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1 突入


 ガラシア国の西端、国境付近に位置する小さな町レザール。


 その中心部にある大きな屋敷の裏手に、漆黒の外套(マント)を羽織った少年と少女がいた。

 少女は庭木の枝の上。少年は真下の芝生に立ち、これから自分たちが侵入する建物の様子を窺っていた。


「町の人たちの避難、終わったよ。いまはダフニスさんが防御壁を守ってくれてる」


 もう一人。同じく黒外套(マント)の人物が駆けてきて報告した。肩より少し長い栗色の髪の毛を、両サイドでゆったりと束ねた少女だった。


「ありがとリスティ。案外すんなりいったわね」

「みんな前々から怪しんでたみたい。悪い噂もあったって。こんな時間でも納得して指示を聞いてくれたよ。もちろん嫌がる人もいたけど」

「伯爵家の別荘にしちゃ陰気臭いもの。お化け屋敷って言われた方がしっくりくるわよ」


 木の上に立つ少女がやれやれと肩をすくめた。

 腰まで伸びたプラチナブロンドをさらりと揺らし、陰気臭いと評した屋敷を見つめて、空色の目を細める。


「──じゃあ、いきましょうか」


 私たちの心臓(なかま)を取り返しに。


 エリー・オペラは、そう言って自身の体重を支えていた枝を強く蹴った。館の上方まで一瞬のうちに跳躍し、すたんと屋上に着地する。

 

 黒十字騎士団が、長年行方を追っていたその人物の情報を得たのはつい先日のことだった。

 貴族の邸宅だと思われていたレザールの屋敷が、実際にはまったく別の用途で使われていることが判明したのだ。

 数年前に騎士団が突入し、一度は解体に追い込んだある研究施設の残党が、新たな拠点を構えて恐ろしい研究を続けていると。

 屋敷の持ち主であるバルザック伯爵は身に覚えがないと事実を否定し、調べてみると名前だけ利用されていたことがわかった。

 首謀者の名はロニ・セロー。

 三年前、騎士団が取り逃がした危険な人物だ。


「私は上から侵入する。ナナギは裏からお願い。リスティはここで待機して、もしものときはダフニスの援護に向かって」


 下の二人に指示を出し、エリーはその場に膝をついた。

 おさげの少女がこくりと頷き、ナナギと呼ばれた金髪の少年が、自身の眼鏡を無表情に指で押さえる。

 風のない静かな夜。ふわりと舞い上がる黒い外套(マント)と、金色に輝く長髪。

 少女の手が置かれた箇所に、光の紋様が浮かび上がった。

 しかし次の瞬間、その紋様がバチリと弾けた。


「!? 術式がかき消された……!」


 侵入経路を作る魔術の発動を妨害された。

 とっさに立ち上がったエリーを、新たに生まれた禍々しい色の紋様が取り囲む。

 地底から響くような轟音があたりを包み、館全体がぐらぐらと揺れ始めた。


「エリーちゃん!」

「大丈夫! 罠が張ってあったみたいね。こうなったら──」


 強行突破よ。

 緊急事態をものともしない不敵な笑みを浮かべ、少女が右足を高く上げた。


 そして──異様な光を放つ紋様の上から、屋敷の天井を勢いよく踏み抜いた。



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