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「魔王に勝てる存在」を召喚しようとした国 魔王の娘を召喚しちゃいました

作者: 月野槐樹
掲載日:2025/12/07

王宮の大広間は、今日ばかりは異様な熱気に包まれていた。


大陸全土から集まった貴族、王族、聖職者、冒険者。総勢三千人は息を呑んで巨大な召喚陣を見つめている。


「いよいよだ……魔王に勝てる最強の存在を、この手で召喚する!」


玉座に座る第一王子レオハルトは、頬を紅潮させながら高らかに宣言した。


隣には婚約者の公爵令嬢エレオノーラ・グレンヴィルが、静かに微笑みながら立っている。


大魔導士が最後の呪文の言葉を唱え終える。


次の瞬間、光が爆発した。


ぽん、と小さな音がして、光の中から現れたのは――


銀髪に紅い瞳、漆黒のゴスロリドレスに身を包んだ、十歳前後にしか見えない可憐な少女だった。


頭の上には小さな角。背中にはコウモリのような翼。


そして何より、ふわふわと揺れる長い髪は、見る者の心を奪うほど美しい。


会場がどよめく。


「天使……?」

「いや、あれは……魔王の血筋では……?」

「可愛すぎるだろ……!」


密かに前世の記憶を持っているエレオノーラも小さな声で呟いた。


「……どうして、ゴスロリ?」


王子レオハルトは立ち上がった。鼻息が荒い。


「素晴らしい! これぞまさしく我が国を救う聖女、いや、神の使いだ!」


そのまま壇上を駆け下り、少女の前で片膝をつく。



「私はレオハルト・フォン・アルディア! 貴女にこの場で婚約を申し込む! そして――」


振り返り、エレオノーラを指差す。


「エレオノーラ・グレンヴィル! 貴女との婚約は今ここで破棄する!」

「は……?」


会場が凍りついた。


エレオノーラは目を丸くしただけで、まだ状況を飲み込めていない。


「え? ゴスロリ少女が来て、婚約破棄……?」


少女はぽかんと口を開けたまま、


「えーっと……私、帰りたいんだけど……?」


と小声で呟いた。


その瞬間――


「ちょっと待ってくださいー!」


甲高い声が響き、ピンクのドレスを翻したふわふわ少女が乱入してきた。


男爵令嬢セレナ・ラブピンク。通称「ふわピンク」。


脳内お花畑の権化である。


「レオ様ったらひどい! 私の方が先に好きだったのにー!」




握りしめた両手を顔の前に持ってきて、駄々をこねるように首を振る。



「ふ、ふわピンク……」

「レオ様、私の方が可愛いですよね。……ほら、あなた、退きなさいよ!」



トンっとセレナが少女の肩を押した。グラっと少女が後ろに倒れそうになる。エレオノーラは思わず、手を伸ばし、少女の背中を支えた。



「乱暴はおやめなさい」

「キャア、睨まれた! レオ様、私、怖い〜」

「エレオノーラ! やめないか!」



レオハルトがいつもの癖で、セレナを庇う。


「いや、突き飛ばしたのそっちじゃん」



少女がツッコミを入れると、レオハルトはハッとした。



「そ、そう言えば……」



キョロキョロとセレナと少女の顔を交互に見るレオハルト王子。もはや、眼中にないのかと、エレオノーラは苦いものを噛んだような気持ちになる。視界の端に、見覚えがある騎士が見物人の間をすり抜け、こちらに向かって駆けてくるのが見えた。


