Episode2.便利屋セルフィ、登城する
王宮の門は、思った以上に大きかった。
金と白を基調とした壮麗な門扉が、近づくにつれて威圧感を増していく。門番の鎧までピカピカに磨かれ、まるで宝飾品のように輝いていた。
(私、浮いてないかしら? 使用人たちのお仕着せの方が、ずっといい生地じゃない?)
セリフィーヌは不安を胸に抱きながら、通行証をぎゅっと握りしめた。
王宮勤めの使用人たちは、どう見ても平民のいで立ちの彼女を一瞥し、小馬鹿にしたような顔で通り過ぎていく。
案内役の侍従が現れたのは、その居心地の悪さが絶頂に達した頃だった。
まともに名乗ることすらせず、無言で先を歩き出す侍従の背に、セリフィーヌは慌ててついていく。
(もっといい服を着てくるんだったわ。かと言って、この服が一番マシなんだから、どうしようもないけど。それに、『便利屋セルフィ』は平民だもの)
階段を二回上り、いくつもの扉を潜り抜けた先にあったのは、一際立派な扉だった。ここに依頼主がいるのだろうか。
ドアをノックする間もなく、扉がするりと開く。
そこに立っていたのは、銀髪に琥珀色の目をした、彫像のように整った顔をした青年だった。名乗られずともわかる。彼こそが今回の依頼主であり、この国の第二王子、エリオス・レグリスだ。
「君が例の"便利屋"か。随分若いが、大丈夫なのか?」
第一声から失礼極まりない。だが、王族などそんなものだろう。
セリフィーヌは背筋を伸ばし、恭しく会釈する。
「便利屋セルフィと申します。平民ですので姓はございません。セルフィとお呼びくださいませ」
平民にしては美しい礼に、エリオスは意外そうに目を細めた。
エリオスも礼を尽くさねばと思ったのか、手を差し出してくる。
「よく来てくれた。ぜひ君の力を貸してくれ」
……あ、と一瞬ためらったが、社交辞令として手を重ねる。
その瞬間――。
『今朝の空も、君の瞳のようだった。曇りなき澄んだ湖。風が薫り、胸が騒ぐ。名も知らぬ娘よ、君のことを、きっと私は――』
「――!?」
(えっ、ちょ、なにこれ、詩……!?)
セリフィーヌの脳内に、突如として叙情詩のような語りが流れ込んできた。しかも真顔だ。
声一つ変えず、感情の起伏ゼロの表情で。
ギャップにも程がある。
(殿下は詩人なの? こんな心の声、初めて聞いたわ……!)
「……なにか?」
無言が長かったのか、エリオスがわずかに眉を上げる。
「い、いえ、何でもありませんわ。ご依頼について、詳しい内容をお聞かせ願えますか?」
慌てて話題を戻すセリフィーヌに、王子はゆるやかに頷いた。
「紛失したのは、代々王妃が受け継ぐ首飾りだ。前の持ち主は、今は亡き王妃――つまり、俺の母上だった。母上亡きあと宝物庫に保管されていたのだが、ひと月前に突然消えた。気付いたのは見回りの衛兵だったが、鍵の破損も侵入の跡もなかった。つまり、内部犯の可能性が高いということだ」
(ああ、まさにややこしいやつ)
だが――面白い。王宮内の失せ物。それも“密室消失”という謎がついてくれば、便利屋冥利に尽きるというものだ。
「鍵についても確認させてください。保管場所と、所持していた方は?」
エリオスは迷いなく答える。
「宝物庫の鍵は、管理室の金庫に保管されている。合鍵は存在しない。鍵の持ち出しを許されているのは、王族以外には二人――宮務長と、宝物庫係の侍女長だけだ」
「事件当時、鍵を最後に使用したのは?」
「俺だ。陛下の誕辰に向けて、宝物の展示を一部確認する必要があった。その二日後に、紛失が発覚した」
手短で正確な説明。だが、その背後に“何かを伏せている気配”がないとは言い切れなかった。
セリフィーヌは、あえて何も言わず頷く。
(なるほど。王族ならば誰でも持ちだせる。そして最後に鍵を使ったのは、エリオス殿下ということね。記録が残っているかどうか、あとで確認しておかないと)
ふっと口角を上げ、言葉を返す。
「承知しました。調査、全力で臨ませていただきますわ、エリオス殿下」