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着せ替えごっこ

 

「いいね。可愛い。よく似合ってる」


「あ、ありがとうございます……」


「色も形も君に合ってるね。素材も触り心地も申し分ない。買って良かった」



 最高の褒め言葉を、最高に美しい顔で、最高にドン引きさせながら言うのは、この人だけじゃないだろうか……。


 優しいキスを浴びせられながら考える。


 望まれた通り新しいドレスに着替えること数分。当たり前のようにベッドに押し倒され、既に半分以上脱がされそうになっている。本当に見て感想を言っているのか聞きたくなるような早業だ。


 着るなり直ぐ。着るよりも早く。ここまで来ると最早脱がす為に着せたとしか思えない。いいえ、間違いなくそう。


 まぁ、こうなるのはちゃんと分かってた。いつものパターンだから。使用人達も分かりきった様子で「終わったら呼んで下さい」と言って出ていった。


 これが私の仕事。大金への対価。とはいえ、真っ昼間からドレスを捲られ、興奮した様子で足を撫で回され、ゴクリと喉を鳴らされながらストッキングを脱がされている、この状況。なかなか受け入れ難い。


「旦那様…、そろそろお仕事に戻らないといけないのでは?」


「問題ない。今日は夕方まで空いてる」


「そうですか…」



 僅かな希望を持って言った台詞はあっさりと打ち砕かれた。


 今日は夜まで仕事だったはずなのに。多分、新しいドレスが届いたと知って、わざと時間を空けたんだろうな……。沢山あった仕事を急いで終わらせまくって。


 夕方まで空いてるってことは、それまで付き合わなきゃイケなさそう。別にいいけど、ちょっと心配。体力が持つか。



「あ、あの……、せめて優しく……」


「それは君の決めることじゃない」


「……はい」


 ピシャリと言われたら黙るしかなく。逃げたい気持ちは置き去りに口を閉じて素直に身を任せる。


 脱がされたドレスがベッドから滑り落ち、熱を持った目で脚を開かされて息を呑む。引きつつあるのに、どこか期待してしまってる自分も居て。撫でるようにペロリと太ももを舐められて堪らず声が出た。


「ん…、」


 1度声を出せば止めどもない。攻め立てるように奥へと舌を這わされ、痺れるような快感が押し寄せる。際限無く指と舌で。抵抗することも許されずに、ずっと。泣こうが果てようが止まらない。


 何がキツイって頭は割りかし冷静なのに体は溺れるくらい気持ち良くされることだ。ヤメて欲しいのに抗えない。閉じたって簡単に脚を開かされる。


 本当に……。困る。こんなの私じゃない。捨て去ったはずの恥ずかしさが心の奥底に戻ってくる。


 こうなったのも全て侯爵様の所為だ。彼が見境なく私を求めた所為。


 そう。結婚するなり彼は何の躊躇もなく私の体を手に入れて、週3日どころか毎日のように求めてきた。場所時間問わず、侯爵様の思うまま。何度も何度も自分を覚え込ますように私を抱いた。


 その所為か与えられれば欲しくなるし、どうやればどう反応を返すか完全に熟知されている。


 自分よりも自分のことを知っていると言っても嘘にはならない。いつも簡単に快感のスイッチを入れられて、真っ昼間から誰かに声を聞かれやしないかとヒヤヒヤしてしまう。



「そろそろ欲しいなぁ……」


「……ぅ、」


「いいよね?」


「はいっ……」



 押し付けられれば受け入れるしかない。熱くなった欲求を素直に迎え入れる。


 嫌なのにヤメて欲しくなくて、大人しく首に腕を回して声を出すと侯爵様は薄く笑って私を見下ろした。


 侯爵様はこの声が好きだ。いや、正式に言えば“私の声”じゃなく“別の人の声”が好き。彼はずっと私を通して別の人を見ている。


 声だけじゃなく顔や体もそう。侯爵様が長年恋心を抱いている彼のイトコと私を重ねて見てる。本当にビックリするくらい私達はよく似てるから。


 言ってみれば、私は彼女の代わり。初恋で長年好きで夢中で追い掛けて、それでも侯爵様が振り向かせられなかった人。そんな彼女が他の男と結婚したからこそ、侯爵様は街で出会った私を欲しがった。


 彼女と似ている私を見つけて、代わりに…と思ったんだろう。奥様として仕える代わりに弟の治療費を出すと取引を持ち掛けた。


 当初は何故そこまで私を?と理由が分からなかったが、彼女を見て直ぐに分かった。


 他の家族だって身分がどうだとか、どこの馬の骨だか知らない女と結婚なんてと反対することを言っていたらしいが、私と顔を合わせた瞬間、察したように騙り込み、勝手にしなさいと言った。


 そういう訳があって結婚した。私はお金の為に自分を売り、彼は代替え品をお金で買ったのだ。逃げないように見えない鎖で繋がれてる。


 何だか侯爵様の気持ちを考えたら居たたまれない気持ちになってしまった。だって、ずっと好きだった人に振り向いて貰えないなんて切なすぎる。根はそんなに悪い人じゃないのに。



「…リュカ」



 だから重ねた体を抱き締めて耳元で侯爵様の名前を呼んだ。


 これはそう。ちょっとしたサービスみたいなもの。彼女によく似た顔で、彼女によく似た声で、彼女と同じ名前の呼び方をされたら、きっとよく想像出来て良いと思う。完全なる代替え品だ。



「ん…、ごめん。我慢出来ない……」



 抑えようとしたけど、抑えられなかったんだろう。苦しそうな顔で激しくされた。ちょっと腰が引ける。


 熱が上がったところを見ると、言って正解だったし、言って不正解だったみたい。盛り上がられれば盛り上がられるほど、体がキツイ。心も。何だか少し痛んだ気がした。


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