契約事項
ご愛読ありがとうございます。YESとしか言えない契約結婚の始まりです。
『契約書』
僕の発言に全て従うこと。
いかなる時も“はい”で返事。
拒否は認めない。
(何じゃこりゃ……)
「ドレスは脱がせやすいものを。胸元はガッツリと開けて。ガーターベルトとストッキングは必須。出来得る限り肌の露出は多めに」
「はい」
「色は淡い色味の物が良いね。下着もそれで。髪型はハーフアップ。化粧は薄めで頼む。それと僕が帰宅したら手を止めて直ぐに飛んで来ること」
「はぁ……」
「夫婦の営みは週3回以上。望めば何でも言うことを聞かねばならない。呼び名は好きに。膝枕は毎日欠かさず。寝室は一緒にね。浮気は死刑。異論は認めない」
ポンっと書類に判をつき、目の前に座った見目麗しい侯爵様は、とんでもない契約内容を捲し立てる。
口を挟む隙すら与えずに淡々と。豪勢な椅子にふんぞり返って、華やかな金の髪を掻き上げながら。契約結婚と言う名のもと、嫁いで来た私に自分の理想をスラスラと並べている。これが私と結婚する条件だとばかりに。
いいのかな。これで……。ほぼ見た目とスキンシップについての提示しかされていない気がするけど。この館に来る前に侯爵様が言っていた『妻として献身的に仕えて欲しい』とは、このことだろうか。
「ま。とにかく僕が君に望む条件は日々の癒やしだから。そこのところ忘れずに」
「分かりました」
「君からは?」
「特に何も……」
「そうか。ならいい。この事はくれぐれも内密にね」
「えぇ」
「後のことは適当に使用人にでも聞いてやってくれたまえ。以上」
ドンッと大金をテーブルに置き、侯爵様は澄んだ碧眼を楽しげに潤ませてニッと妖しく微笑んだ。思わず生唾を飲み込んだ私を嘲笑うかの如く。ほら。これが欲しいんだろう?と言いたげに。
「よし。先ずは3回まわって僕にキス」
「あの、」
「服もパパっと脱いでこう」
と、無駄に声を弾ませて、彼は甘えるような目付きで私に奥様としての初の仕事を言いつけた。
ド変態と私の愛なし難ありの結婚生活。YESとしか言えない契約結婚の始まりである。