元・皇太子の真相
重度の花粉症で意識消失した杉山花恋は、ゲームの世界らしき世界に転生したと思っていた。
だが、ゲームの世界で『強制スリープモード』に入ることで、現代日本に戻ってきた杉山花恋は、ゲームの世界は夢の中の世界なのだと思っていたが、入院患者が皆同じ世界の夢を見ていることに気づいた。
退院すると、その世界には出てこないという話を聞いた杉山花恋は、退院した今、ゲームの世界を夢に見ることはないと思っていた。
しかし、退院したその夜、杉山花恋はギヤとして、その世界に戻ってきていた。
そして、ギヤがポラン公爵邸の『離れ』の面々に追われる原因となった皇太子が、廃嫡され、もはや追われる心配がなくなったことを知った。
ヒミカからその事実を聞いた矢先、ギヤとヒミカの前に現れたのは、廃嫡されたという元・皇太子だった。
そして、元・皇太子は、現代日本の杉山花恋の同じアパートの隣の部屋に住む、元同級生の白石だった。
元・皇太子は、謎の病を発症したために廃嫡されたとギヤと、ヒミカに告げたのだった。
元・皇太子を見ていたヒミカは、「あっ!」と声を出した。
白石も、ヒミカの『真名』と同姓同名のヒメミヤカレンを知っている様子だったので、知り合いだと気づいたのかもしれないと、思っていると、「この人、ギヤに呪われて花粉症になってる!」と言った。
「へっ?」
元・皇太子を呪った覚えもないし、自分が呪ったら花粉症になるとか聞いたこともないギヤは、間抜けな声を出した。
「あれ?言ってなかったっけ?ギヤは、本気で呪った相手が花粉症になるんだよ!」と、しれっとヒミカが言うと、「だから俺は花粉症になったのか!」と、元・皇太子が、ギヤに掴みかかった。
「そんなこと言われても、皇太子を呪ったりしてないし……」と、ギヤがおろおろしていると、ヒミカが、元・皇太子に、極めて冷静に「皇太子はいつから花粉症症状が出たの?」と尋ねた。
「2~3日前だ」と、元・皇太子が答えると、ヒミカは、ギヤの方を見て、「私たちが、聖地に行こうとした辺りの時じゃない?」と言った。
ヒミカとともに、聖地に言ったあの時、致死量に近い花粉を浴びながら、こんな世界を作ったやつ、呪ってやる、といったようなことは考えたような気がする。
「こんな世界を作ったやつは呪ってやる、みたいなことは考えたけど、皇太子が作ったわけでもないでしょう?」と、ギヤが言うと、明らかに元・皇太子が顔をそむけた。
「俺、現実世界ではゲームクリエイターで……このゲーム、作ったんだよね……」
それを聞いたギヤは、お前のせいか、と、考えていたが、ヒミカは、顔を赤らめていった。
「え?じゃあ、皇太子の中身はシ…イシさんてこと?」
どうやらヒミカは白石を知っているらしいが、何故か、一部分は声が出ていなかった。
あと、顔を赤らめる意味もよく分からなかった。
「あっちの俺のこと、知ってるのか?」
「私、キャラクターデザインをしてた、ヒ…ミ…です!」
「キャラクターデザイン?じゃあ、ヒ…ミ…じゃないか!何でここに?」
どうやら二人とも知り合いだったらしいが、どうやら呼び名に使用している部分以外の『真名』は第三者には聞こえないようになっているようだ。
「そういえば、皇太子は何か呼び名は?」と、ギヤが尋ねると、「『コウタイシ』が呼び名になってるよ!」と、明るい声でヒミカが答えた。
確か、彼の『真名』は、シライシコウタロウ……。確かに、コウタイシを呼び名にできる。
「ところでさ、ヒ…ミ…、じゃなくて、ヒミカは、この世界での意識が途切れることはあるのか?」と、元・皇太子が聞いた。
「え?寝てる時まではわからないけど、起きてる時にこの前のギヤみたいに意識を失ったりとかはないかな」と、ヒミカが答えると、元・皇太子が真剣なまなざしで、「頼みがある!」と、ヒミカの肩を掴んだ。
「この体、俺の制御下にある時とないときがあって、本体はめっちゃバカだから、俺の意識外のところで、気づくとやりたい放題やってるんだ」と、元・皇太子は言った。
「だから、俺の意識外の時に、ヒ…ミ…、じゃなくて、ヒミカに、こいつのこと監視して、なるべくまっとうな道に歩んでほしいんだよ」と、元・皇太子は続けた。
「ここに戻ってきてるってことは、シナリオはやり切ったんだろう?」と、元・皇太子に言われたヒミカは、「さすが、ゲームクリエイターは把握してますね」と、言うと、少し困った顔をした。
「ゲームクリエイターのシ…イシさんには御恩がありますが、はっきり言っておバカな元・皇太子を養いたいとは思えないんですよ」と、歯に衣着せずにヒミカは言った。
「働き先を見つけるとかでもいいから……」と、元・皇太子が言うと、ヒミカは、「でも、私、シナリオにある仕事をしてお礼されたことしかないから、働き口とかよくわかんないし……」と、口ごもった。
そういえば、もはや、『離れ』の面々から追われることがないのであれば、ポラン公爵邸に戻って働くこともできるのでは、と、ギヤは不意に思い立った。
元・皇太子のおバカぶりでどこまで働けるかはわからないが、ポラン公爵邸に雇われていれば、食べるのに困ることはないし、共用の風呂場やトイレ、就寝スペースなども完備されていると聞いたことがある。
