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Episode5.便利屋セルフィ、探りを入れる


 調査三日目。


 セリフィーヌは、宝物庫の管理責任者の一人である、侍女長との面会に臨んでいた。

 整った身なりに、落ち着いた声と所作。王宮に長年仕えてきた人物らしく、その話しぶりはひとつの隙もない。


 セリフィーヌは無駄のない挨拶を交わし、さっそく首飾りについての聞き取りを始める。


「まずは調書の内容についてお尋ねします。事件当日、衛兵があなたを呼びにきたのは、何時ごろでしたか?」

「午前六時を過ぎたころです。この部屋で、帳簿の記入をしておりました」

「その後のあなたの行動を説明してもらえますか?」

「はい。衛兵から宝物庫の前の床が濡れていると報告を受けた私は、急いで現場を確認しにいきました。すると確かに床が濡れていたので、管理室に走り、宮務長に報告を上げたのち、金庫から鍵を取り出し現場に戻ったのです」


 侍女長の語る内容は、首飾り紛失時に取られた調書の内容と、何一つ差異はない。


 けれど、昨日の衛兵の心の声から、侍女長が嘘をついていることを知っていたセリフィーヌは、質問を重ねた。


「そのとき、床はどれくらい濡れていたか、覚えていますか?」

「ほんのわずかです。すぐに乾いてしまいそうなほど、でしたね」

「それは、水滴を垂らしたような? それとも、濡れ布巾で拭ったくらい? 具体的に教えてください」


 言いながら、セリフィーヌは机の下で足を動かし、そっと侍女長の靴先に触れる。

 瞬間、胸の内から波のように声が溢れてきた。


『どうしてこんなにしつこく聞いてくるのかしら。まさか、何か勘づかれた? ――いいえ、大丈夫。たとえ口を割られたとしても、私さえ黙っていれば、“あの方”には辿りつかないわ』

「……水を垂らしたような、ですが。――あの、もうよろしいかしら。業務に戻らなければなりませんので」


 侍女長が椅子を引きかけ、立ち上がる気配が伝わった瞬間、胸の内に流れ込んできていた声が、ぴたりと途切れた。


 セリフィーヌは顔に出さず、丁寧に礼を述べる。


「ご協力いただき、ありがとうございました。とても参考になりました」


 言葉は形式通り。けれど、その裏で、彼女は疑念を深めていた。


(“あの方”って誰かしら。少なくとも、侍女長が犯人じゃないことはわかったけれど)


 侍女長の背中を見送りながら、セリフィーヌはそっと手帳を閉じる。


(もう一度、声を聞いてみたいわ。でも侍女長にはこれで警戒されてしまっただろうし、難しそうね。何の花びらだったかわかれば、どうにかなりそうなんだけど)


 だがその刹那、セリフィーヌはハッと閃いた。


(そうだわ、逆に考えればいいのよ! 花びらで犯人がわかるということは、ありきたりな・・・・・・花ではない・・・・・はず! それに、侍女長が"あの方"というくらいだから、それなりに地位のある人物に違いないわ! だとしたら――)


 セリフィーヌは唇の端を上げ、次の手を打つため、身を翻した。


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