世界において貴族は威厳が何よりも大事なのだ。


 私は満を持してようやく動く。

 指を慣れた動きで動かし、司会者へとサインを送る。


「い゛っ!? 139番、2階のボックス席よりルル・モチネオカ様が3億ベルの入札! いきなりの大口入札! 流石はモチネオカ家!! いやはや、今日は出だしから凄まじいことになりそうですね! どうでしょう? 流石にこれは決まったか!?」


 会場がどっと沸きたつ。

 続けて入札しようとするものは続かない。けれど、会場は入札がどんどん入っていたときよりも賑やかになっている。


 やはりこれだけ豪快にお金を使うと、皆気分がいいらしい。

 中には既に私に拍手を送る人たちもいた。

 けれど……そう簡単には決まりませんわよね?


「さあ、家畜事業に最近力を入れていると噂のクレストヴィ侯爵様から再度入札! 3億1000万でルル様に食らいつく! さあ、ルル様はどう出る!? 他にも参戦したい方も一切の遠慮は不要でございますよ!」


 クレストヴィ侯爵。当然知っているし、面識もある。国王の末弟にして、レオ王子の叔父上に当たるお方だ。


 なんどか挨拶申し上げたことがある。ごめんなさいね、クレストヴィの叔父様。我が家もこれから生産に力を入れる予定なんです。


「え゛っ!? こ、これまた規格外! ルル様より6億ベルの入札。倍々だ。接戦などやる気はないらしい。クレストヴィ侯爵もこれにはお手上げか?」


 司会がクレストヴィ侯爵を見つめるが、侯爵は残念そうに首を横に振って諦める。

 ハンマーが叩かれ、会場に木槌の心地よい音が響いた。


 スタンディングオベーションが起き、2階席でニターと微笑んでいる私に盛大な拍手が送られる。

 いつの時代も豪快にお金を使う人ってのは、こうして好かれるらしい。片手を上げてお礼を申し上げ、司会に進行を進めるように促した。


「えー、ルル・モチネオカ様のおかげで素晴らしい開幕となりました。皆様今一度ルル様に拍手をお送り下さい」

 拍手が再度鳴り響くが、はよさきに行け。

 実家のお金で鶏買っただけですから。私、何も凄くないから。


 鶏の落札はそれからも進んで行く。

 しばらく放っておいた。2番手に用などない。欲しいのは一番良い品種だけ。4回目の出品にレヴィナス家出品の雌鶏もいたので、クレストヴィ侯爵を抑えて4億ベルで落札しておいた。ふっ、勝負にならないわね。


 この間の落札平均価格が4000万とかなので、私とクレストヴィ侯爵の叔父様だけがどれだけ桁違いのことをしているかがお分かりいただけるだろう。


 鶏部門が終わり、牛の部門になる。

 こちらも生まれたばかりの子牛だと聞いていたのに、既に体高が3メートルを超えた化け物が壇上に上がった。

 床が抜けないか心配になったものです。


 しばらくスルーして、極上のお乳を出すと噂の品種がやって来ると、また私とクレストヴィ侯爵の戦いが始まる。クレストヴィ侯爵の目当てはここだったらしい。鶏のときは本気じゃなかったらしく、ここで全力投球してくる。


「おおっと!? また派手な戦いの予感です。101番クレストヴィ侯爵から8億ベルの入札。今回は様子見することなく初めから決めきる目算だ! しかし、これは――」

 司会の視線は当然私に向けられている。

「139番、ルル・モチネオカ様より16億ベルの入札でございます! 牛一頭になんという大金が動くのでしょうか? 当オークションの過去を考えても、今日は別格の金額が飛び交っております」

 また会場が湧きたつ。

 10億を超えたのは今日初めてだった。


 クレストヴィ侯爵は、連れて来た身内たちとこそこそと話し合っている。ここはどうしても落札したかったらしい。

 難しい顔をして、頭を捻っては、悩みに悩みつくし、そしてサインを出した。


「食らいつく! 101番クレストヴィ侯爵より18億の入札だ! これが王家の血筋、狙った獲物は逃がさない執念を感じられるが――」


 ごめんなさいね。私は一つも譲る気が無いのです、クレストヴィの叔父様。美味しいものが大好き。我が領地を美食の地とする!


「かあーーああああ、私は今自分の目を疑っています。ルル・モチネオカ様より30億ベルの入札だああああ。噂には聞いていたが、これがモチネオカ家の財力なのか。桁違い、正に桁違いでございます!」

 司会はもはやクレストヴィの叔父様を見ることはしなかった。


 会場全体を眺めて、数秒待ったが声が続かないため、ハンマーを叩く。

 クレストヴィの叔父様が俯いて落ち込んでいるが、ごめんなさいね。埋め合わせはまた後日させて下さい。

 再度スタンディングオベーションが鳴り響く。ありがとうございますと立ち上がって一礼しておいた。


 それから、牛も雄を一頭落札し、豚、羊部門でもこの日一番の目玉を全部落札しておいた。全部クレストヴィの叔父様が競合してきたが、圧倒的に引き離して勝ち取る。


 ふう、大満足です。とても良い一日となった。

 オークションが終わると、クレストヴィの叔父様が私のボックス席へとあいさつにやって来る。

 こちらから伺おうと思っていたが、先に来てくれたから仕方ない。失礼には当たらないだろう。


「ルル君、久しいね。それにしても凄まじい。モチネオカ家の財力がここまで凄まじいとは」

「クレストヴィの叔父様、お久しぶりです。今日は良い戦いを演出してくださり、ありがとうございます。非常に有意義な一日となりましてよ」

「ははっ、そう言って貰えると敗北の傷も癒えるのが早くなりそうだ。それにしても、ルル君、流石にやりすぎたんじゃないのかい? 君の落札金額を伯爵が知れば、後日小言が飛んできてもおかしくはないと思うが」

 私は口元に笑みを携えて、首を横に振る。


「いいえ、クレストヴィの叔父様。わたくし、本日予算の2割しか使っていませんのよ。レヴィナス家の最高品種がこんなにお安く買えるだなんて、父上も知ればきっとお褒めになってくれるわ。なんでもっと買わなかったんだという説教なら、飛んでくる可能性がございますが」

「……ははっ、そ、そうかね」


 クレストヴィの叔父様は苦笑いをしていた。

 ごめんなさいね。何一つ嘘はついていないんです。

 本当にこんなに安く済むなんて思っていなかったし、父上も後日「やっす!」って言うこと間違いなし。我がモチネオカ家とはそういう一家なのだ。


「叔父様、ではまたオークションで戦いましょうね? わたくし、張り合いがないと本気になれないので。では、ごきげんよう」

 挨拶を終えて、ボックス席を発つ。護衛に守られて、オークション会場を後にした。


 終始注目の的となった一日でした。河童先輩も褒めてくれることだろ。「ちょ、美味しいお肉出来たら俺にも分けて」とお願いされてもすぐ対応できるようにしないと。


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