ギヤがポラン公爵邸のことを教えると、ヒミカも、元・皇太子も、それは良いと賛成した。
だが、ここは、シードァ神聖国よりのラグウィード共和国。
そしてポラン公爵領は、ラグウィード共和国とは反対側のサイプレス帝国側のシードァ神聖国なので、シードァ神聖国を端から端まで移動するか、ギヤがここまで来た道のりを戻るかのどちらかしかない。
まあ、距離が短いのはシードァ神聖国内を移動する方なのだが、恐らく、花粉症を発症してしまった元・皇太子と、ギヤには酷な道のりになることには変わりない。
それに、元・皇太子は、きらびやかな格好をしていて目立つうえに、顔も知られている。
まずは、元・皇太子の服装を地味にして、目立たないようにしよう。
ギヤと、ヒミカがそう決めたところで、遠くからアラームの音が聞こえてきた。
ここで強制スリープモードに入るのはまずい。
ギヤは、ヒミカに、別れを告げ、自室に戻っていった。
自室に戻ってベッドに入ると、『強制スリープモード』に入り、現代日本で杉山花恋が目を覚ました。
出勤した杉山花恋は、ここまでの休みの申請の書類を書いたりしながら、さりげなく、他のスタッフが見ていない隙に、電子カルテを見てみた。
集中治療室のあの部屋にいた人物が、本当にヒメミャカレンなのかを調べなければ、と、考えていた。
集中治療室に入室している患者の中に、本当にヒメミヤカレンは存在した。
そして、ヒメミヤカレンが入院している部屋は、一昨日に、杉山花恋が不審者が入っていくのを見たあの部屋だ。
あちらの世界のヒミカは、こちらの世界のヒメミヤカレンだった。
そして、ヒメミヤカレンは、どうやら白石の発言からして、あの世界のもとになったゲームのキャラクターデザインをしたのだろうと推測される。
もし、ヒメミヤカレンが、現在集中治療室にいるヒメミヤカレンと同一人物であるのならば、夢の中の世界の成り立ちに大きく関わっていることになる。
杉山花恋は、ミヤのことを思い出した。
夢の中の世界で殺されたミヤ。
同じ日に、こちらの世界で急変して、脳死とされうる状態になったミヤ。
あちらの世界の死が、こちらの世界での脳活動停止につながるのであれば、あの世界は、存在してはならない。
そういえば、ミヤはどうなったのだろう?
「部外者がここで何をしている?」
杉山花恋が集中治療室入室中の患者一覧からミズカワヤヨイの名前を探すよりも前に、背後から声を掛けられ、振り返った。
そこには、見たことのない医者がいた。
名札には「脳神経内科 医師 姫宮和樹」と書いてある。
「あ、姫宮先生、今日は検査に入らなくていいと言われて白衣来てないですけど、先日まで病休で休んでいた杉山さんです」と、上司が、間に入った。
「杉山さん、こちら、今年度からうちの脳神経内科に来た姫宮先生、すごく頼りになる先生よ!」と、上司は杉山花恋に、もめごとは起こすなとう圧をかけた。
一方的に絡まれただけなのだが、と、思いつつも、上司がいる手前、杉山花恋は、大人しく、自己紹介し、よろしくお願いしますと挨拶をした。
「脳神経内科の姫宮です。先ほどは失礼した」と、言うと、姫宮は盛大にくしゃみをした。
「あら?姫宮先生、風邪ですか?」と上司が尋ねると、「三日前ほどから調子が悪くて…」と、言葉を濁した姫宮は、「患者の前に出るときはちゃんとマスクをしていますので…」と言うと、足早に去って行った。
不審者と勘違いした手前、あまりここにいるのは気まずかったのだろうな、と、杉山花恋は気を取り直して、集中治療室入室中患者一覧を見直した。
そこに、ミズカワヤヨイの名前はなかった。
ミズカワヤヨイは亡くなっていた。
「杉山さん!めっちゃ顔色悪いよ!今日帰る?」と、上司が杉山花恋の顔を見て慌てて言ったが、ここまででだいぶ休みをもらってしまっていたので、杉山花恋は、とりあえず様子見にさせてほしいと懇願し、少し早めの休憩に入った。
あの時、執事長に殺されたミヤさんと思われる女性、ミズカワヤヨイが亡くなった。
ミズカワヤヨイのカルテを見てしまった杉山花恋は知ってしまった。
確かに、以前に誰かが言っていたように、ミズカワヤヨイは、最初に集中治療室に入った後、回復し、急変するような状況ではなかった。
だが、あちらの世界でミヤが執事長に刺されたあの日、ミズカワヤヨイは急変し、心肺停止状態になった。
幸か不幸か、心拍は再開されたが、脳には重大なダメージが残り、つい昨日、心臓も止まってしまったようだった。
夢の中のあの世界は、あってはならない。
ミヤのようにあの世界のせいで殺されるような人がいてはならない。
あのゲームを作ったゲームクリエイターだという白石は、何か知ってるかもしれない。
杉山花恋は、メモ帳に書かれた白石の連絡先のページを開いた。
前話を投稿したときは、白石の名前が別の名前になっていましたが、この話を書いている途中で白石の方が都合がよいと気づき慌てて名前を変えたので、前話投稿直後にご覧になった読者様がいらっしゃったら、混乱されておられるかと思います。
改めて前話に戻っていただきますと、しれっと名前が変わっておりますので、以前に見た名前はさっくり忘れてください。