次の瞬間、ドーム型の王宮の天井が、突然真っ赤に染まった。


轟音と共に、巨大な魔力が降り注ぐ。


騎士が飛び込んできてエレオノーラと少女を庇うように前に立った。


「誰が……我が娘に触れたぁぁぁぁぁ!!!」


天が割れた。


漆黒の翼を広げた、圧倒的な威圧感の魔王が降臨する。


見た目は三十代後半の美丈夫だが、瞳は完全に殺意で燃えている。


ゴスロリ少女がぱあっと顔を輝かせた。


魔王に駆け寄る。



「パパぁぁぁ!! お迎えありがとうー!!」


魔王(名前:ディザート・ヴァル・ルシフェルス)は娘を抱え上げた。


「リリアナ! 無事だったか! 誰だ、誘拐した奴は!?」


リリアナが無邪気にレオハルト王子を指差す。



「あの人。私と婚約して、だって!」


魔王の視線が、ギンッと王子に向いた。


レオハルト王子は凍りついた。


「……お前か」


ドーン!という轟音と共にレオハルト王子がすっ飛んでいく。魔王の強烈な覇気にその場にいた貴族達は悲鳴をあげた。


「ひぃぃぃぃ!!」

「魔王だ! 本物の魔王だ!!」


貴族たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。 


エレオノーラは呆然と立ち尽くしていたが、その腕を騎士が支えるように掴んだ。


「逃げましょう」

「ロナルド……」


ロナルドは幼馴染の騎士だった。エレオノーラとレオハルト王子が婚約してからは距離をおいていた。久しぶりに間近で見たロナルドは、随分逞しくなったように見えた。


「ロナルド、わたくし……」


エレオノーラが心細い気持ちを打ち明けようと口を開いた次の瞬間、ロナルドはハッとしてエレオノーラを後ろ手に庇うように立った。


魔王がこちらを睨んでいる。


「エレオノーラには指一本触れさせん!」

「フン、生意気な……」

「パパー! ダメェ!」


魔王の手がロナルドとエレオノーラに向けられようとした時、リリアナの声が魔王を制した。



「うん、どしたー!」

「あのお姉さんは私の事助けてくれたよぉ」

「おお、そうか……」



ニコっと表情を崩す魔王。エレオノーラは気がついた。


「……確かに、『魔王に勝てる存在』……」


今回の召喚で指定した召喚対象の条件は「魔王に勝てる存在」だった。ある意味リリアナは、魔王に勝てる。パパは娘に激甘らしい。


召喚はある意味成功していたのだ。しかし、条件を過信し過ぎたようだ。



その時、背後で、震える声がした。


「リ、リリアナは、 俺が守る……!」



現れたのは、眼鏡をかけた痩せた青年だ。


リリアナの彼氏(自称)、魔族の落ちこぼれ貴公子アレクシスだった。


いつもはヘタレで泣き虫だが、今は瞳に炎を宿している。



「あ! アレクー! 来てくれたんだぁ! ヤッホー」


「リリアナ! リリアナが突然姿を消したと聞いて! リリアナを攫う奴は許さない! リリアナを離せ!」



ブンッとアレクシスが剣を投げた。



コン


ガシャン!



剣は魔王に弾かれて床に落ちた。



「アレクー! 違うよ! パパだよ! よく見て!」

「え? ハッ? 魔王様? 魔王様がリリアナを攫った……?」

「アレクー! パパはアレクと同じで私を助けに来てくれたんだよ」

「そ、そうっ……うわっ!」


アレクシスの足元に燃え盛る鉄球が落とされた。



「貴様、我に剣を向けたな?」

「わー!! スミマセン! スミマセン!」

「そんなに戦いたいなら、相手をしてやろう!」


突然、魔王とアレクシスの戦いが始まった。空中で真正面から激突する二人。


魔王の漆黒の魔力と、アレクシスの覚醒した深紅の魔力がぶつかり合い、王宮の天井が跡形もなく吹き飛ぶ。


戦いは三分で終わった。


アレクシスはベチャっと地面に倒れ伏していた。


「……ふん。まあ、娘を助けに来たことは褒めてやらなくもない」


「……は、はいっ!!(お父さん)」


アレクシスは這い上がるようにして身を起こし、魔王に頭を下げた。


「……貴様、今、心の中で『お父さん』とか呼ばなかったか?」

「読んでせ……、いえ、呼びましたー」

「貴様……」



第二戦が始まりそうな雰囲気の中、リリアナはふわふわと飛んできて、エレオノーラとロナルドの前に降り立った。


「お姉さん、騎士さん! もうここ危ないよ。建物崩れちゃう」


とエレオノーラと、彼女を守ろうとした一人の騎士ロナルドの手を取る。


「え、ちょっと――」 


光が包んだ。

次の瞬間、三人は丘の上に立っていた。


エレオノーラは呆然と振り返る。

遠くに、燃え盛る王城の姿が見えた。


わずか数分の出来事だった。


リリアナは少し申し訳なさそうに笑った。


「ごめんね。パパ、怒ると止まらないから。またねー」


手を振った。

そしてぽん、と消えた。


残されたエレオノーラは、苦笑いした。


「……婚約破棄された上に、国が滅んだかも……」


ロナルドがそっと肩に手を置く。


「それなら、新しい国で、新しい人生を始めないか?」



エレオノーラは小さく頷いた。


遠く、魔王城では――


魔王とアレクシスが日課の対戦をしていた。


「娘の彼氏、意外とやるな」

「……これから死ぬ気で幸せにします!」

「えへへ、パパもアレクも大好きー!」


わちゃわちゃと楽しそうに過ごしていた。


「魔王に勝てる存在」を召喚しようとした国は、一番召喚してはならない人物を召喚してしまった。


そしてふわふわピンク髪令嬢は、どこかの焼け跡でまだ「私の方が可愛かったのにー!」と喚いていたという。

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― 新着の感想 ―
魔王…武闘派だけど、無法な侵略者ではなさそうな…子煩悩だし 王国側が、一方的に魔族を敵視しているだけなのでは? だとしたら、王国が滅べば問題は解決かな
違いない…! 確かに魔王に勝てる存在だった…! ところでエレオノーラお幸せに(´艸`*) 面白かったです♪
確かに「魔王を倒せる』ですね♪ お菓子やぬいぐるみを用意しておけば良かったね~(笑) ……この王子、ロリコン?だとしたら王国に未来は暗いな~。
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